日立製作所(日立)と産業技術総合研究所(産総研)は10月11日、循環経済社会の実現に向け、産総研臨海副都心センター(東京・江東区)内に「日立-産総研サーキュラーエコノミー連携研究ラボ」を設立したことを発表した。
同ラボの主目的は研究成果の社会実装の加速。産総研は2022年7月に社会実装本部を設立したが、同ラボはその設立後における最大規模の組織連携プロジェクトとなる。共同研究には、ライフサイクルアセスメント、資源回収、モノづくりやサービス工学をはじめとした両者の専門家が約40名集結する。
日立の持つ幅広い業種でのノウハウと、産総研の研究開発力や標準化活動などの強みを掛け合わせて、今後3年間で10億円を投資し、研究成果の社会実装を進めていく考えだ。
産総研 理事長の石村和彦氏は「これからの産総研は、研究成果をサービスや製品に組み込み、社会実装するまで企業と伴走していく。ラボでは日立と産総研のお互いの強みを掛け合わせ、業界をまたいだ社会全体の資源循環を支えながらイノベーションを起こしていきたい」と語った。
大量生産、大量消費、大量廃棄といった線形経済(リニアエコノミー)に基づく社会活動の拡大は、資源・エネルギー・食料の需給逼迫や、廃棄物増加による環境汚染、地球温暖化、生物多様性喪失など、さまざまな問題を深刻化させている。環境問題を解決し、持続可能な社会を実現しながら経済成長も両立するために、線形経済から循環経済(サーキュラーエコノミー)への移行が求められている。
しかし、循環経済への移行において、「循環経済では物質・生物・環境などの複雑な相互作用が生じるため、何が真に環境と経済に良いのかが理解しにくい」、「いくつかの取り組み案を考えても、循環経済の進展に対してどれが最も効果が高い取り組みかを評価できない」といった問題が考えられる。
そこで石村氏は、「循環型経済への転換を図るためには科学技術が必要。また、研究成果を製品やサービスの形で社会に送り出せる企業のコミットメントが不可欠だ」と考え、同ラボの設立に踏み切った。同ラボでは、実践的な循環経済のロールモデルを構築・提示するとともに、これを業種横断で適用・浸透させるための提言や標準化を推進していく。
日立 執行役社長兼CEOの小島啓二氏は「日本初の取り組みとして、サーキュラーエコノミーのコンセプトやルールの形成、それに伴うデジタルソリューションの開発など、グローバルでリードしていきたい」と意気込んでいた。
具体的には、3つの研究「循環経済社会のグランドデザインの策定」、「循環経済向けデジタルソリューションの開発」「標準化戦略の立案・施策の提言」を行う。
まず、2050年の循環経済のあるべき姿からのバックキャストなどを通して循環経済社会のグランドデザインを描き、業種を横断する評価方法や指標を策定する。
また、策定したグランドデザインに沿った循環経済向けデジタルソリューションの開発も行う。具体的には、CO2排出量などの環境データやトレーサビリティのデータを活用し、生産活動における設計、調達、製造から使用、回収までのバリューチェーンの各プロセスにおいてリサイクルや資源循環を促進するソリューションの開発を進める。
その取り組みの一環として産総研は、ネットワークに接続された工作機械とロボットおよび人が協調するサイバーフィジカルシステム(CPS)を研究するため、「つながる工場モデルラボ」を設立。工場内のや購入部品などのデータから、CO2排出量や材料の流れをトレースする。業種をまたいで資源循環を行う、循環経済のロールモデルの構築を目指すとのことだ。
3つ目の研究テーマとして「標準化戦略の立案・施策の提言」に取り組んでいく。標準化対象、範囲の整理、標準化戦略の方向性の検討を通じ、アカデミア、行政、他社と連携したアーキテクチャ、インタフェース、評価指標などの標準化戦略の立案および施策の提言につなげていく考えだ。
小島氏は「循環経済社会の実現に向けたビジョン、方法論、ルールを広く世界へ発信していく。中期経営計画の切り替えタイミングである2024年までに何とか結果を出したい」と述べていた。