2021年10月20日にマイナンバーカードを利用したオンライン資格確認の運用が本格的に開始した。これによって、マイナンバーカードを利用して保険資格の有無をオンラインで確認できるようになるだけでなく、患者の同意の下、医療機関が薬剤情報や特定健診などの情報を閲覧できるようになる。
そこで、医療機関に設置するオンライン資格確認端末「マイナタッチ」を開発した、USEN-NEXT GROUPのアルメックス代表取締役社長である馬淵将平氏に、「マイナタッチ」開発の背景と、マイナンバーカードの保険証利用がもたらす医療現場への変化について話を聞いた。
--マイナタッチはどのようなソリューションですか
馬淵氏:マイナタッチは、マイナンバーカードを利用したオンライン資格確認対応の顔認証付きカードリーダーです。NFCカードリーダーによってマイナンバーカードのICチップを読み取れるほか、カードの挿入から顔認証まで5秒以内で完了する機能を持っています。
オンライン資格確認端末は当社を含め4社が販売しているのですが、当社だけのオリジナル機能として、全国の自治体が発行する子ども医療費受給者証や心身障害者医療費受給資格証といった紙の公費医療券も読み取れるAI-OCR機能を備えています。マイナンバーカードの挿入後に同じ挿入口に紙の医療券を差し込むだけで読み取りが行えます。
--マイナタッチの開発の背景について教えてください
馬淵氏:医療機関によって差はあるでしょうが、多くの患者が「待ち時間が長い」点を病院の課題として挙げています。医療機関内で発生する待ち時間は1回の通院でも複数箇所ありますが、特に患者の不満につながりやすいのは会計時の待ち時間と言われています。
当社はこれまでに、医療機関向けの再来受付機や自動精算機の開発に20年以上取り組んできました。国内の少子高齢化社会が加速する中で労働人口の減少も著しく、このままでは医療サービスの手前にある医療機関オペレーションが破綻するのではないかと危惧しています。
また、現在は国が政策としてマイナンバーカードの普及とオンライン資格確認の導入を進めています。こうした背景が重なったこともあり、医療機関の受付や精算の自動化を事業としてきた私たちにとって、マイナタッチのようなオンライン資格確認端末の開発は「手掛けて当然」のサービスと認識しています。
--マイナタッチの開発で苦労した点を教えてください
馬淵氏:高齢化社会が進む現代なので、デバイスの使いやすさには徹底的にこだわりました。何度も検証を重ねながら、大きな文字で誰もが使いやすいインタフェースを開発して、音声案内も実装しました。
また、総合病院では1日あたり3000人が来院するような場合もあります。今後マイナンバーカードが普及していくと仮定すると、マイナンバーカードと本人の認証精度や顔認証の精度と、所要時間の短縮が求められますので、その点も検証を繰り返しました。厚生労働省が求める誤認割合の基準をクリアしつつ、マスク越しでも高精度で本人確認が可能なシステムを構築しました。
--マイナタッチで実現したい世界はどのようなものですか
馬淵氏:団塊の世代が後期高齢者になる2025年問題が特にわかりやすい例ですが、今後は超高齢化社会となり労働人口がますます減少していきます。そうした中でも医療自体はなくならないので、医療スタッフが人ならではの作業に集中できる環境を作りたいと思っています。人にしかできない作業を人が担当して、デジタル化できる部分はどんどんデジタルに置き換えたいですね。
マイナンバーカードを利用したオンライン資格確認制度は医療機関のデジタル化を加速させる起爆剤になると感じます。現代は医療財政が苦しく、病院の経営は楽ではありません。国の医療サービスを持続可能なものにするためにITに投資し、医療経営を健全化する必要があると考えています。
病院のコスト構造を見直して経営を健全化し、医療スタッフの業務効率化を促進して、患者一人一人の可処分時間を有効に活用できるようになる、三方良しの世界を実現するソリューションになるはずです。
--マイナタッチを導入した医療機関からの反響はいかがでしょうか
馬淵氏:2021年10月下旬にスタートした制度なので、まずは「日本海総合病院」での例をご紹介します。従来の業務運用では、保険証をお借りして個人情報を入力し、誤記防止のためにダブルチェックをしていたので患者1人の対応に約5分かかっていました。マイナタッチを導入することで工数が削減でき、今では1人あたりの対応が数十秒で完結しているようです。
診察当日に保険証を持参し忘れた方や就職してまだ手元に保険証が届いていない方が、所持していたマイナンバーカードを活用して即時に受付対応できた例もあるとのことです。また、マイナタッチはサブディスプレイを備えていますので、病院スタッフも遠隔から捜査状況を確認できるため感染症対策も実現できていると聞いています。
--オンライン資格確認によって今後の医療の現場はどのように変わっていくでしょうか
馬淵氏:医療機関では患者の情報を電子カルテに保存していますが、現状では過去にその医療機関に来院した患者の情報しかありません、その患者が他の病院へ通院していても、診察の内容は患者本人の口から聞くまでわからない状況です。
オンライン資格確認は、これまで医療機関ごとに保持していた情報をマイナンバーカードで患者自身が持ち歩くことを意味します。保険資格の有無だけではなく、患者の過去の受診履歴を患者の意思で医療機関に提供できるようになるということです。
現在のところ、医療機関で確認できる情報は薬剤情報や特定健診の情報などに限定されますが、2022年の夏ごろを目途に手術や移植の情報まで対象が拡大される予定です。2023年1月ごろには電子処方箋も解禁される予定です。
紙の処方箋の受け渡しが不要になって薬剤情報の共有が即時に行えるようになりますので、どの調剤薬局でも処方箋の確認が行えるようになれば、病院だけでなく薬局までの流れもスムーズとなり患者の利便性が格段に向上します。
マイナタッチに限った話ではありませんが、マイナンバーカードを利用したオンライン資格確認は、単なる受付業務のデジタル化ではなく医療そのものの考え方を大きく変える可能性を秘めているはずです。各医療機関では、これを今後どのように活用するのかを考えるステージに来ているのだと思います。
プロフィール
1995年に日本興業銀行(現・みずほ銀行)に入行し、2007年にゴールドマン・サックス証券に入社。
2009年にUSEN 常務執行役員 CFO に就任し、2011年には同社取締役副社長に昇格した。
2013年11月アルメックス代表取締役社長就任。(現任)
USEN取締役副社長執行役員 CFO との兼任を経て、2017年12月よりUSEN NEXT HOLDINGS常務取締役 CFO 就任。(現任)