デル・テクノロジーは1月末が年度末となる。そこで、代表取締役社長の大塚俊彦氏に、昨年度の振り返りと、新年度の注力領域について聞いた。

  • デル・テクノロジー 代表取締役社長 大塚俊彦氏

御社は1月末が年度末となりますが、昨年度を振り返っての印象を聞かせてください。

大塚氏:お客様の状況としては、昨年はより一層DXが加速した年だったと思います。経済環境は不透明で、いろいろな変化が大きい中でしたが、企業にとってDXの推進は競争力上欠かせない要素になっています。その勢いは止どまるところがなく、進んでいると思います。私どももそこに寄り添いながら、4つの領域でお客様の変革に貢献しようと進めてきました。

1つ目はマルチクラウドを含めたお客様のIT全体の変革で、インフラの変革と言っていいと思います。2つ目が働き方改革のさらなる高度化で、これはコロナ禍でずいぶん改革されたと思いますが、また新しいものが求められてきています。3つ目はデータ利活用で、データを活用して新しい収益源を作っていこうという取り組みです。4つ目はセキュリティで、とくにサイバーセキュリティ対応になります。この4つの領域において、お客様の変革に貢献するために進めてきています。

昨年は、テクノロジー的にも、ハイブリッドクラウド/マルチクラウド、5G、エッジ、データ活用/データマネージメント、AI/ML(マシンラーニング)、セキュリティの6つで新しいソリューションを出させていただいて、新しいPowerEdgeを出しましたし、ストレージもPowerシリーズを大幅に増強するなど、製品の拡充もかなり図ってきました。

おかげさまで、業績は堅調に推移しており、昨年度の第3四半期は、サーバ/ストレージ領域のISG製品は、前年度比で12%の成長がありました。これは7期連続で、お客様のデジタル変革の加速が明確になってきたと思います。また、それに対してのわれわれの戦略も功を奏していると思います。

コロナ禍で、お客様の傾向や意識が変わったと感じることはありましたか?

大塚氏:2020年は一番最初に整備しなければならない部分は、働き方改革だったと思います。ハイブリッドワーク/リモートワークをスピーディーに強化するということで、ここへの投資が第一段階として加速しました。

それが一旦が落ち着いて、非接触社会やデジタル変革を一気に加速していかなければならないというのが2020年後半から2021年、あるいは2022年にかけてだったと思います。お客様も新しいプロジェクトをどんどん作っていき、それに向けての人材育成、内製化の流れがあり、DXを実現するための最適なインフラストラクチャーを作っていかなければいけないという部分が、2021年くらいから本格的になってきた感じがします。

われわれが提供しているインフラストラクチャーには2つの面があると思います。1つは最新鋭化、自動化、あるいはクラウド対応してコストセーブしていくことです。コストセーブしながら、堅牢性やフレキシビリティを高めてデジタル変革への投資にシフトをしていくところが第一段階だと思います。

もう1点、昨年くらいから顕著になってきているのは、デジタル変革を実現するための最適なインフラストラクチャーをどういう風に構築していくかということです。コストセーブはその一部ですが、それに加えて、Speed to Marketで、新しい製品やサービスの投入をどれだけ早められるのか、あるいはマルチクラウド時代において、パフォーマンスを最適化して、どう最良のユーザーエクスペリエンスを提供していくか、デベロッパーの生産性をどういう風に高めていくかなど、要望もより多岐になってきています。

大手企業と中堅中小企業でこのあたりに違いはありましたか?

大塚氏:企業は自前である程度のDX人材を育成強化していく部分を一層強化していくところだと思いますが、中堅企業は、人材をどう確保して育成していくかというところが大きなチャレンジになっています。

先ほど、ISG製品が伸びているという話がありましたが、要因として何か考えられますか?

大塚氏:デジタル変革実現のためにインフラストラクチャーを高度化していこうという流れが、コロナになって2年目ぐらいから出てきました。AI/MLやリアルタイム性を要求するものなど、さまざまなワークロードが広がってきている中で、お客様の最新鋭化の需要が大きいと思います。

コロナ禍で御社の営業スタイルも変化しましたか?

