2016年10月4日~7日にわたり千葉県幕張メッセで開催されたCPS/IoT Exhibition「CEATEC JAPAN 2016」において、楽天 執行役員 兼 楽天技術研究所代表務める森 正弥氏が「人工知能時代に向けた、金融ビジネスと人の進化」というタイトルの下、講演を行った。
森氏は、楽天における人工知能(AI)の活用事例を示しながら、「これからは人工知能を使わないと難しい時代」と訴えた。以下、同氏の講演の模様をお届けする。
ARとAIを活用して新たな販売・購買体験を実現
森氏は冒頭、「AIが注目を集めているが、『なぜAIを使うのか』については、あまり語られていない。今回は、そこにフォーカスを当ててみたい」と語った。
楽天技術研究所は、楽天という企業の枠を越えたインターネット全般における先進的技術を革新的サービスにつなげる研究機関で、日本をはじめ、世界5カ所に拠点を設けている。昨今のトレンドの技術であるAIの研究にも当然、取り組んでおり、スタンフォード大学、筑波大学、MITと研究を行っているという。
こうして取り組んでいる技術は楽天の70ほどのサービスに盛り込まれていく。森氏は研究所で開発したAI関連の技術の例として、「AR-HITOKE」を紹介した。「AR-HITOKE」とは、AR(拡張現実)を活用した新たな販売・購買体験の仕組みだ。
ソーシャルメディアから商品のレビューを抽出し、商品にスマートフォンをかざすとそのレビューを見ることができ、購入時の有用な検討材料となる。この機能がなければ、スマートフォンの検索エンジンを使って、クチコミを調べることになるだろう。
また、AIに関するハッカソンを開催した時のエピソードも披露された。競馬を知らないチームが競馬の順位を予測するアプリを開発したのだが、ハッカソンが開催された後に大井競馬場でそのアプリを使ってみたところ、専門家よりも高い確率で順位を予想したそうだ。森氏は「プロの技術がなくても、AIで予測できる例」と語った。
AIの活用でインターネット上のロングテールを解析
さらに、森氏は「人工知能は使う、使わないを考える技術ではない。もはや顧客理解、マーケティング、オペレーションコストの最適化を考えると、人工知能を活用しなければ難しい時代に突入している」と続けた。
現在、スマートデバイスを持つわれわれは常にオンラインでつながっている状態だが、このことが商品の購買に大きな影響を与えるという。オンラインでつながることにより、人類の個別化と多様化が進み、「もはや、どの商品が売れるかということが誰にもわからなくなった」と森氏。
これまで、ショッピングにおいて制約となっていた地域と時間が、インターネットとスマートデバイスが結びついたことで解消されたのだ。その結果、インターネットショッピングでもロングテールが見られるようになったのだが、現状を人手で分析するには限界があり、そこでいかに機械の力を使うかということにつながる。
例えば楽天では、2億の商材に対し、AIを活用することで、ランドセルには2つのハイシーズンがあることを自動で発見したという。1つのシーズンは入学式前の1月であり、2つ目のシーズンはお盆の時期だ。お盆で帰省した際、おじいちゃんおばあちゃんが孫のためにランドセルを購入しているという隠れたニーズが浮き彫りになった。
また、イベントをキーワードとした時系列のデータから隠れた相関を発見した例として、父の日にステテコが購入されていることが明らかになったことが紹介された。
Fintechでも進むAIの活用
AIの技術的な活用例としては、「多様化したユーザーのクラスタリングと最適化」と「個別化された需要予測」が紹介された。
前者については、ディープラーニングでInstergramの写真を解析することで、ファッションのトレンドを分析、さらにBandit AlgorithmのUCBアルゴリズムを用いて損失量上限の範囲内でユーザーを最適化したそうだ。
後者については、週・月・キャンペーン・月末・連休などを変数として、膨大なデータから季節性やイベントを加味した需要まで予測できていると説明した。その結果、在庫・価格の最適化を図ることができ、大幅なコスト削減を実現したという。
最後に森氏は、テーマにある「Fintech」に踏み込み、こうした技術をベースに楽天のデータを活用して、金融商品の予測・取引、FX自動取引を実施していると説明した。金融商品取引では、さまざまなモデルを試したが、ランダムフォレストを用いたモデルがもっとも成果を挙げたそうだ。
楽天は先進的なIT企業で知られることもあり、既にさまざまな分野でAIの活用が進んでいるようだ。人手ではお金も時間もかかりすぎる作業をAIに任せることで、人はトレンドの先端をキャッチアップして、それに対応していくことが可能になる。これから、少子高齢化が進む日本においては、AIの活用が必須と言われている。自社に適した形で、AIの活用に取り組んでいくことが、日本企業の課題となるのではないだろうか。