Okta Japanは2月16日、Oktaのグローバルにおけるユーザーの匿名化されたデータをもとに、業務アプリの利用動向を調査する年次調査「Businesses at Work 2023」の結果を発表した。同日にオンラインによる記者説明会を開催した。
大企業では平均211個のアプリを利用
調査は、同社ユーザー1万7,000社以上が活用している7,400以上のアプリケーションと連携する「Okta Integration Network」(OIN)の匿名化されたデータにもとづき、Okta経由でどのような業務アプリが使われているのかを分析することで、組織や人々の働き方の動向を把握することを可能としている。
調査のデータは、OktaのユーザーやOINを用いて接続するアプリとの統合、ユーザーが同社のサービスを通じて、これらのアプリにアクセスする方法を反映。例えばOktaでMicrosoft 365を利用するユーザーの傾向は、Oktaを使用しない同ユーザー(例えば、Azure Active Directory、またはそのほかのIDプラットフォームを使用するユーザー)では異なる場合がある。
対象企業は中小企業から数十万人の従業員または数百万人の顧客を抱える大企業まで、あらゆる主要産業にまたがり、規模もさまざま。今回の調査は、2021年11月1日から2022年10月31日までのデータを分析し、2015年の調査以降、今回が9回目となる。
米Okta コンテンツマーケティング担当ディレクターのローレン・エベリット氏は「Oktaのユーザーは、業務に応じてさまざまなアプリを利用しており、今回の調査では昨年と同じく1社平均89個のアプリを使用していることが分かった。また、従業員2,000人以上の大規模組織では、前年の平均195個から8%増の平均211個のアプリを利用していることが判明し、2016年比で100%増加している」と述べた。
「成長リーダー」のアプリは15個
過去の調査では、最も人気のある業務アプリのランキングとして、顧客数、ユニークユーザー数それぞれで最も人気のあるトップ15を紹介したが、今回の調査からは顧客数とユニークユーザー数の両面における前年比の成長率をベースとした、トップ50の業務アプリの位置付けを示すマトリクス表を使用している。
色のついた各アプリの円の大きさは顧客数の規模を表し、右上の第一象限の中にあるアプリは、顧客数とユニークユーザー数の両面での成長率が平均以上の「成長リーダー」となる。
左上の第二象限の中にあるアプリは、ユニークユーザー数で平均以上の成長率があったアプリ、右下の第三象限の中にあるアプリは顧客数で平均以上の成長率があったアプリ、左下の第四象限の中にあるアプリは、顧客数とユニークユーザー数の両面での成長率が平均以下のアプリ。各アプリの円の大きさは顧客数の規模を表す。
今回、右上の第一象限に入った成長リーダーは15個のアプリ。大きく分けてコラボレーションアプリ(Figma、Miro、Asana)、セキュリティアプリ(1Password、LastPass、Zscaler、KnowBe4、Cisco Umbrella)、開発者アプリ(Sentry、Datadog、GitHub、PagerDuty)、セールス&マーケティングアプリ(HubSpot、Freshworks)、ビジネス購買アプリ(Amazon Business)の5つのカテゴリーに分類される。
顧客数の規模によるランキングでは、顧客数でトップのアプリはMicrosoft 365、次いでAWS、Google Workspace、Salesforce、Zoom、Atlassian Product Suite、Slack、DocuSign、KnowBe4と続く。1位から9位までのランキングは昨年と変わらないが、GitHubが昨年より2つポジションを上げて、10位となったほか、Jamf Proが今回初めて15位にランクインした。
最も急成長した業務アプリ
最も急成長した業務アプリ(顧客数ベース)のトップ10は、セキュリティアプリ、コミュニケーションアプリ、人事アプリ、企業旅行アプリ、開発者アプリ、コラボレーションアプリなど、幅広いアプリがランクイン。
その中で最も急成長した業務アプリ(顧客数ベース)は、Appleのモバイルデバイス管理に特化したアプリのKandjiで、顧客数の成長率が前年比172%増となった。
エベリット氏は「Kandjiを利用することでIT管理者は反復作業を自動化することができ、デバイス管理の領域において新しい機能を提供できるようになる。この急成長はITチームが少ない人員で、より多くの作業を行う中で自動化に対して強い需要があるからだ」との認識だ。
前回、急成長した業務アプリのトップ10のうち3個のアプリが、今回もランクインしており、昨年1位だったNotionが今回は前年比113%増で第4位、昨年2位だった業務渡航アプリのTripActionsは名前をNavanに変更し、前年比100%増で第6位、昨年4位だったFigmaは前年比81%増で第10位となった。
一方、従業員数2,000人以上の大企業と中小企業ではニーズや優先順位が異なり、大企業はITサポート、プロジェクト管理、コラボレーションのアプリ、中小企業は予算支出管理のアプリにそれぞれ重点を置いているという。
業界別ではテック関連は顧客数でKandji、ユニークユーザー数で外部会議などを管理する「Calendly」、金融・銀行が顧客数でコラボレーションアプリの「Figma」、ユニークユーザー数でクラウドセキュリティの「Netskope」などとなっている。
日本で人気の業務アプリはSalesforceが突出
今回の調査では、初めて日本国内のユーザーデータをもとに、顧客数とユニークユーザー数の両面における前年比の成長率をもとに、日本国内独自の人気業務アプリのマトリクス表を作成している。
マトリクス表では、顧客数が少ないアプリは成長率を誇張してしまうため、顧客数が少ないアプリを除外する閾値を設けて、7個のアプリに限定して調査。
