オープンソースを活用したクラウドデータインフラ向けサービスを提供するAiven Japanが、日本での活動を本格化する。2022年6月に、日本法人を設立したことを正式発表してから約半年を経過。「2023年を、日本における認知度向上の1年とし、最初の一歩は『知る人ぞ知る』と言われる水準にまで高めたい」と、Aiven Japan カントリーマネージャの嘉門延親氏と語る。日本におけるパートナー連携を強化する1年にもなりそうだ。Aiven Japanの嘉門カントリーマネージャに、日本における事業展開について聞いた。

  • Aiven Japan カントリーマネージャー 嘉門延親氏

    Aiven Japan カントリーマネージャー 嘉門延親氏

Aivenとは

Aiven (アイベン)は、オープンソースサービスと主要パブリッククラウドサービスを、ひとつのプラットフォームにまとめ、クラウドデータインフラストラクチャーとして提供。インフラの管理を行うことで、開発者の時間の節約や事業のコスト削減を実現することができる。自らを「マルチクラウド型のDBaaS企業」と位置づけており、マルチクラウド環境で、データパイプラインを構築するといった用途では、直接競合する企業はないとする。また、「set-it-and-forget it(一度設定したら後はそのまま)」を、サービスの基本方針に掲げており、開発者が、開発者のための設計したサービスであることも強調する。

  • Aivenの画面

    Aivenの画面

2016年にフィンランドで設立し、ベルリン、ボストン、パリ、シンガポール、シドニー、トロントに拠点を展開。2022年4月には日本法人を設立。同年6月にカントリーマネージャに嘉門延親氏が就任し、日本での事業開始を正式に公表した。

全世界100以上の地域で展開し、業種や規模を問わずに1000社以上が導入。メキシコの大手トラック会社や英国政府などのほか、日本の企業ではトヨタ自動車が海外拠点で採用している例がある。社員数は約560人で、そのうち、250人以上がOSS技術とクラウドのエキスパートだという。

  • Aivenとは

    Aivenとは

米フォーブス誌が発表した2022年の世界プライベートクラウド企業トップ100社にも選出され、VCであるAtomico、Earlybird、Eurazeo、IVP、Lifeline、Salesforce Venturesに加えて、日本のWorld Innovation Labの支援も受け、評価額で30億ドルを達成。現時点で4億2000 万ドルの資金を調達している。

Aiven Japan カントリーマネージャの嘉門延親氏は、「Aivenは、アプリケーション開発者だった4人の創業者によって設立され、自分たちで納得ができるパブリッククラウド上のデータ基盤サービスを構築することから事業をスタートした。欧州での展開から開始し、現在では欧州と北米の売上構成比がほぼ同等規模になっている。APACでの成長が今後の鍵であり、日本市場はその牽引役になる」と語る。

嘉門カントリーマネージャは、「Aivenの最大の特徴は、主要なパブリッククラウドサービスの上に、マルチクラウド環境で、データ基盤を一瞬で展開できる点にある」と述べる。

Aivenを通じて、PostgreSQL、Apache Kafka、My SQL、OpenSearchなどの11種類のオープンソースデータテクノロジーを活用したデータ基盤を、AWS、Google Cloud、Microsoft Azure、Digital Ocean、Up Cloudの5つのクラウドサービス上に、わずか10分で構築。クラウド間のデータ移行やデータコピーなども可能になる。

「理想のデータ基盤を、既存体制のまま、すぐに導入でき、データインフラをシンプルに構成することが可能になる。クラウドプロバイダーのサービスでは、仮想ネットワークのセットアップや接続先の構築といった準備、データベースの作成方法の選択やオプションの設定といった構築および導入、バージョンアップやアップグレードなどの運用において、様々な工数が発生するが、DBaaSであるAivenでは、準備、運用においては自動化によって、これらの作業がなくなる。アップデートの作業ひとつをとっても10分の1以下に工数は削減できるだろう。また、構築および導入においても、データ基盤種別選択とクラウド選択、プラン選択だけのシンプルな操作で完了する。DXを推進する上で重要となるデータ基盤の準備から運用に関わる工数が減少し、開発者は本来の業務であるアプリケーション開発に注力できるようになる」とする。

また、「数カ月かかるような作業を、数クリックで実現することができるため、最も困難なデータの同期に関わる問題を解決し、多くの企業が抱える人材不足の課題にも対応することができる。設立から約6年で、1000社以上が導入している理由はここにある」とも語る。

嘉門カントリーマネージャは、日本でマルチクラウドの進展が遅れている理由のひとつに、AWSとGCP、Azureなど、複数のクラウドサービスに精通したエンジニアや、複数のクラウド間のネットワーク接続に関する経験が不足していることを指摘。Aivenでは、こうした課題を解決できることも示した。

さらに、Aivenの価格設定は、サーバーとキャパシティを設定するだけのシンプルな体系としており、そこには、バックアップやネットワーク費用を含んでいる。そのため、データが増大するIoT環境などにおいてもネットワークコストの上昇を気にせず安心して利用できる特徴を持つ。これは、マルチクラウド環境においてもメリットが生まれており、たとえば、AWS上にデータがあっても、冗長化するためにGCPに展開したいといった利用や、解析基盤にはBigQueryを使用したいといったようなクラウド独自の機能を活用したい場合においても、Aivenがサービスのなかでコストを吸収する。

