ガートナージャパンは6月16~17日、年次カンファレンス「2022 Application Innovation & Business Solutions Summit - Japan」をオンラインにて開催した。2日間にわたって開催されたサミットでは、今後のITやDXのトレンドから、具体的な実践例まで、IT従事者に役立つ情報が多数発信された。その中から本稿では、ガートナー VP アナリスト アンソニー・ムレン氏によるセッション「ビジネスを再形成するデジタル・ツイン、デジタル・ヒューマン、メタバース、シミュレーションに対し、何をすべきか」の内容をレポートする。
消費者と企業、それぞれの“メタバース感”
冒頭、ムレン氏はガートナーが2022年1月に行った消費者調査の結果を示した。同調査では、「メタバースを知っているか」という質問に対して、消費者の1/3以上が「聞いたことがない」と回答。続いて「知っている」と回答した人に「どんな印象を持っているか」と尋ねたところ、60%が「特に意見はない」、21%は「その影響を懸念する」と答え、「期待している」と回答したのはわずか18%のみとなった。この結果を受け、ムレン氏は「消費者はまだ、メタバースを全面的に支持してはいない」と説明する。
一方、企業はメタバースをどのように考えているのだろうか。
調査結果では「次のテクノロジーやフロンティアである」と楽観的に捉えた企業が比較的多かったが、一部の企業では「VRやARが人と人の触れ合いを排除してしまうのではないか」と懸念する反応も見られたという。
ムレン氏はメタバースは今後も増え続けるとした上で、メタバースには複数のシステム統合が必要となるため、企業がビジネスにメタバースを取り入れるか否かは中長期的な視野で考えるべきだと提言する。
他方、チャットボットや自然言語処理、eコマースなど、すでにメタバースが使われ始めている分野もある。こうしたことからもわかるように、メタバースは「脱線ではない」(ムレン氏)のだ。
「メタバースは、現在の取り組みからの脱線ではなく、取り組んでいることが連続的に変化したものなのです」(ムレン氏)
ITで世界をモデル化することで、ビジネスへの理解を深める
ここで同氏はセッションを聴講するIT従事者に対し、「我々の業務はITを使い、世界をモデル化することである」と説いた。購買のトレンドやセキュリティインシデントといった“現在起きていること”への対応だけでなく、将来起こり得ることを予測して備えるために、ITを用いてさまざまな事象をモデル化しているのだ。モデル化は、時間と空間を超えてビジネスを理解することにつながる。では、メタバースは今後どのようにモデル化に関与するのだろうか。
メタバースは、どうモデル化に関わってくるのか
ムレン氏は我々が存在する現実世界と仮想世界の間に、デバイス上の「拡張現実」「拡張仮想」が存在すると説明し、現実世界から拡張現実、拡張仮想、仮想世界までをスケール状にした図を提示した。
「人は常に現実に片足を置き、スケールで示す連続的変化の中で移動します。AIが導入されても、この状況は変わりません」(ムレン氏)
メタバースでは、時間と空間から成るモデルに、現実と仮想という新しい次元が追加されるが、連続的変化の中では均等に時間が費やされているわけではないという。ムレン氏によると、「スケールの右(仮想世界側)に行けば行くほど没入感は深くなるが、そこに存在する時間は短くなる」そうだ。ガートナーでは、2026年までに25%の人が1日のうち1時間以上をメタバースで過ごすようになると予測しているが、ムレン氏は「モバイルに費やす時間ほどは、メタバースでは過ごさないだろう」と見解を示した。
メタバースの魅力を増すための考え方として、同氏は「メタバースはあくまでもエンゲージメントやジャーニーのためのチャネルの1つだと捉えるべき」だと語る。例として挙げたのはイタリアのファッションブランド、ベネトンのメタバース利用例だ。ベネトンではメタバース空間に仮想店舗を設置するのではなく、ゲーム空間を作り上げており、ゲームで獲得したQRコードを実際の店舗で商品購入時に使ってもらう仕組みになっている。
メディアで取り上げられるメタバースは、メタバース空間でアバターが歩き回ったり、アバター同士で交流したりするものが多い。しかし、ムレン氏は「本当の可能性を知るには、想像力を働かせ、(メタバースを)複雑なシステム、技術的エコシステムと捉えるべきなのです」と、持論を展開した。