IPA(独立行政法人情報処理推進機構)は2月9日、2021年10月に日本企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進に資する情報を戦略・人材・技術の面から総合的に提供することを目的として発行された「DX白書2021」に引き続き、第2弾となる「DX白書2023~進み始めた『デジタル』、進まない『トランスフォーメーション~』」のPDF版の公開に合わせて記者説明会を開催した。
説明会には、IPA社会基盤センター イノベーション推進部の部長である古明地正俊氏が登壇し、「DX白書2023」の概要とDX取り組み状況の経年変化・最新動向や、DX推進における課題や求められる取り組みの方向性などについて解説した。
5つの特徴を持つ「DX白書2023」とは?
IPAは、2009年から「IT人材白書」、2017年から「AI白書」を発行し、IT人材や新技術の動向について情報を発信している。2021年には、企業の競争環境が急速に変化し、効率化やコスト削減のためのIT活用のみならず新しいビジネスモデルやサービスを創出するデジタル技術の利活用への対応が不可避となっていることを背景に、「DX白書」を創刊した。
PDF版の発行が開始された「DX白書2023」は、国内DX事例の分析に基づくDX取り組み状況の概観、日米企業アンケート調査結果の経年変化や最新動向、DX推進への課題や求められる取り組みの方向性などについて解説している。
「DX白書2023の特徴は、大きく分けて5点あります。1つ目は、新たにDXの取り組み事例分析を踏まえ、日本におけるDXの取り組み状況を俯瞰しているという点です」(古明地氏)
「DX白書2023」では、154件の公開事例を分析したうえで、日本のDX事例を「企業規模」「産業」「地域」の3つの軸で俯瞰図として可視化することで、読者の規模、業界、地域性など、自身の状況やニーズに応じたDX事例を探しやすくすることに寄与している。
また、2つ目の特徴は、DX白書2021に引き続き実施された日米企業を対象に実施したアンケートをもとに、DXの取り組み状態の経年変化・最新動向を分析していることだ。
アンケート調査では、日本企業のDXはデジタイゼーションやデジタライゼーションの領域で成果は上がっているものの、顧客価値創出やビジネスモデルの変革といったトランスフォーメーションのレベルでは成果創出が不十分であることが判明したという。
「DXの取り組み状況・経年変化・最新動向などを踏まえ、DX推進における課題を抽出するとともに、求められる取り組みの方向性の示唆も盛り込んでいます。これが3つ目の特徴です」(古明地氏)
続いて、4点目の特徴としては、IPAに有識者委員会を設置し、現場の経営者や技術、IT人材に関する専門家の知見を盛り込んでいることが、また、5点目の特徴には経営層向けに白書全体の要点をまとめた「エグゼクティブサマリー」を総論として提供することが挙げられた。
「デジタル化」だけでなく「トランスフォーメーション」も
DX白書2023は、37ページを5つに分けるように構成されている。
第1部では、「総論」として概要や調査事業概要などの説明が語られているが、それ以降は「俯瞰」「戦略」「人材」「技術」といったテーマでそれぞれ展開されている。
第2部では、「俯瞰」をテーマとして文献調査や事例分析による国内産業のDXの取り組み状況の分析を行っている。
調査は、前述したように、公表情報から収集した154件のDX事例を分析し、DXの取組を俯瞰図として整理するという方法で行ったという。これにより、規模や産業、地域などの視点で自社の取り組みに参考となる具体的な事例を参照できるほか、業務改革から事業改革への展開や周辺地域の取り組みとの連携などを図る際の参考となることが期待されている。
また、「戦略」「人材」「技術」がテーマの第3~5部では、複数の企業へのインタビュー、有識者へのインタビュー、有識者コラムといった事例を紹介している。
そして付録としては、国内・米国・欧州・中国におけるデジタル関連制度政策を概観した「【制度政策】制度政策動向」が3月から公開される予定だという。
最後に、古明地氏は今後の展望として、以下のように述べた。
「現代では、DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉を重要視していますが、『デジタル化』のみに着目する企業が多く、『トランスフォーメーション』まで達していないという実情があります。私たちは、経営者をはじめとしたあらゆるビジネスパーソンが本白書を参照し、自社のDX推進に必要となる戦略策定、人材確保、デジタル技術の利活用について具体的な手立てを検討していくことで、日本企業のDX推進が加速することを期待しています」(古明地氏)