「ITビジネスの拠点は都市圏」という考え方が変わりつつある。確かにICTビジネスに関わる企業は、首都圏や関西圏といった大都市に集中してきた。ただ、ICTが発達すればこそ、物理的な地勢の重要性は軽くなっていく。

さとやまオフィス鯖江の外観

それを象徴するような動きが各企業に見え始めてきた。そうした事例のひとつともいえるのが、福井県・鯖江市に開設された「さとやまオフィス鯖江」だろう。

まず、鯖江市だが、人口約70,000人弱の地方自治体。近年、地方自治体は人口減少に悩まされているが、鯖江市は少しずつ人口増となっている。その原動力となっているのは、産業が盛んだということだろう。

真っ先に思い浮かぶのがメガネフレーム。日本製のメガネフレームの約9割が鯖江産ともいわれ、全世界的にみても約20%のシェアを占めるともいわれている。市内には「めがねミュージアム」があり、ベンチや歩道のデザインもメガネフレームになっている。ただ、メガネフレームだけでなく、漆器や繊維などの産業も盛ん。これだけの産業があるからこそ、ほかの地方自治体と異なり人口増となっているのだろう。

働きやすさを地方都市に求める

そんな鯖江市に開設された、さとやまオフィス鯖江とは何か。端的にいえば、「新しいタイプのITエンジニアの働き場所」ということになる。これまで、IT企業は都市圏に集中してきた。ただ、都市圏ではなくてもICT環境が整っていればビジネスは行える。たとえば楽天。楽天ほどの企業になれば山手線内の都内中心部に本社があってもよいが、現在は二子玉川にビルをかまえ、10,000人ほどの社員が通う。

少し歩けば多摩川の河川敷、朝はラッシュとは逆方向となる下り路線。働き方改革のひとつの方向性として注目を集めている。さとやまオフィス鯖江は、楽天のビルとは比べるもなく小規模かつ都市圏からはるかに遠いが、働きやすさを考えたという意味では楽天に通じるものがある。