10月22日、日本マイクロソフトは「Surface Pro 4」を国内向けに発表。Surface Bookも2016年初頭に発売すると明らかにした。国内PCメーカーとの競合はどう考えているのか、また11月登場のiPad Proに対する優位性はどこにあるのかを分析する。
発表会で注目を集めたのは、前回の記事でも指摘した、国内PCメーカーと競合関係になる点だ。また、11月にはアップルの「iPad Pro」が登場、Surface Pro 4との対決が予想される。これらの話題を中心に、日本マイクロソフト発表会を振り返ってみたい。
Surface Bookの日本発売は2016年初頭に
日本に先立ってSurface Bookの予約が始まった米国では予約開始から数日で完売するなど、人気の高さが話題となっていた。もっとも、マイクロソフトは「Surface RT」などで需要を見誤った経験から、生産台数には保守的になる傾向がある。Surface Bookについても最初のロットについては台数をかなり絞り込んだ可能性も考えられる。
当面は米国での需要を優先し、日本向けにはSurface Bookの発表を見送るのではないかとの観測もあった中で、2016年初頭の発売が明らかになったことは好材料といえる。
とはいえ、米国での動向も流動的だ。米国のMicrosoft Storeのサイトには、10月6日の発表時点では存在しなかったSurface Bookの新モデルが追加されている。特徴は、外部GPUを搭載したモデルとしては最安の1699ドルという価格だ。ストレージの容量を128GBにとどめることで、それまで最小構成で1899ドルだった外部GPUモデルを、200ドル安く入手できる形になった。
この点についてブライアン・ホール氏は、Surface Bookの発表後の反応を見ながら、米国でも臨機応変に対応していると説明した。マイクロソフトとして初めてのノートPC製品ということもあり、流動的な状態が続いている。現時点では2016年初頭としているが、一部モデルを前倒しで発売したり、さらに延期したりする可能性も含んでいるという印象だ。
Surface BookがPCメーカーに与える影響は
今回は日本国内での発表会ということもあり、Surface Bookが他のPCメーカーに与える影響についても焦点になった。日本マイクロソフトはSurface Pro 4の発表に先立って、PCメーカー15社を招いた発表会を開催しており、パートナー企業から合計260機種のWindows 10デバイスが登場するとしている。
PC市場の縮小は止まっていない。10月8日に米IDCが発表した2015年第3四半期の世界PC出荷台数は前年比マイナス10.8%で、Windows 10の登場後も買い換え需要にはつながっていないという。
一方で平野氏は、「PC市場は鈍化しているが、2-in-1の需要は伸びている」と指摘、「他のPCメーカーに勝つためにSurfaceを作っているのではなく、市場を拡大するのが目的だ」と改めてSurfaceシリーズを投入する意図を説明した。
たとえばマイクロソフトは比較対象として、MacBook AirやMacBook Proを引き合いに出している。
だが、本来であれば「VAIO Z Canvas」など他のWindows PCと比べてSurface Bookがどれくらい優れているか、という比較のほうがWindowsユーザーには分かりやすいはずだ。こうした点からも、他のPCメーカーとの対立を極力避けたいというマイクロソフトの意図が感じられる。
確かに、PCメーカーの関係者からもノートPC型であるSurface Bookの登場を警戒する声はある。これまでタブレットのSurfaceシリーズであれば、各社ともに個人向けにAndroidタブレットを投入するという一種の「対抗策」があった。
しかし、ノートPCではWindows以外の選択肢に乏しいのが現実だ。そのため、マイクロソフトが提唱する市場拡大のシナリオに乗らざるを得ないという面はある。
だが、ASUSは「Chromebook」の新製品で国内の法人・教育機関向け展開に乗り出すなど、マイクロソフト以外の選択肢を模索する動きを魅せている。現時点ではSurfaceとWindows 10によるエコシステムの拡大というシナリオに賛同しているPCメーカーが多いものの、Surface Bookの登場により新たな動きが拡大するか、注視したいところだ。
Surface Pro 4は「iPad Pro」に対して有利か
日本マイクロソフトがSurface Pro 4の展開にあたって強調するキーワードのひとつが、「ワークスタイルの変革」だ。8月に開催した「テレワーク週間」にもみられるように、日本マイクロソフトはまず自社が率先して新しいワークスタイルを採り入れ、効果をアピールする構えだ。
このキャンペーンにあたって、平野社長自身がカフェでリモートワークをする姿を発信したこともある。その象徴的なデバイスとなっているのが、Surfaceシリーズだ。今後はSurface Pro 4がその役割を担っていくことになるだろう。
一方で、11月にはアップルの「iPad Pro」の登場が控えている。囲み取材でこの点について問われた平野氏は、「ライバル企業の製品には言及しないが、ペンに対応したデバイスが増えることは望ましい」と回答。iPad Proの登場を「歓迎」する意向を示した形になったが、ここからマイクロソフトがある種の勝算を持っているという印象だ。
というのも、2012年に発表したSurface Pro以降、マイクロソフトはペンを進化させてきた。最新のSurface Pro 4でも、従来のSurface Penより値上がりしたものの、専用の消しゴム機能を搭載、1024段階の筆圧検知、マグネットでの接着、1年間のバッテリー駆動など進化を続けている。
一方で、iPad Proはようやく標準でペンに対応するものの、アプリの対応やペンの書き味、手のひらでの誤動作を防ぐパームリジェクションなどは未知数の部分も大きい。
それに加えて平野氏は、Surface Pro 4のパフォーマンスの高さやWindows OSの汎用性、フル機能のOfficeやキーボードの使い勝手など、Windows PCとしての優位性を挙げてiPad Proとの違いを強調した。仮にペン機能が互角だったとしても、Surface Pro 4には性能や汎用性の面で負けることはないだろう、という「余裕」が感じられた。
その一方で、Windows 10においてもユニバーサルアプリの利用は限定的で、依然としてデスクトップアプリが幅を利かせている状態だ。Surface Pro 3を特殊な形状のノートPCとして使っているユーザーも少なくないだろう。
これに対してiPadには豊富なアプリ資産があり、iPad Proの登場により本格的なビジネスやクリエイター需要の増加が期待される。アプリ開発者からも、iPad Proの「ビッグウェーブ」に乗り遅れまいとする意気込みが感じられる。
日本マイクロソフトは年末商戦に向けて、Surface Pro 4を中心とした過去最大のプロモーションを仕掛ける予定だ。Windowsデスクトップを中心にビジネス需要を切り開くSurface Pro 4と、iOSエコシステムでアプリ開発者を惹きつけるiPad Proは、2015年の年末商戦において真正面からぶつかることになりそうだ。