私たちの日常に少しずつ溶け込んでいく最新のテクノロジー。例えば、最初は夢物語のようだったAR(Augmented Reality:拡張現実)やVR(Virtual Reality:仮想現実)といった技術も、今ではさまざまなイベントやゲームなどで使われることが増え、“当たり前”のそんざいになりつつある。こうした最新技術を浸透させていくには、まず「ワクワク感を持って、触れてもらう」ことが肝要だ。
そんな取り組みの1つに、KDDIとサッポロビール社が協働で進めた体験プロジェクト「XR Project @YEBISU β.ver」がある。同プロジェクトは何を目的に始まり、何を得たのか。その成果を今後、どのように活用していく予定なのか。プロジェクトの技術開発を担当したKDDIテクノロジーの額邦行氏にお話を伺った。
ヱビスビールへの思いを載せたプロジェクト
2021年12月から始まった「XR Project @YEBISU β.ver」。その始まりにはまず、サッポロビール社のヱビスビールや恵比寿の街に対する思いがある。ヱビスビールは1890年、サッポロビール社の前身の一つである日本麦酒醸造會社が恵比寿で作り始めたビールだ。1988年の恵比寿工場閉鎖に伴い、1994年には跡地に恵比寿ガーデンプレイスが誕生。2010年にヱビスビール記念館が開館した。「ビールづくりで自分たちの足跡を残す、地域還元のため、恵比寿のあの場所で思いを伝えていこうという気持ちがある」と、額氏はサッポロビール社の気持ちを代弁する。
また当時は、ヱビスビールのプロモーションに意外性のあるものとのコラボレーションを採り入れ、新たなビールとの付き合い方を提案している段階でもあったという。元々ARプロジェクトをいくつも手掛けていたKDDIの担当者と「化学反応が起き」(額氏)、プロジェクトは2021年夏に、本格スタートを切った。実施までの期間は約1年。コロナ禍の影響を受け、記念館をいつどのようなかたちで開館し、どうお客さまを入れるかなど、不透明な部分も多い中での船出だったと同氏は振り返る。
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ARが身近ではない人でも楽しめるコンテンツを
今回のプロジェクトでは主に2つの取り組みが行われた。1つは記念館で開催される館内ガイドツアー内でスマートフォンあるいはスマートグラスを用いたAR体験だ。かつての恵比寿工場を再現したジオラマを見つつ、細部の写真をARで浮かび上がらせる「歴史を学ぶコンテンツ」を体験した後には、実物のビールを試飲し、その味わいを深く堪能できる仕掛けになっている。ツアー参加者からは「ビールがさらに美味しく飲めた」という感想も集まったそうだ。また、同ツアーはWeb予約ではなく、現地での予約か電話予約のみで参加者を募った。
「デジタルネイティブの方よりも、恵比寿周辺に住んでいらっしゃるとか、ヱビスビールが好きだという人に集まってほしいという考えがありました」(額氏)
ツアーでは、デバイスをうまく操作できない、上手くARを映し出せないといったことのないよう、ツアーガイドが積極的にサポートを行い、デジタルテクノロジーに初めて触れる参加者も楽しめる内容を心掛けたという。
もう1つは恵比寿ガーデンプレイス内の広場でのAR体験で、こちらはスマートフォンから専用サイトにアクセスし、「現地でAR体験」ボタンを押すだけで、かつてのビール工場や鉄道発着所など、約130年前の姿を知ることができるというものだ。専用アプリのダウンロードなどは不要だったこともあり、実施当時は多くの人がスマートフォンをかざす姿が見られたという。