2020年4月から施行された「令和2年度(2020年度)税制改正」において、電子帳簿保存法が見直された。そのなかで注目したいのが、経費精算に利用できる電子データの活用が促進され、経費精算のデジタル化が一層進展する点だ。

この制度は、10月1日に施行される予定で、クレジットカードや交通系ICカード、PayPayなどのQRコードによるキャッシュレス決済を行った際、デジタル化された利用明細データを領収書の代わりに利用できることから、今後、経費精算のデジタル化やペーパーレス化が一気に進む可能性が指摘されている。

クラウドによる経費精算システムなどを提供しているコンカーの三村真宗社長は、「経費の完全なキャッシュレスとペーパーレスによる、ビジネスキャッシュレス構想の実現を加速することになる」とコメントした。

  • コンカー代表取締役社長 三村真宗氏

また、コンカー 戦略事業推進室長兼フェローの船越洋明氏は、「社員にとっても、財務/経理部門においても、経費処理に関わる作業を大きく削減できる。10年後の新入社員が、『以前は経費精算という大変な作業があったんですね』という時代が訪れる第一歩になる」と語る。

  • コンカー代表事業推進室長兼フェロー 船越洋明氏

実は、今回の電子帳簿保存法の改正においては、コンカーが行ってきた地道な活動の貢献も見逃すことができない。 新たな電子帳簿保存法の概要とともに、コンカーの取り組みを聞いた。

電子帳簿保存法は、1998年に施行され、会計システムや販売システムなどを使って、「国税関係帳簿書類」を電子データで保存することが可能になったのが始まりだ。

2005年には、e-文書法の施行に伴い、紙の「国税関係書類(決算関係書類を除く)」を、スキャナーで取り込み、電子ファイルとして保存することが認められたのに続き、2016年には、それまでは、スキャナー対象書類の金額基準が3万円未満となっていたものが撤廃され、2017年には、「仕様を満たした原稿台付スキャナーの利用が必須」とされていた条件も撤廃。スマートフォンやデジカメによる電子ファイル化も認められるようになった。

この結果、経費精算において、領収書をもらった本人が、スマートフォンなどを使って、出先で、領収書を電子化することができ、領収書受領日翌日から3日以内に、スキャン、撮影して、その電子ファイルにタイムスタンプ付与を完了させることで、デジタルデータが紙の領収書の代わりとして認められるようになった。

ここでは、法人カードのデジタル明細と、スマホで撮影した写真を紐づけてクラウドに保存すれば、人による定期検査を行わなくても、紙の領収書を破棄してもいいということが盛り込まれており、日本において、デジタル明細が、初めて公式な明細として利用できるようになった出来事ともいえた。

今回の電子帳簿保存法の改正は、これをさらに大きく進めたもので、キャッシュレス決済において発行されるデジタルの利用明細データを、紙の領収書の代替とするための保存要件が明確化され、これによって、紙の領収書の受領が不要になったり、スマホでの撮影やスキャンする作業も不要になったりすることで、社員が経費精算に関わる作業を大幅に削減。利用明細データが企業の経理精算システムと連動することで、経理部門などにおけるバックオフィスの効率化も実現することになる。

  • 令和2年度税制改正 における変更点

船越氏は、「5年以上前の法律では、領収書をノートなどに糊づけして、保存するといった作業が必要だった。しかし、2017年以降は、企業が当局に申請して、承認してもらえば、スマホで撮影したデータだけを残して、紙の領収書を廃棄してもいいことになった。デジタルデータ化することで作業や管理が楽になるだけでなく、領収書受領日翌日から3日以内に領収書を撮影する必要があるため、こまめに撮影し、処理を行うという癖がつき、多くの人にありがちな、月末に一斉に経費精算の作業を行うといったことがなくなるメリットも生まれた」と、これまでの仕組みを振り返りながら、「だが、領収書の写真を撮影する作業が発生しており、これが結構な手間になっていたのも事実だ。今回の改正によって、事前に指定したキャッシュレス決済で支払えば、紙の領収書はもらってこなくてもいい。写真を撮影する必要もない。署名をする必要もない。3日間という期間内に作業をやり忘れたということもなくなる」と話す。

  • 領収書の代わりとなる利用明細データ

さらに、「キャッシュレスが前提となれば、社員のキャッシュフローも傷まない。とくに、経費を立て替えて出張をしていた社員などにとっては、キャッシュレス化の効果は大きいだろう。また、財務/経理部門では、編集不可能なデータを扱うようになるので、ダブルチェックが不要になる。この負荷の軽減はかなり大きい」とも指摘する。

