米Salesforce.comは11月5日より、年次イベント「Dreamforce 2017」を本拠地の米国サンフランシスコで開催している。会期中17万人がサンフランシスコに集まる技術業界最大級のイベントだ。6日の夕方、同社創業者兼CEOのMarc Benioff氏が基調講演を行い、Googleとの提携、既存製品に"my"を冠し、カスタマイズを可能にした「Salesforce Customer Success Platform」の各サービスを発表した。
技術をどう使うのかが問われている
例年通り夕方に開催された基調講演は、同社の文化である"Ohana"(ハワイ語で「家族」の意味)を讃える伝統舞踊と「ありがとう」の言葉で幕を開けた。
今年のテーマは第4次産業革命であり、Benioff氏は同社が近年力を入れている学習プラットフォーム「Trailhead」を学ぶコミュニティ「Trailblazer(トレイルブレーザー)」の重要性を強調した。
Benioff氏は「第4次産業革命では、クラウド、IoT、3Dプリンタ、自動運転車、ナノテク、AIなど、さまざまな次世代の技術が実現する」としながらも、AIなど最新技術については懸念も出ていると指摘した。
「技術について、われわれを結びつけているのか、引き離しているのかという心配が生まれている。第4次産業革命がストレスを引き起こしている。あなたがたTrailblazerはイノベーターだ。企業を変え、社会を変えている。技術を正しい方向に拡張している。あなたがたを信頼している。ありがとう」
続いて、Salesforceの企業としての成長にも触れた。100億ドル企業を目指してきた同社は今年の会計年で達成(ガイダンスでは104億ドル)を見込んでおり、今会計年の売上は125億ドルと予想している。これはソフトウェア企業では市場最速だという。
また、Oracle、SAP、Adobeなどと競合関係にある中、「われわれはCRMクラウド、セールスクラウド、サービス、そしてマーケティングの各クラウドでナンバー1だ」とBenioff氏は胸を張る。
例えば、BtoBでは1日300万件の営業案件が作成されており、BtoCでは300万件の発注が発生しているという。このような成長はメディアなどからも評価されており、 Fortune 50のNo.1、Forbesでは最もイノベイティブな企業No.1に、またFortuneは世界で最も働きやすい企業のNo.1にSalesforceを選んでいる。
Salesforceが関連する「Salesforceエコノミー(経済圏)」も成長している。2022年には330万の雇用がSalesforce経済圏から生まれ、GDPへの影響は8590億ドルとIDCは予想している。「みなさんと一緒に(Salesforce経済圏を)作っている」と、Benioff氏は強調した。
AWS、IBMに続き、Googleが戦略的パートナーに
Salesforceの土台は「Customer Success Platform」だ。Trailhead、CRM向けのAI「Einstein」、UI技術「Lightning」、デバイスと接続する「IoT」、開発環境「Heroku」、分析の「Analytics」、アプリストア「AppExchange」をプラットフォームに、Marketing、Commerce、Service、Communities、Sales、Collaborationの各クラウドが載る
今年のDreamforceでは、「第4次産業革命のためのCustomer Success Platform」として、「myTrailhead」「myEinstein」「myLightning」「myIoT」「mySalesforce」を発表した。いずれもコードを書くことなく、ポイントとクリックで作成でき、パーソナライズできるのが特徴。「my」という冠の由来もこの特徴からきている。
例えばmyEinsteinでは、カスタムオブジェクトにあるデータを使って、財務チームが支払いに遅れる可能性のある企業を予測するなどの機能を簡単に作成できる「Einstein Prediction Builder」、ボット機能「Einstein Bots」などが提供される。「AIはすべてのソフトウェア、アプリケーションの将来を握る重要な技術だ。予測機能を作成するのにプログラマである必要はない」とBenioff氏は述べた。
これらに加え、2016年に買収したドキュメント共有などのコラボレーション技術のQuipも、「Quip Collaboration Platform」として機能を拡張できるようにした。「Live Apps」として、Quipにリアルタイムデータを含む関連したデータとアプリケーションを組み込むことができる。これによりQuipのドキュメント、スプレッドシートなどの上で必要なデータや機能を利用できるという。
まずは、マーケティングなどのイベントプランニングに利用できるカレンダー「Calendar」、Salesforceの記録「Salesforce Record」、プロジェクト管理「Kanban Board」の3種類が用意される(有料)ほか、パートナーがLive Appsを構築できるAPIも公開する。
Benioff氏はまた、Googleとの提携も発表した。Salesforceのグローバル展開にあたって、Googleの「Google Cloud Platform」を優先パートナーとして利用する。
両社はまたGoogleのマーケティング分析ソリューション「Google Analytics 360」とSalesforceとの統合も進める。これにより、セールス、マーケティング、広告などのデータを組み合わせて利用できるようになる。Salesforceは6月に買収したKruxの技術をベースに「Salesforce DMP(Data Management Platform)」として提供しており、今回の提携によりGoogle検索、広告クリックなどさらに広範なデータが利用できるようになる。
Googleの生産性スイート「G Suite」とSalesforceとの連携も実現するほか、一部顧客にG Suiteを初年度無料で提供する計画もあるという。
GoogleでGoogle Cloud事業を率いるDiane Greene氏は、「統合によりもっとシームレスに、容易に、パワフルになる。これは顧客に大きなメリットをもたらす」と述べた。
SalesforceはAmazon Web Services(AWS)、IBM、Dellの3社を戦略的提携パートナーと呼んでおり、Googleはこれに加わることになる。AWSとはカナダなどでAWSのIaaSを利用する計画が進んでおり(Googleと同じように「優先パートナー」となっている)、IBMとの関係はWatsonが中心だ。DellはSalesforceのデータセンターの技術コンポーネントプロバイダーとなる。GoogleはIaaSでAWSと競合関係にあり、もう1社の競合であるMicrosoftとSalesforceは、SalesforceのQuip(生産性)やCRMなどで競合関係にある。