コロナ禍は世界を大きく変えた。人々は移動の自由を制限され、生活はもちろん、ビジネスも変化せざるを得なくなった。その過程で以前よりも重要度が増したのがデジタルだ。企業はDXをさらに加速させ、新たな時代に向けてビジネスをアップデートする必要性に迫られている。

DXを推進する上でポイントの1つになるのがクラウドの活用である。多くの企業がクラウド移行を進めているが、苦戦を強いられているケースも少なくないようだ。

では、どうすればクラウド移行を成功に導けるのか。そして、コロナ後の世界においてビジネスの鍵を握るのは何なのか。

3月4日に開催された「TECH+セミナー クラウド移行 Day 2022 Mar.クラウドの効果を最大化する」に圓窓 代表取締役の澤円氏が登壇。ビジネスをアップデートするために必要なクラウド活用の本質をテーマに講演を行った。

  • 圓窓 代表取締役 澤円氏

インターネットの普及により、人々は「データを信じる生き物」になった

澤氏は元日本マイクロソフトの業務執行役員であり、現在はさまざまな企業の顧問やアドバイザーを務める一方、大学で教鞭を執るなど多方面で活躍する人物だ。テクノロジー全般に関する造詣が深く、プレゼンテーションのプロフェッショナルとしても知られている。

長年マイクロソフトに勤務してきた澤氏のキャリアは、インターネットと共にあったと言っても過言ではない。特にWindows95が登場した1995年は、まさに“インターネット元年”と表現できる年である。澤氏は当時を振り返り、「インターネットはコミュニケーションを変えました」と、その衝撃を回顧する。

それから27年の月日が流れ、インターネットは社会のインフラとして完全に定着した。澤氏によると、インターネットの浸透以降、人々は「データを信じる生き物」になったという。その例として、澤氏はインターネットショッピングを挙げる。

「例えばAmazonでワインを購入するとしましょう。一見するとワインを検索して購入しているようですが、実は買い物なんてしていないのです。だって、クリックした瞬間にワインは手に入らないですよね。人はECサイトで、価格や配送日などを基準に“コンテンツ”を買っているのです。つまり、ECサイトは“コンテンツを買うとモノが届く”という仕組みなのです」(澤氏)

言われてみれば確かにその通りである。商品が今すぐ手に入るわけでもないのに、私たちは商品情報を参考に、クレジットカード情報を入力し、購入手続きを行う。なぜそんなことができるのか。その理由こそ、澤氏が言うように「人々がデータを信じる生き物になったから」なのだ。

逆に言えばそれは、「データになっていないものは、この世に存在しない」ということでもある。

新規開店のレストランを見つけても、いきなり入る人は多くないだろう。目の前に実店舗があるにも関わらず、まずはスマートフォンで検索して情報を調べる。インターネットにまったく情報がなければ、「大丈夫なのか?」と不安になったりもする。つまり、人は「データがないと不安」なのだ。

その文脈で考えると、「いまや全ての企業は何らかのかたちでデータに関わるテックカンパニーになる必要があるでしょう」と澤氏は言う。データがなければビジネスは成立しない時代になっているのだ。

澤氏はさらに、「2020年、世界は(1995年のインターネット元年以来)25年ぶりにリセットされた」と話す。言うまでもなく、コロナ禍のことである。

コロナ禍が世界に与えた影響を一言で言えば、「移動が自由にできない世界になった」ことだろう。予期せぬ感染症により、全世界の人々が強制的にライフスタイルのアップデートを迫られた。

ただし、不幸中の幸いだったのは「クラウドの発達がコロナ禍よりも先だった」ことだと澤氏は述べる。移動が自由にできなくなっても、経済活動が完全に止まることはなかった。クラウドが世界を支えたのだ。2020年、名実ともにデジタルは人類のインフラになったのである。