  • Aivenの価格設定

    Aivenの価格設定

「特定のクラウドプロバイダーにロックインされず、なにかがあったときにデータを移行できるオプションを用意しておくという中長期的視点での準備にも活用できるサービス」と位置づけた。

また、年間ダウンタイムは、99.99%となっており、年間0.9時間に留まっている点も特徴のひとつだ。クラウドプロバイダーのSLAよりも高い可用性を実現しているために、Aivenを選択するエンタープライズ企業もあるという。

Aivenの導入事例として、英国の大手独立系エネルギー企業であるOVOエナジーが公表されている。100万台のスマートメーターから収集するデータをもとに分析した内容を、ユーザーが見えるように可視化。節電意識を高めるサービスを提供している。このサービスを実現するために、Aiven for Kafkaを利用することで、AWSとGCP上で、Apache Kafkaによるデータ運用および管理をスムーズに行うことができているという。

また、米国の大手メディア企業であるコムキャストでは、スマートホーム向けのエコシステム構築において、数千万人の顧客が設置している数億台のネットワークデバイスから発生する膨大な量のデータを活用する必要があり、そこにApache Kafkaを採用。Aiven for Kafkaによって、レイテンシーとスケーラビリティの要件を満たすとともに、高可用性の維持と、管理性の向上を実現したという。

Aivenは、日本における人材不足の課題、マルチクラウドの効果的な機能活用、クラウドシフトの加速という3点を実現できるとする。

Aiven Japanの嘉門カントリーマネージャは、「日本では人材不足が課題となっているが、ここでは、人材を正しく使えていないという点にも着目する必要がある。DXの推進は、AWSやAzureの技術者を増やすことが本質ではなく、それらの技術者が、新たなビジネスを創出したり、ビジネスを迅速に改善したりすることが本質である。育成した技術者に無駄な労力をかけることを避け、本来の業務に関わることに集中させることが大切。Aivenでは、技術者が無駄な作業を行わずに、迅速にビジネスに直結するデータ基盤を提供することが可能になる」と語る。

また、「マルチクラウド環境では、クラウドプロバイダーが持つ特徴的な機能をたすき掛けのようにして利用することが求められている。Aivenでは、それぞれのクラウドのメリットを活かすためデータ基盤を整えることができ、それぞれの機能を柔軟に活用できる環境が整う。いいところ取りができるようになる」とする。

さらに、3つめのクラウドシフトについては、「オンプレミスをクラウドに移行するプロジェクトが、日本の大手企業でも本格化するなかで、最初の一歩であるクラウドリフトする際に、OSSで利用されているデータ基盤であれば、シンプルな操作で、オンプレミスと同等の可用性を維持しながら移行することができる」と述べた。

今後の日本における展開

今後の日本における展開について、Aiven Japanの嘉門カントリーマネージャは、「まずは、日本の市場における認知向上が大切になる。この1年で、『知る人ぞ知る』と言われるところまでは認知度を高めたい」と語る。アプリ開発現場やDX推進部門などへの認知度向上から進める考えだ。「使ってもらえれば価値があることをすぐに理解してもらえる」と自信をみせる。

その上で、「2022年は、日本における基盤づくりの期間だとすれば、2023年は、ビジネスが回り始める1年にしたい。国内企業における代表的な複数の導入事例も紹介できるようにしたいと考えている」とする。

日本では、IoTの進展や5Gの広がりにより、データ量が増大することに伴って、Apache Kafkaの利用が促進されており、これも、日本におけるAivenの提案が加速できる土壌のひとつになると見ている。また、Aiven for Apache Kafkaをはじめとした製品それぞれの機能強化も図っていく計画であり、活用提案にも幅が出ることになりそうだ。

また、SIerとの連携も強化。2023年は、パートナー戦略も強化していくことになる。

すでに、Google Cloudのマネージドサービスプロバイダであるクラウドエースとさくら情報システムの2社と戦略的パートナーシップを締結。「Aivenのユーザーでは、Google Cloudの利用事例が多く、日本でもGoogle Cloudに実績を持つクラウドエースとのパートナーシップを結んだほか、さくら情報システムでは、Aivenが持つクラウドデータプラットフォームを用いた『さくらデータベースマネージドサービス powered by Aiven』の提供を開始している。この2社との連携をさらに強化する一方、直販体制も維持しながら、2023年は、国内大手SIとの協業なども進め、AWSやAzureへの対応強化、マルチクラウドの強みを活かしたい。大手SIとの協業は、2023年の早い段階で発表したい」とする。

また、「さらに、Google Cloud Japanとの連携も強化しており、Google Cloudのサービスを補完する提案により、顧客のDXを支援していくことになる」と語る。

Aivenの日本での展開は緒についたばかりだが、企業がマルチクラウド化やDXの推進、データ活用の促進といった取り組みを加速する上では、開発および運用現場にメリットが生むサービスとなりそうだ。