今年、Amazon Web Services(AWS)との提携を発表し、IT業界を驚かせたVMware。新たなマルチクラウド戦略として、「Cross-Cloud Architecture」も発表された。同社は新戦略の下、何を目指しているのか。今回、ヴイエムウェアの代表取締役社長を務めるジョン・ロバートソン氏に、2016年の総括と2017年に向けた総括について聞いた。

2016年のハイライトはやはりAWSとの提携

初めに、国内における今年のビジネスについて聞いたところ、ロバートソン氏は次のように振り返った。

「創業以来、vSphereを中心に右肩上がりに成長してきましたが、vSphereがある程度行き渡った2014年、売上がフラットになりました。新たな製品が出てきていましたが、日本のお客さまに納得してもらえるクオリティではなかったのです。2016年はNSX、vRealize、Horizonなど、新たな製品が伸び、日本の成長はグローバルを上回りました」

そして今年、次なるビジネスへの道筋となる新たな戦略「Cross-Cloud Architecture」が発表された。

ロバートソン氏は「これまでわれわれは『こういう世界が来るから、準備しましょう』といった具合にビジョンを示した上で、それを実現する製品を提供してきました」と話す。

今年発表されたパブリッククラウドベンダーとの提携先はAWSにとどまらず、IBM、富士通、NTT Com, IIJと主要なパブリッククラウド・ベンダーを網羅している。こうした提携について、同社の顧客は喜んでいるという。

ロバートソン氏は「日本の企業はAWSも使っていますが、IIJや富士通のサービスも使っています。今後、このように1つの企業が複数のクラウドを使うことが当たり前になるとみんな考えています」と、ハイブリッドクラウドではなく、マルチクラウドの重要性を訴える。

同社としては、顧客がロックインされずに、自社のビジネスに合わせてアプリケーションやサービスを選択し、時には自由に移動できるといったように、選択肢が増えることが最も重要だという。

そして、ロバートソン氏は「プライベートクラウドにパブリッククラウドと、複数のクラウドを使えることは重要であり、それをサポートできるのは両方のクラウドに取り組んできたわれわれだけ」と自信を見せる。

人材活用のカギは「ジョブローテーション」と「社内プロモーション」

ロバートソン氏は2016年のさらなる注目トピックとして、3回目の新卒採用を迎えた今年は14人を採用、来年は15人採用予定であることを挙げた。女性、日本の大学を卒業した外国人など、幅広い人材を確保できたそうだ。

同社はロバートソン氏が代表取締役社長に就任して以来、人材採用においてダイバーシティの推進と若い人材の雇用に重きを置いているという。同氏はその理由について、次のように話す。

「私は4年前、初めて海外で働き、多くの外国人と働きました(ロバートソン氏はヴイエムウェア採用)。その時、シンガポールに赴任したのですが、マネジメント層の4割近くが女性であったほか、中国系、インド系、マレー系とさまざまな人がいて、いろいろなアイデアが出てきました。この経験を基に、ヴイエムウェアでもいろいろな人を採用しようと決めました」

最初はこうした人材採用をトップダウンで進めてきたが、今ではマネージャー陣もそのメリットを理解し、現場レベルでダイバーシティが進んでいるという。

ロバートソン氏の人材採用にかける熱い思いはこれにとどまらない。人材流出を食い止めるため、社内のジョブローテーションとプロモーションを積極的に行っているのだ。

「どんなに優秀な人でも同じ仕事をしていると飽きてしまう。そうなると、辞めてしまう可能性があります。だったら、社員が仕事に飽きる前に、新しい機会を差し出すのが会社の役目」とロバートソン氏。

例えば、毎年、マネージャーにメンバーのベスト2割を他部署に異動させるよう指示しているそうだ。また、毎月、空いているポジションを明らかにし、まずは社内で異動の希望を募り、5、6割は社内の応募で埋まるという。

さらに、退職を申し出た社員に対し、ロバートソン氏自ら面談を行い、辞める理由を尋ねるそうだ。ある時期、「マネージャーをやりたかったが、ヴイエムウェアではなれず、他社からマネージャーのオファーが来たので辞める」といった話が続いたが、自身の希望を上司に話していないというケースが多く、9割はヴイエムウェアでマネージャーになれるなら辞めないと言ったそうだ。

マネージャーを希望している人のうち、適任のマネージャーのポストが空いていれば異動してもらうが、資質が不足している人には「マネージャーになるための目標を示し、それが達成されたら昇進させる。人間は目標が明確になれば、それを達成するためにがんばれるものだ。

実のところ、こうした人事制度はジョブに対して雇用する外資系企業では珍しい試みだそうだ。

ロバートソン氏は「社内の人材でプロモーションをまかなうことは顧客やパートナーにも喜んでもらえます。お付き合いの継続性につながるからです」と話す。

2017年の成長の鍵を握るのは「NSX」

最後に、2017年の抱負について聞いてみた。新たなマルチクラウド戦略の発表、大手パブリッククラウドベンダーとの大型提携が続いた今年の流れを維持するために、まずは、NSXに集中するという。

「今のところ、NSXの需要はセキュリティに有用なマイクロセグメンテーションが多いが、これから、ネットワークの分野ではSDN、オートメーション、仮想化が伸びていくことが予想されるので、お客さまには『NSXを準備しましょう』と申し上げたい」とロバートソン氏。

ネットワーク分野の伸びに備え、同社としても、関連する人材を増やしているという。

また、EUCについては、これまで続いていたインターネット分離を目的とした需要が来年の3月末で終わってしまうので、次のブームを見つけたいとする。ロバートソン氏としては「来年ではなく、再来年にIoTが大幅に拡大することが見込まれるので、その波に乗ってEUCも売れるのではないでしょうか」と話す。

そして、ロバートソン氏は最後に、「いい人を採用して、育てて、守る――このサイクルを続けていけば、企業も続いていきます。この活動こそが、私の一番大きな仕事です」という言葉で締めくくった。