iPhone 6s / 6s Plusの発売で盛り上がる今週だが、今年はいまいち覇気がないように感じられるソフトバンク。それもそのはず(?)、同社は"第2のソフトバンク"と、通信事業に集中してきたこの10年から、元々の土俵である"ネット"に回帰する動きを見せている。
5月の2014年度決算会見で孫氏が「本格的に世界のソフトバンク、ネットのソフトバンクになれるよう、もう一度加速していきたい」と話しており、その場でニケシュ・アローラ氏を後継者に指名したことは記憶に新しいだろう。アローラ氏はグローバルにおけるネット企業への投資を行うSoftBank Internet and Media,Inc(SIMI)のCEOとしてらつ腕をふるっており、インドなど東南アジアにおける成長マーケットで急成長を遂げているタクシー配車アプリベンダー、ECサイトなどへの出資を取りまとめている。
大企業でもイノベーションは生まれる
これらは、持株会社であるソフトバンクグループ傘下のSIMIにおける動きだが、国内の通信事業4社(ソフトバンクモバイル、ソフトバンクBB、ソフトバンクテレコム、ワイモバイル)が合併した新生ソフトバンクも、この7月に「SoftBank Innovation Program」をスタートした。
プログラムの詳細は該当記事に説明を譲るが、"第2のソフトバンク"としてのプログラム、というよりも、「第2のソフトバンクを目指す中で、どのように既存スキームとネットをすり合わせるのか」というところに焦点を合わせたものだろう。
もちろん、イノベーションとタイトルにあるように、今までにない発想を外部から求めることで、ビジネスの革新を求めるという意味ではチャレンジングな取り組みだろうが、他キャリアの同様の取り組み、KDDIの「KDDI ∞ Labo」、NTTドコモの「ドコモ・イノベーションビレッジ」とは異なり、手を組む企業をスタートアップ、ベンチャー企業に限定しているわけではなく、大企業の外部プレイヤーでも手を組めるスキームになっている。
応募締切は9月30日までだが、KDDIやNTTドコモからかなり遅れて、自社製品・サービスとのコラボレーションプログラムを開始した理由やプログラムの目標はどこにあるのだろうか。プログラムを運営するソフトバンク サービスプラットフォーム戦略・開発本部 プラットフォーム戦略統括部 プラットフォーム戦略部 イノベーション推進課 担当課長の原 勲氏と同課 課長の大西 英智氏に話を聞いた。
IoTという節目
――KDDIは2011年夏から∞ラボを、NTTドコモは2013年夏からイノベーションビレッジを始めていますが、なぜこのタイミングなのでしょうか?
原 勲氏
ソフトバンクでは、ベンチャーなどとの協業はライン(提携、協業、出資の案件)ごとにやっていました。ただ、今回のプログラムで言えば、「IoT」という今までの常識では捉えられないビジネス領域の展開する。ここで全てを自前でやっていくのは大変ですし、参加プレイヤーも増えているため、体系立ててやっていこうということになりました。
また、広く"ソフトバンクグループ"という枠組みで言えば、ネットに密接なヤフーがその役割(ベンチャー企業との連携)を担っていました。その中で、特段"どこの企業"と限定するわけではないのですが、既存のプログラムの場合には大きな課題があると思っています。
本当にマネタイズに繋がるのか、ビジネスとして成立しているのか、という課題です。
オフィスを提供したり、外部企業が参画してサポートするスキームは凄いなと感じますが、事業者側、そしてスタートアップ側にとっても「メリットになるのかな」と考えてしまいます。
そうした問題を解決したいという思いでこのプログラムが走り出しました。会社としての体制変更と共に、それをメッセージとして出していきたいなと。
外の人から見ると孫 正義が全てを取り仕切っているイメージがあるようですが(苦笑)、大きな会社ですし、現場はそうではない。だからこそ、このプログラムで世に問うて、オープンに募集し、見つけられていなかったパートナーの声を集めようとしているのです。
大西 英智氏
「オープンイノベーション」と言うと、"ベンチャー企業"というイメージになってしまいますが、ベンチャーに限った募集ではなく、企業の規模に関係なく募集しています。理由は割と単純で、大きな企業でも革新は生まれると思っていますし、創業年は関係ありません。
シリコンバレーの経験
原氏
3月までシリコンバレーに赴任しており、その経験を活かしてやっています。向こうでは、こうした既存の大企業とIT企業のコラボレーションはどこもやっている。新しいものをどんどん取り込んでいるんです。
――プログラムにはどういった企業を求めているのでしょうか?
大西氏
あくまで我々が求めているのは「パートナー」であって、出資する企業を探しているわけではありません。募集要項にもありますが、アイデアだけじゃダメで、実現性があるものが基準になります。
――必ずしも出資するわけではない一方で、製品・サービスのコラボレーションにおけるテストマーケティングへの予算は「制限を設けない」とのことですが。
原氏
もちろん、100億円、200億円を突っ込めるわけではありませんが(笑)、基本的には出す方向でいます。
――募集も終盤(取材は9月上旬)に差し掛かっていますが、応募状況はいかがでしょうか?