大塚氏:最初の頃は対面会議の制約もありましたが、生産性を落とさないために、最初の2年はオンラインでの需要創造活動をやりました。オンサイトのセミナーもそうです。あとはお客様ごとにブリーフィングルームを活用したり、バーチャルでざまざまなブリーフィングを実施しました。リモートの世界がグローバルで進展したというのは大きなメリットでした。

以前はエグゼクティブブリーフィングを本社の人間を呼んでやるとなると、来日してもらってお客様のところに行ってやっていましたが、最近では米国本社の開発者や幹部がバーチャルで行う回数はかなり増えました。今日、明日やろうということもあります。お客様も日本国内の事例のみならず、海外のさまざまなトレンドを、より親しみを持って入手しやすくなったと思っています。また、インサイドセールスがリモートでできる環境もコロナ初期の段階で整え、しっかりと機能していると思います。

加えて、インサイドセールスで対応できる守備範囲を広げ、お客様に直接接して活動する営業は、よりお客様のDXの実現に直結するような分野に活動がシフトできるように進めてきました。

2021年9月、東京都大手町にオフィスを移転しましたが、その狙いを改めて教えてください。

大塚氏:まずは3カ所(川崎、新宿、三田)に分散していたオフィスを1カ所にまとめ、ワンチームでやっていける点がありますが、お客様に近いというのは大きなメリットだと思います。お客様の本社や官公庁など、よりお客様に近い距離に移転し、物理的な距離だけではなく、より信頼される関係作りという意味で、近いというのが一つ大きな要素になっています。

そして一番大きいのは、本社をお客様との共創の場と位置付けており、お客様にお越しいただいて、パートナー様と一緒に最新情報、ソリューション、全世界でのDX事例を共有させていただきながら、お客様のデジタル変革のアジェンダをつくっていく場所となっている点です。

APEXに対する日本の顧客の関心度はいかがでしょうか?

大塚氏:非常に高いと思います。APEXについては、これまではカスタムメイドを中心にやってきており、大手のお客様を中心にかなりの引き合いがあります。最近はターンキー方式(すぐに使える状態で提供する)をストレージサービスから始め、ハイパーコンバージド等に展開していくという流れで進めています、これはパブリッククラウドと同様のエクスペリエンスを、オンプレミスで平易に導入でき、サブスクリプション型でコストのフレキシビリティも高まっていますので、引き合いや関心は高く、来年度、大きく成長させていこうと思っています。

それは、コストが抑えられる点をメリットと感じているということでしょうか?

大塚氏:やはり、コストが平準化でき、需要に応じて最適化ができるという点だと思います。資源の拡張やアップグレードの作業から解放されて、より新しいDXアプリケーションにシフトできるところがベネフィットになっています。

日本でのAPEX強化策のようなものは、考えていますか?

大塚氏:それはもちろんありますが、われわれとしては、お客様の選択肢をより多く提供していくということで、従来の買い取りモデルも続けます。今後、どちらのタイプが伸びていくのかというと、明らかにAPEXの方が伸びていくと思いますが、どちらもしっかりと需要に応えて提供していきます。

私どもでは、APEXをマルチクラウド全体の戦略を支えるための一つの大きな手段と位置づけています。クラウドというのは場所の議論ではなく、アーキテクチャです。われわれはお客様に最適なアーキテクチャを提供して、DXのアウトプットを最大化してほしいという思いでマルチクラウド戦略を推進しています。

われわれがいうマルチクラウドの中身としては、当然パブリッククラウドがあり、プライベートクラウド(オンプレミス)、それから今後増えていくだろうコロケーションがあります。やはりデータセンターを最適に利用して、特にプライベートとパブリックの近接性っていうところが重要なってきますので、こうした需要もコロケーションで増えていくでしょう。それから、今後さらに重要な役割を果たしていくのがエッジで、エッジもクラウドの一部と捉えており、この4つがハーモナイズした形で、お客様にとって適材適所による最適な活用ができるような形のアーキテクチャを供していきます。それは、お客様のDXの効果を最大化するためで、マルチクラウド全体でコストを最適化したいということです。ある一定のところが膨れ上がったり、柔軟にワークシフトできないと、なかなかコストの最適化を図れないと思います。

2月からの新年度では、どの部分に注力するのでしょうか?

大塚氏:4つの領域というのは継続して一貫性をもってやっていこうと思っています。来年はその中でもマルチクラウド、エッジというところを包含したITの最新鋭化を一層強化していきたいと思います。

サイバーセキュリティは、企業の最も重要な経営課題の一つになってきていますから、そちらもマルチクラウドを横断的に支援していきたいと思います。

特にこの3つにフォーカスしながら事業を進めていきたいと思っています。もちろん、位置づけとしてAPEXがより一層重要な役割を占めてきますので、本格的な立ち上げが1つの大きな戦略になります。

デジタル変革の流れは加速していくということで、DXを実現する最強のインフラストラクチャーを4本柱、特にマルチクラウド戦略を拡充して、DXを実現する上でお客様にとっての最適なマルチクラウドインフラストラクチャーを提供していきたいと思っています。そのために、われわれ自身のその変革もしっかりやっていきたいと思います。

われわれの提供するインフラストラクチャーが、ビジネス効果というアウトカムに直結するようにしっかりとお客様に提案、デリバーしていける体制をより一層強化していくということで、社内の人材のさらなる育成成長も、しっかりやっていきたいと思います。それがわれわれの成長にもつながっていくと思います。