マトリクス表の右上の第一象限に入った日本国内の成長リーダーアプリは、Salesforce、Google Workspace、Microsoft 365となり、突出しているのはSalesforceで、ユニークユーザー数で前年比133%の伸びを示している。
AWSはユニークユーザー数で前年比80%の伸びとなったほか、Boxの顧客数とユニークユーザー数による前年比成長率はSlackやZoomよりも高くなっている。顧客数の規模ではGoogle Workspaceがトップとなり、続いてMicrosoft 365、AWS、Slack、Box、Salesforce、Zoomとなる。
ベストオブブリードアプリの採用傾向
ベストオブブリードについて、エベリット氏は「組織はアプリの多様化を進めようとしており、従来からのスイート製品だけを利用するのではなく、ほかのアプリを補完的に使う動きがある。例えば、Microsoft Teamsのみを使うのではなく、Slackを補完的に使うこともある。ベストオブブリードのアプリの定義は、アプリが提供する単独の機能がカテゴリーを独占的に支配しているという意味でベストオブブリードと呼ぶ。例えば、SlackやZoomなどが挙げられる」と説明した。
毎年、OktaのMicrosoft 365ユーザーがMicrosoft 365スイートとは別にどのようなベストオブブリードアプリ(Zoom、Slackなど)を採用しているのか調査しており、今回はOktaのMicrosoftユーザーの36%が4つ以上のベストオブブリードアプリを使用していることが分かったという(5年前の20%から上昇)。
また、OktaのMicrosoft 365ユーザーの48%(2022年は45%)がZoomを利用し、36%(同33%)がSlackを利用していたことに加え、OktaのMicrosoft 365ユーザーの42%(同38%)は、Google Workspaceを利用していた。
同氏は「従業員が2,000人以下の中小企業の方がMicrosoft 365のバンドルをベストオブブリードのアプリで補完する傾向が強い。例えば、Zoomを使用している企業は大企業よりも中小企業の方が8ポイント高い」と述べている。
マルチクラウドの台頭と最も人気のあるクラウドコンボ
企業はAmazon Web Services(AWS)やMicrosoft Azure、Google Cloud Platform(GCP)以外にも幅広くクラウドを活用するようになっているという。
成長リーダーはTerraform Cloud、MongoDB Atlas、GCPとなる。Terraform Cloudは顧客数で前年比93%増、ユニークユーザー数で同192%増、MongoDB Atlasは顧客数で同68%増、ユニークユーザー数で同125%増、GCPが顧客数で同40%増、ユニークユーザー数で同60%増となっている。
顧客数では依然としてAWSが引き続きトップであり、顧客数は前年比27%増、ユニークユーザー数は同50%増となった。
一方、最も人気のあるクラウドコンボはOktaユーザーの39%はOINを通じてクラウドプラットフォームを導入し、うち14%は2つ以上のクラウドプラットフォームを導入。AWSとGCPの両方を導入しているユーザーは2年前の2.6%から3.0%に増加した半面、AzureとAWSは2.4%から2.2%に減少している。
職場におけるセキュリティのトレンド、開発者に人気のアプリ
職場におけるセキュリティは、リモートワーカーのネット接続を保護するためVPN/ファイアウォールが顧客数で前年比31%増、トレーニングアプリは同39%増、インフラ監視は同29%増となった。
また、最も人気のある多要素認証(MFA)について、今回の調査結果をふまえるとOktaユーザーは、セキュリティ質問のような安全性の低いMFA要素に頼ることが少なくなっているという。
ブラウザや関連するWebサービスの基盤に組み込む標準のWeb APIを定義したWebAuthnを含む、より安全性が高いMFA要素であるセキュリティキーや生体認証の利用は、顧客数で前年比46%増、ユニークユーザー数で前年比211%増と急速に増加。
スマートフォンにワンタイムパスワードを送る所有ベースの要素であるOkta Verifyは、現在88%のユーザーに導入されており、2年前と比較して6ポイント増加しているが、安全性の低いMFA要素である電子メールの利用が増加している。パンデミック以前は、MFA要素のためにEメールを使用しているユーザーは2%未満だったものの、現在では12%に上昇し、顧客数で前年比58%増となった。
MFA要素の業界別における利用状況に関して、エベリット氏は「教育、金融・銀行、メディア・コミュニケーション、不動産、小売の業界は認証としてのセキュリティ上の質問の仕組みから離れてきており、これは朗報だ。また、生体認証やセキュリティキーなど保証度合いの高いファクターを使う傾向は輸送・倉庫業、エネルギー、石油・ガスの業界で増加している。しかし、大半の業界でEメールを使う傾向が強くなっていることは残念なことだ」と指摘する。
WebAuthnを導入しているユーザーは、ハイテク業界が前年比48%増と過去2年間では174%増となり、金融・銀行業界では同59%で254%増となった。
さらに、最も人気の開発者アプリはAPIテストツール「Postman」が顧客数で前年比78%増、ユニークユーザー数で168%増、機能管理ツールの「LaunchDarkly」は顧客数で同74%増、ユニークユーザー数で同97%増、モニタリングツールのSentryが顧客数で同53%増、ユニークユーザー数で同128%増となった。
エベリット氏は「開発者アプリでは、システムモニタリングのアプリや対応が迅速にできるアプリが成長しており、開発者は開発の後工程にフォーカスしてきていることが示されている」と述べていた。