原氏
今回は日本だけでなく、世界で募集を行っています。先週はイスラエルのテルアビブで、海外唯一の説明会も行い、盛況に終わりました。(日本は?との問いに)募集の後半に入って増えてきましたが、欧米の方が比率的には多いですね。自分たちもそうなのでわかりますが、日本人は締め切り直前になるとどんどん来るんです(笑)。期限内には必ず……という感じなので、特に心配はしていません。
大西氏
欧米の反応の良さは、やはり出口が「日本だけじゃない」というところでしょうね。
原氏
ただ、今回のプログラムは基本的に「for JAPAN」なんですよ。そこは安心してもらって良い。
欧米系企業でいえば、日本法人からの応募、というわけではなく、むしろ少ないですね。意外なところでは、アフリカのコートジボワールの企業からも来ています。
こういうプログラムをやるとなると基本的には、「シリコンバレー」になりがち。もちろん、そこにも来てもらいたいけど、中国・韓国・シンガポールの企業にも申し込んでもらいたい。そうした中で、すべての国で説明会するわけにはいかない。だから、"技術立国"のイスラエルで説明会を行いました。あそこはセキュリティやスマートフォン、コネクティッドカーが進んでいるので、IoTで注目すべきスポットです。イスラエルの持つポテンシャルは非常に大きいと思っています。
大西氏
Googleが自動運転にコミットしていますが、そうした分野でもイスラエルの存在感は大きい。
原氏
コネクティッドカーやスマートホームは、関連ソリューションが元から不足している海外の方が多く、日本じゃ少ないと想定していましたが、現状で見てもその傾向は見られます。一方で、デジタルマーケティングやヘルスケア分野は、やはり国内勢の方が存在感はありますね。
キャリアのプラットフォームを活用してほしい
――IoTという言葉の定義は、かなりざっくりしていますよね?
原氏
B2Bのネットワークカメラとか、コンシューマ向けでも来年のCESとか、界隈にはハードウェアは色々出てくると思います。ただ、こうしたものの仕入れだけだと、ストックビジネスとのシナジーを考えると、大きなビジネスになりづらいんですよ。
いかにソフトウェアを組み合わせて、実ビジネスにしていくかが重要だと思います。B2Bの現場からすると、コンシューマについてはデバイスが必ずしも求められているわけではないと思っています。
だからこそ、キャリア側の腕の見せどころというか、応募アイデアと我々のアセットを組み合わせて、一緒に考えていくことで出来ることが多分にあると思う。来たアイデアをそのまま流すだけでは"イノベーション"でも何でもない。そうした考えだからこそ、フレキシブルに、販路は直販で、B2B、B2Cという区切りだけじゃなく、B2B2Cなど様々な可能性を検討したいです。
――通信業界として、近年は"マンネリ化"も指摘されていますが……。
原氏
一般的な話で言えば、MVNOという形で、サービス企業に回線を卸して展開する流れがありますよね。これはどのキャリアも考えていることだろうし、IoTを広げていく一つの手段だと思ってます。
ニーマルニーマル(2020)に向けて、Wi-Fi環境の整備が全国で進んでいく中で、これらのインフラを活用すれば、もしかすると4G網が要らなくなることだってあるかもしれない。それは言いすぎかもしれないけれど、こうしたキャリアが展開するインフラは決済とかいくつも"土台"がある。これらをサービス企業に使ってもらうことで、日本がより便利な世の中になれば良いなと思います。
大西氏
キャリアが出来ていないところがそこで、通信会社として自分たちでしか使ってないインフラが色々あるんですよね。メールにGPS、ほかにも色々ある。プラットフォーム事業は、よりオープンにして、事業者さんを参入できるようにソフトバンクとしても打ち出していきたい。
もちろん、オープンなプラットフォームなので、私たちで「このアイデアじゃなきゃダメ」という考え方、募集のしかたではありません。フェイス・トゥ・フェイスで膝を突き合わせ話し合いたいし、質問やわからないことがあれば、ご連絡いただきたい。
野望はNASDAQ上場
――第2回、第3回と続けていく予定はあるのでしょうか?
原氏
少なくとも、第2回構想はありますし、我々としても継続していくことを前提に考えています。これは"イベント"ではなく、継続していく"プログラム"なんです。
――では、プログラムの目標は?
原氏
最終的な目標ですか……。おぼろげながらですが、こういったプログラムから、やっぱりNASDAQ上場企業が出てくることですね。ここに上場できれば、グローバルで認められる企業になるということ。"ユニコーン企業"という言葉もありますが、今のアメリカのスタートアップの大目標でもあります。
――プログラムに興味を持つ企業に伝えたい言葉はありますか?
原氏
キャリアの取り組みで言えば、後発です。ただ、スタートアップに限らず、どの分野においても「常にパートナー求めている」というメッセージは声を大にして言いたいですね(笑)。
ソフトバンクだからこそ、世界へチャレンジできる機能がありますし、ほかの会社には真似できない。そこは、応募していただく企業の方に伝えたいです。
大西氏
よく「日本のベンチャー興味ないでしょ」と言われますが(笑)、もちろん、全然そんなことはありません。このプログラムで言えば、海外の企業を特別に求めているわけではなく、日本人として日本の企業が来てくれることがいいなという思いもありますし、それを世界に持っていければ、それに越したことはありませんね。