日本IBMは6月21日、Warehouse TERRADAで開催していた「Think Summit」において、クラウド事業に関するプレス向けラウンドテーブルを開催し、米IBM ゼネラル・マネージャー IBMクラウド・プラットフォーム担当のハリッシュ・グラマ氏と、日本IBM 取締役専務執行役員 IBMクラウド事業本部長の三澤智光氏が出席した。

冒頭、グラマ氏は「クラウドの採用は進んだが、大半のアプリケーションはオンプレミス環境に存在しており、多くのアプリケーションをクラウド化するのは難しい」と話す。

  • 米IBM ゼネラル・マネージャー IBMクラウド・プラットフォーム担当のハリッシュ・グラマ氏

    米IBM ゼネラル・マネージャー IBMクラウド・プラットフォーム担当のハリッシュ・グラマ氏

同社が実施した調査によると、94%の企業が複数のクラウド環境を使用し、67%が複数のパブリッククラウドプロバイダーを使用している。また、73%がクラウド間の移行、82%がクラウド間の接続性、67%が管理の一貫性について課題を抱えており、これらは企業におけるハイブリット/マルチクラウドの現状だと指摘している。

Kubernetesでクラウド化の課題を克服するIBMの戦略

基本的にクラウド化には「クラウド移行」と「クラウドによるイノベーション」の2つのエントリーポイントがあるという。

クラウド移行はアプリケーションをパブリッククラウド化することだが、IaaS(Infrastructures as a Service)を利用するため、インストールや管理が必要なソフトウェアが多く存在し、ライセンスのソフトウェアのクラウド化を試みても適切にクラウド上で機能しないことがあり、CAPEX(設備投資支出)が低減する一方でTCO(総所有コスト)が上昇してしまうという側面がある。

また、クラウドによるイノベーションではPaaS(Platform as a Service)を用いることから、クラウドネイティブを望む場合はマイクロサービスを使い、ミドルウェアを書き換えるが、時間とコストを擁することから、統合、セキュリティ、ガバナンスなどに課題を抱え、20%程度しか移行できず、80%はレガシーシステムに残る。これは同社が常々口にしていることだ。

そのため、ROI(投資利益率)を担保することを目的にKubernetesを利用し、ミドルウェアを含めた大半のアプリケーションをコンテナに入れてクラウド上で実行する。しかし、ミドルウェアをコンテナ化するとメリットを活かせず、ただ単にブロックに分割し、コンテナに入れるだけになってしまうという。

  • 「クラウド移行」と「クラウドによるイノベーション」の2つのエントリーポイントの概要

    「クラウド移行」と「クラウドによるイノベーション」の2つのエントリーポイントの概要

このような状況を踏まえ、グラマ氏は「だからこそ、われわれのクラウド戦略が特別なのだ。ミドルウェアを完全に書き直した上でコンテナ化しており、Kubernetesがオーケストレータとなるとともにリソースマネージャのロードバランシングを行う。すなわち、Kubernetesを活かせることから、効率的なKubernetesuの実行が可能だ。また、クラウドネイティブなアプリケーションの場合でもコンテナ化でき、クラウドの実装すべてをKubernetesおよびコンテナベースで行っていることが強みだ」と、力を込める。

オンプレミスとパブリッククラウド間の崖を埋めるために

そして、三澤氏は「国内においてデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組まなければならない企業はクラウドネイティブの技術を活用したいが、なかなか進んでいない。オンプレミスとパブリッククラウドの間には、さまざまな崖が存在する。テクロジー、ガバナンスモデル、セキュリティポリシー、組織が違うため、このような崖をどのように埋めていくのか。それに加えて、クラウドのベンダーロックインがある」との認識を示す。

  • 日本IBM 取締役専務執行役員 IBMクラウド事業本部長の三澤智光氏

    日本IBM 取締役専務執行役員 IBMクラウド事業本部長の三澤智光氏

同氏は、これらの崖を埋めていくためにはオンプレミスとパブリッククラウドに同一のプラットフォームを提供していくことが重要だと説く。

同一プラットフォームで採用されるテクノロジーはKubernetesだが、Kubernetesベースのプラットフォームを採用するだけでは何も成し遂げられないため、プラットフォーム上にアプリケーションを構成するためのフレームワークを提供するとともに、さらに上層にコンテナ化されたIBMやオープンソースのミドルウェアを導入することで崖を乗り越えるという。

具体的にはオンプレミス、パブリッククラウドに提供する同一プラットフォームのオンプレミスに置くものを今後提供予定の「IBM Cloud Paks」、パブリッククラウド側に置くものを提供中の「IBM Cloud Kubernetes Service」で実現する。

  • オンプレミスとパブリッククラウド間の崖を埋めるために「IBM Cloud Paks」で乗り越えるという

    オンプレミスとパブリッククラウド間の崖を埋めるために「IBM Cloud Paks」で乗り越えるという

IBM Cloud Paksは、IBM Cloud Paks for Application、IBM Cloud Paks for Data、IBM Cloud Paks for Integration、IBM Cloud Paks for Automation、IBM Cloud Paks for Multi Cloud Managementなどを提供することで、顧客のクラウドネイティブアプリケーション開発を支援していく方針だ。

三澤氏は「これにより、Kubernetesエンジンだけでなく、本当の意味のコンテナアプリケーションを構築しやすくする。Kubernetesを核にハイブリッド/マルチクラウドを実現し、ベンダーロックインではないテクノロジーを提供していく」と、強調していた。