TISは9月7日、静岡県浜松市天竜区佐久間町で運営されている公共交通空白地有償運送事業のタクシー業務に再生可能エネルギーを活用した電気自動車(EV)によるMaaS(Mobility as a Service)プラットフォームを提供する実証実験を同16日~12月18日まで実施すると発表した。
実証実験では、佐久間町のNPO法人であるがんばらまいか佐久間、浜松市および電気の地産地消を推進する浜松新電力、TISが参加する「浜松佐久間MaaS推進協議会」が、EVでのタクシー運行を行う。EVは、佐久間町に設置した太陽光パネルで発電した電力などを利用して運行することで、過疎地域交通の利便性の向上と運用業務の合理化、再生可能エネルギーの地産地消を目指す。
佐久間町は65歳以上人口の割合が60.5%と、市内でも高齢化・過疎化の進む地域で、不採算性から公共交通事業者・民間タクシー事業者とも廃止・撤退が相次ぎ、地域住民の移動手段が十分でない状況となっている。
これを受けて、がんばらまいか佐久間では浜松市と連携して2007年から有人オペレーターが利用受付を行う公共交通空白地有償運送事業を運営しているが、利用者減による事業採算性の悪化やサービスに対する人材不足といった課題を抱え、地域のセーフティネットとして、実情に沿ったサービス利便性の向上と効率的な運営の実現が急務となっていたという。そこで、実証実験ではTISが提供するMaaSプラットフォームを公共交通空白地有償運送事業に導入することで、この課題解決を目指す。
TISは、過疎地域の次世代交通・エネルギー問題の解決を目指し、昨年8月に北海道厚沢部町で行った実証実験「ISOU PROJECT」で使用したMaaSプラットフォームを改良し、実証実験で活用されるタクシーのオンデマンド配車システムを提供する。
同社はMaaSプラットフォームに加え、移送サービスに使うEV、地域通貨発券端末や乗車時に必要なスマートフォン向けのアプリやICカードなどを無償で貸し出し提供することに加え、同町の既存施設のEV充電スタンドや太陽光パネルなどを活用して、再生可能エネルギーを中心としたエネルギーの地産地消に向けた検証・検討も行う。
CTI(音声自動応答電話)を活用したオンデマンド・前日乗車予約の仕組みにより、高齢者などにも利用しやすい環境を整え、電話の音声ガイダンス利用が困難な難聴者向けにはタブレット端末の操作でタクシーを呼び出せる「浜松佐久間MaaSかんたんアプリ(仮称)」の開発と提供を順次行う予定。また、呼び出し・予約・配車をシステムで受け付けることで、従来のオペレーター対応コストを削減するという。
利用方法として、地域住民はカード会員またはアプリ会員に登録して利用し、カード会員の場合は会員が専用窓口に電話をかけ、音声ガイダンスに沿って呼び出し地点や希望時間帯をプッシュホンで入力し、タクシーを呼び出し、北海道厚沢部町での実証実験の利用者の声を踏まえ、最短3ステップでタクシー呼び出しが可能となるシンプルな操作性を実現しているという。
アプリ会員の場合は、会員が自身の所持するスマートフォンに専用アプリをダウンロードし、アプリから現在地・目的地を指定することでタクシーを呼び出す。
また、経済産業省・国土交通省の令和2年度「スマートモビリティチャレンジ」プロジェクト内の地域の課題解決に資するMaaSのモデル構築を図る「日本版MaaS推進・支援事業」に採択されており、特に過疎地域におけるMaaS導入モデルを構築し、全国で同様の課題を持つ自治体・地域の課題解決を進めていく。
さらに、佐久間町が属する浜松市天竜区は「浜松市エネルギービジョン」に基づき同市が進めるスマートプロジェクトのモデル地区の1つであり、同社は実証実験を通して地域内のスマートコミュニティ事業・創エネ事業などの実現可能性の検証と、同市と協力して地域のエネルギー事業に対する支援の検討も行う。
浜松佐久間MaaS推進協議会では、実証実験後に佐久間町での本格サービス展開の有無、他自治体への同サービスの展開を視野に入れた事業化、および自治体と連携した再生可能エネルギーなどのエネルギー地産地消を通して、エネルギー政策の立案・支援を進めていく考えだ。