これまでは、領収書を撮影して、デジタル化し、タイムスタンプを押しても、日付や金額、支払先については手入力となっていた。そのため、最終的には、撮影した領収書の日付と金額、それとは別に手入力した日付、金額に間違いがないかをチェックする必要があったのだ。紙は無くなっても、チェック作業を行わなければならない課題が残っており、財務/経理部門には、一定の作業負荷は避けられないままだった。電子帳簿保存法が見直しによって、この作業がなくなるメリットは確かに大きい。

また、「写真がぶれていて読めない状態になっていないか、署名の書き忘れがないかをチェックする作業も不要になる。チェックに関わる工数や、承認する人の作業はかなり減ることになる。相当の工数削減ができる」と語る。 こうしてみると、今回の電子帳簿保存法の見直しによって、経費処理のデジタル化が一層進み、社員や財務/経理部門の作業負荷が大幅に軽減される土壌が整うことになるのがわかる。

コンカーでは、「ビジネスキャッシュレス構想」を掲げている。 これは、「法制度の整備とあらゆるキャッシュレスデータとのデジタル連携(D2D)を通じて 経費の完全なキャッシュレスとペーパーレスを実現する」というものだ。

  • ビジネスキャッシュレス構想

三村社長は、「ひとことでいえば、経費精算という無駄な仕事をなくすための取り組み」と位置づける。

それを実現するために、ビジネスパーソンの行動を変容させ、現金による経費の支払いを、法人カードやICカード、QRコード決済といったデジタルペイメントによる100%キャッシュレス化に移行することを提案している。それと同時に、あらゆるキャッシュレスデータとデジタル連携を行うことができるような法制度の実現を支援するといった活動にも取り組んでいる。

「これまでの法制度は、紙の領収書があることが前提であった。だが、今回の電子帳簿保存法の見直しにより、キャッシュレスで経費を支払えば、データがデジタルで処理され、そのデータが社内に届き、紙の領収書を前提しない経費精算が可能になり、同時に、経費精算に関わる作業のすべてを自動化できる地盤が整うことになる」と述べる。 コンカーが描く「ビジネスキャッシュレス」の世界は、まさに経費精算の作業がない世界だ。

  • ビジネスキャッシュレス構想における提携機関

仕事で電車やタクシーに乗った場合には、Suicaやタクシーアプリで決済し、領収書はもらわずに、そのまま財務/経理部門にデータが送信される。会議や接待などで飲食が伴った決済でも、法人クレジットカードや、PayPayなどのQRコード決済を使って、やはり領収書はもらわずに済む。出張の際に発生する交通費や宿泊費も同じだ。社員は、キャッシュレスとデジタルデータの活用によって、経費精算という作業はまったく行わないで済むようになる。 また、これまでの仕組みでは、経費精算を行い、領収書を添付して、上司の承認を受けるわけだが、ここでも承認レスという新たな世界が実現する。

三村社長は、「誤解を恐れずに言えば、上司の承認は、はっきり言ってザルの場合が多い。それならば、ITを活用して、承認できる内容なのかどうかを見極めたほうが確実な承認ができる」と言う。日本の企業のなかには、すでにコンカーを活用して、承認レスの仕組みを導入している例がある。承認レスであれば、いま話題となっている、在宅勤務中に、ハンコを押すためにわざわざ出社するという必要もなくなる。

さらに、AIを活用した不正検知の自動化も、コンカーは視野に入れている。 「ひとつひとつの経費データではわからないが、ビッグデータというような観点から見れば、不正がわかる場合がある。そこにAIを活用することで対応できる」とする。

例えば、8000円を上限とした経費の場合、それを超えても、1回や2回は例外として見過ごす場合もあるだろう。しかし、これを全体の平均値で比較した場合、他の人よりも明らかに上限を超える回数が多いことがわかれば不正があるのではないかと疑うことができる。こうした仕組みも、デジタル化によって検出が可能になる。コンカーでは、AIによる不正検知を2021年度以降に実用化する予定だという。

「こうした仕組みが社内に導入され、徹底されると、不正を行う気が起こらない。また、ザルだったチェック作業から解放され、財務/経理部門のチェックの作業も大幅に軽減される」というわけだ。

三村社長は、「今回の電子帳簿保存法が見直しによって、いよいよビジネスキャッシュレスの世界に踏み出せるようになる。社会が大きく変わるきっかけになる。悲願が達成できた」と話す。また、船越フェローは、「10年後には、新入社員が、『以前は経費精算という大変な作業があったんですね』というような時代が訪れる第1歩になる」と語る。

現在、コンカーでは、主な法人カードでの決済のほか、みずほ銀行のJ-Coin PayやPayPayといったQRコード決済、Mobility Technologies のJapan Taxiアプリや、DiDiアプリなどでのタクシー料金の決済が可能であり、さらに、2021年3月までにJR東日本のSuicaとの連携が可能になるという。

コンカーでは、電子帳簿保存法が見直しにおいて、製品への新たな機能追加などは行わずに、その仕組みに対応している。多くの各種デジタルペイメントサービスとデータ連携することで、さらに利便性が高まることになるだろう。

