テレワークの普及と共に、時間や場所にとらわれない働き方の多様性が広がっている。コロナ禍を経て、さらに新しい働き方が生まれてくることも考えられるだろう。こうした中で、今後拡大が見込まれる働き方の1つに「拡張テレワーク」がある。拡張テレワークとは、実世界で⾏われていた⼈同⼠の⾝体的インタラクションを、⼈間の⾝体的・感覚的な能⼒を拡張する技術を⽤い、テレワーク環境で実現する新しい働き方を意味する。
この拡張テレワークに特化したジョブマッチングサービスを提供するのが、Moon Creative Lab内のプロジェクトの1つである「メタジョブ!」だ。
メタジョブ! はどのような発想から生まれ、どのような未来を描いているのか。Moon Creative Lab EIR(Entrepreneur in Residence)の星野尚広氏にお話を伺った。
社内ベンチャープロジェクトから生まれたメタジョブ!
メタジョブ! の始まりは、2019年11月にさかのぼる。当時、三井物産戦略研究所に勤務していた星野氏が、新たなビジネスのアイデアを募る三井物産グループ会社Moon Creative Lab(以下、Moon)のピッチイベントに提出したのがメタジョブ! の初期構想だ。アイデアの革新性や社会的な意義が評価され、Moonのインキュベートプロジェクトとして採用されたのである。2020年8月には星野氏自身がMoonに出向し、アイデアを実現するための本格的な取り組みが始まった。
Moonは、三井物産からベンチャー企業を生み出そうという考えの下に設立された“スタジオ”であり、三井物産の子会社にあたる。スタジオ内にはプロジェクトを実現するためのプロジェクトマネジャーやデザイナーといった人材が揃っており、ピッチイベントで採用されたアイデアの提案者がMoonに出向して、プロジェクトを会社化することを目指す仕組みだ。大手商社としてすでに確固たる地位を築いている三井物産が、なぜ一からビジネスを立ち上げるような取り組みを行っているのだろうか。
星野氏によると、三井物産は「さまざまな産業や業界で、企業や商品などを「つなぐ」ことで価値を生む」ことに長けているという。一方で現在はVUCA時代の真っただ中。10年先を予測することは難しく、社会に求められているものもこれまでとは変わってきている。そこで三井物産では、これまでの「つなぐ」という役割を超え、自ら主体的にビジネスを「つくる」存在へ進化していくことを定め、その考えの下に創設されたのがMoonであり、社内起業制度なのだ。
「評価基準としては、『目先でどのくらい儲かるか』よりも、『新しい価値を創るビジネスなのか』や『多くの人が困っている課題に応えられるものなのか』、『社会にインパクトをもたらすか』が重視されています」(星野氏)
ピッチイベントでは、三井物産グループ社員からのアイデア応募の中から事前に審査・選考された5~6件ほどのアイデアが選出される。その中から採用されたアイデアが、Moonでインキュベートに取り組む案件となり、これまでに星野氏のアイデアを含む約50件が案件化されたという。
“LEVEL Playing Field”を実現するメタジョブ! とは
メタジョブ! では、従来のテレワークの概念をバーチャル空間に拡大した「リモート接客」「メタバースワーク」「ロボットワーク」という3つの拡張テレワークと、遊休労働力を結び付ける。遊休労働力とは、働く意欲はあっても交通手段がないために就業が難しい地方在住者や、時間の融通が利きづらい主夫・主婦や介護従事者、病気や障害といった理由で常勤の職を得ることが難しい人たちを指す。メタジョブ! は、そんな彼らが、オンラインやバーチャル空間で働く機会を探すことができる仕組みというわけだ。星野氏は、「メタジョブ! が実現したい姿はLEVEL Playing Field(=同じ土俵)だ」と語る。この考え方には、同氏が育った環境が影響しているという。
星野氏は東京の下町生まれ。個人事業主の多い昔ながらの街で育ち、会社員になった。そして、働いていくなかで、「いわゆる会社員と非会社員で根源的な能力はあまり変わらない」こと、それなのに「多様な働き方や機会に恵まれるのは専ら会社員である」ことに対し疑問が大きくなっていったのだ。どこで生まれ、どんな環境にいるとしても、その人の持つ本質や能力で仕事ができる世界を作りたい。そんな思いがメタジョブ! のアイデアを生み出したのである。
「コロナ禍においても、テレワークができているのはオフィスワーカーだけ。接客業などの方は新しい働き方とはほぼ無縁なのです。だからこそ、メタジョブ! を通じて、新しい働き方の民主化をしていきたいと考えています」(星野氏)