ガートナージャパンは6月16日から17日にかけて、年次カンファレンス「ガートナー アプリケーション・イノベーション&ビジネス・ソリューション サミット 2022」を開催した。同カンファレンスは、アプリケーションとソフトウェア・エンジニアリングのトレンドや最新情報を紹介するオンラインイベントで、会期終了後もオンデマンド視聴(90日間)が可能だ。
アプリケーション、アーキテクチャ、テクノロジー、ビジネス戦略などをテーマに、ガートナーのアナリストもさまざまな講演を行ったが、本記事ではその中から、「ERPプロジェクトの失敗パターンを回避するには」と題した講演の内容を一部紹介する。
ERPプロジェクトの失敗パターンについて、ガートナーは「期待過剰型」「時代錯誤型」「見切り発車型」「ユーザー不在型」の4つに大別する。
期待過剰型では、現在の業務要件をすべて再現しようとしてERP構築を進めがちだ。カスタマイズが増えることで技術的負債が蓄積していき、結果的にレガシーなシステムができあがってしまううえ、部分的に別製品への置き換えが発生するケースも珍しくないという。また、Fit to Standardを意識するあまり、あらゆる業務をERPパッケージに合わせようとして、ユーザーの離反が起きたり、かえって業務効率が低下したりしかねない。
ガートナーでは、対策として自社のシステムを「記録システム」「差別化システム」「革新システム」の3つに分けるペース・レイヤ・アプリケーション戦略を推奨する。
同戦略では、定型的な業務を司る記録システムについてはERPパッケージのスタンダードに合わせる。そして、個社ごとの独創的なプロセスや現在の競争優位性を支える差別化システムについては、業務に合わせて最低限のカスタマイズを行い、製品アーキテクチャの定義、資材調達の設計・戦略、顧客サポートなど、将来の共創優位性に関わる革新システムは手づくりする。
加えて、講演に登壇したガートナー バイスプレジデント アナリストの本好宏次氏は、「重要度」と「利用頻度」の2軸によるカスタマイズ方針の整理を提案する。
「利用頻度が高い要件については、ユーザーサイドから強い要望が出るものだが、重要度が低ければカスタマイズの優先度は下げるべきだ。また、重要度は中程度だが優先度もそれほど高くない、優先順位としては5、6番目の要件については開発のフェーズ2に先送りする、あるいはユーザーに簡易開発してもらうといった形で対応してもいいだろう」と本好氏。
時代錯誤型では、古い製品、アーキテクチャ、発想、やり方でERPプロジェトを進めた結果、数年後にできあがったシステムがレガシーERPになってしまうケースが散見されるという。そうした、「レガシーの再生産」への対処法としては、5年先、10年先を見据えて製品のアーキテクチャ評価と選定を行い、複数のサービスやシステムと結合・連携することを前提としたコンポーザブルERPを構想することが重要だという。
見切り発車型では、「大義なき改革」に陥りがちだという。業務改善の積み上げや既存製品の保守切れなどを理由に、導入プロジェクトを進めるものの、改革に必要な賛同が得られず、プロジェクトが空転してしまうのだ。この点について、本好氏は「ITのコスト削減や運用改善やビジネスのパフォーマンス向上といった、ボトムアップで指摘されるような有形のメリットではなく、『将来的な買収の基盤づくり』や『自社のDXや働き方改革』など、前向きで戦略的なメリットを経営層が訴求することでプロジェクトに推進力を与える必要がある」と、トップダウンによるメリット訴求を重視する。
そんな本好氏が、「古くて新しい問題であり、最大の難所」と評するのが、「ユーザー不在型」だ。この失敗パターンでは、キー・ユーザーがERP導入プロジェクトに参加していない、または片手間での参加に留まっているために、「自分たちが使うシステムだ」という自覚なくプロジェクトが進んでしまう。そのため、テスト段階になって「望んでいたものと違う」という反応が返ってきてしまい、開発が頓挫しかねない。
オーナーシップを持って、ユーザーにプロジェクトへ参加してもらうためには、プロジェクトを特命化して、専任で関わってもらうようにする方法が有効だという。特に、人事面での対応は重要だ。システムオーナーやプロセスオーナーとして関わってもらえるよう、プロジェクトのクオリティ、コスト、デリバリーが、オーナーとなったユーザーの評価に直結するような仕組みにするのだ。
一方、キー・ユーザーへの事前のマインドセットやリテラシー教育、プロジェクト・コアメンバーへの継続的なトレーニングも実施していくべきだという。例えば、構想策定フェーズでは製品の思想を理解したり、その背景にあるERPの変遷、システム設計におけるFit to Standardという考え方などを理解してもらうなどだ。
また、他部門も含めてトレーニングのスケジュールを計画・準備立てて、繁忙期でも参画が可能になるように、トレーニングのスケジュールを確保しておくことも重要だ。
「現行業務の知識があることは大前提だが、キー・ユーザーには決断力、説得力、胆力といったソフトスキルも求められる。また、ある程度システムの素養がある、少なくとも抵抗感がない人物が望ましい。すべての素養を満たす人材はなかなかいないものだが、例えば、業務知識のあるスタッフと決断力・胆力のるリーダーをタッグで組ませて参加させるといったやり方もある」(本好氏)