しかも、現時点で、国内でコンカーを利用しているのは、国内1005企業グループ、約300万人におよぶ。国内の時価総額トップ企業100のうち、46社が利用しており、2021年末までにはこれを70社にし、利用者数は500万人を目指す。ICカード会社や、QRコード決済会社、タクシーアプリを展開する事業者にとっても、コンカーとのデータ連携により、こうしたユーザー層を取り込めるメリットがある。

一方、今回の電子帳簿保存法の見直しにおいて、コンカーは、政府に積極的な働き方を行ってきた。 これは5年前に、スマホによって撮影した領収書を、デジタルデータとして活用できるようになったときと同じであった。

船越フェローは、「財務省や内閣府、経済産業省をはじめとする各省庁の関係者から、『スマホのときの…』といわれるほど、コンカーの名前と実績が知られている。そして、単に働きかけるだけでなく、そのメリットを発信しつづる訴求活動も継続的に行ってきた点も評価されている。その実績があるからこそ、今回の電子帳簿保存法の見直しに向けて、政府が私たちの話を聞いてくれた」とし、「関係者に対しては、しつこいぐらいの働き方を行った」と笑う。

三村社長も、「デジタル化は、私企業の利益につながるのではなく、国や社会全体のメリットにつながること、経済的にも大きなインパクトを生むこと、そして、誰の利益も損ねないという提案であることを訴えた。この規制緩和は、社会的意義があるものだとことを粘り強く訴えかけた」と述べる。

実際、今回の電子帳簿保存法の見直しによるデジタル化によって、経費精算作業だけで2兆2000億円ものコストダウンが図れるとの試算もある。 「規制緩和されても、社会に適用されなくてはならない。5年前の規制緩和のときと同じように、啓蒙普及活動をこれらか行っていく」(三村社長)とする。

調査によると、日本のキャッシュレスの利用率は19.9%。韓国の96.4%、英国の68.6%、中国の65.8%、米国の46.0%と比べても圧倒的に低い。

  • 日本のキャッシュレスの現状

また、企業では、現金支払いで、手入力というケースが29%、キャッシュレスだが、手入力が53%となっており、キャッシュレスで自動入力というケースはわずか18%に留まっている。 メリットを享受するには、この状況を変えていく必要がある。

  • キャッシュレスでの経費利用・精算の状況

「従来のデジタル化の仕組みでは、スマホで写真を撮ったり、署名をしたりといった仕組みなどを社内に徹底する必要があった。だが、今回の電子帳簿保存法の見直しでは、経費精算にキャッシユレスを導入さえすれば、一気に仕組みを変えることができる」(船越フェロー)

つまり、法人クレジットカードだけでなく、PayPayやSuicaなどを、企業の経費決済に利用する仕組みへと移行することで、経費処理のデジタル化が一気に進むというわけだ。 昨今では、PayPayに代表されるようなQRコード決済が広がっていること、新型コロナウイルスの感染拡大による在宅勤務の広がりや、感染防止のために現金でのやり取りをしたくないという昨今の流れも、企業におけるキャッシュレス化の広がりには追い風になりそうだ。

交通系ICカードの利用率は83%と高く、QRコード決済アプリの利用率も44%と一気に上昇している。また、法人カード使用率は13%だが、経費精算の自動化ができるコンカーのユーザーに限定すれば使用率は64%となる。そして、従業員数が2500人以上の大企業では約8割が利用。「法人カードは役職者だけでなく、ビジネス全体に普及しはじめようとしている」という点も見逃せない。

  • キャッシュレスの普及状況

船越フェローは次のように語る。「キャッシュレスに変えれば、デジタル化が進みやすい。キャッシュレスにすることで、いままで尻込みしていたデジタル化が楽にできる。紙をマイノリティにするという考え方を導入し、キャッシュレスにできないものや、紙の領収書が必要な場合にだけの特例として利用するようにすればいい。ルールの浸透に苦労していた企業こそ、このタイミングを生かしてほしい」(船越フェロー)

宿泊費の精算において、室内のルームバーの使用料が含まれていないことを証明するために、紙の領収書を使うというルールを用いる企業もあるだろうが、その場合も紙の領収書は、あくまでも、デジタルデータを補完する役割となる。 優秀な若い人材を獲得するために、使いやすいPCを貸与したり、働きやすい環境を用意したりというのは、いまや多くの企業が配慮している点である。

そして、そろそろ経営層も、経費精算や経費チェックといった労働集約型の作業を、高いスキルを持った社員にやらせていることが、企業にとって無駄であることに気がつくべきだ。 今回の電子帳簿保存法が見直しを機に、今後は、優秀な人材を獲得するための要素として、「経費精算がない企業」という項目が加わるかもしれない。