「MUJI DIGITAL MARKETING 3.0」というスローガンのもと、独自の会員システム「MUJI passport」を開発し、マーケティングの "オートメーション化" に取り組む良品計画。EC事業への積極的な施策の背景について「広告宣伝費がないから(笑)」と冗談半分に語るのは、同社 WEB事業部長 奥谷孝司氏だ。そんな同社のリアル店舗とWebをつなぐ取り組みは現在、新たなステージを迎えている。試行錯誤を経て到達した同社のマーケティング施策の「いま」を奥谷氏に聞いてみた。

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「I Know シンドローム」に要注意!!

株式会社良品計画 WEB事業部長 奥谷孝司氏

「ビッグデータ」がバズワードとして扱われたのは過去の話である。もしかするといまだに、「どうせ時期が過ぎれば誰も口にしなくなるでしょ」と考えている人も少なくないかもしれない。しかし良品計画では、このビッグデータを最大限に活用し、EC事業の成長に結びつけてきた。

これまでの同社のマーケティングキャンペーンは、マーケティング担当者が「おススメしたいもの」をユーザーに都度提案するケースがほとんどだったが、現在の同社の施策は、「ユーザーが好むであろうもの」をユーザーの行動や購買履歴のデータを分析して予測し、自動的にレコメンデーションを行う仕組みに移行している。これを実現しているのが、まさしくビッグデータである。

同社は7月、取扱製品と連動した「MUJI to Sleep」というスマートフォン用のアプリ(無料)をリリースしている。多くのユーザーは眠りについて自然と多くの知識を身に付けており、「いまさら『眠り』にフォーカスしたキャンペーンを実施しても訴求力が低いのではないか」と考えがちだが、眠りの"質"を向上させることについては、潜在的なニーズが国内外において存在しており、同社は「MUJI to Sleep」によってこのニーズの掘り起こしに成功したのだ。

「ユーザーがすでに知っている」=「売れない」ではない。奥谷氏はこれを「I know シンドローム」と表現し、事業者側が自らこのようなアイデアの "壁" を作るべきではないと指摘している。

「直販というチャンネルコントロールが容易な販売形態をとり、世界的な人気ブランドに成長した "無印良品(MUJI)" だからこそできるという側面はありますが、このような施策は、メーカーであれば(ハードルの高さに差はあったとしても)どの企業でも実現可能なアイデアの1つだと思います」(奥谷氏)

例えば、JANコードと製品情報を正確に紐付け、その製品をアプリと連動させることで、メーカー側は次の製品開発のヒントとなるユーザーの "生" の行動データを蓄積することが可能となる。今回の例で言えば、「購入された製品が、ユーザーの手元で『いつ、どのような場所で』使われているのかを、メーカー側が定量データとして把握することが可能になるわけだ。このようなデータの蓄積があれば、製品開発のみならず、アイデア次第でさまざまなマーケティングキャンペーンにも活用できるようになる。

顧客の「時間」に入り込む方法

奥谷氏はこれまでにも講演やメディアを通じ、マーケティングにおける「顧客時間の重要性」を訴えてきた。「顧客時間」とは、顧客が製品(やサービス)の検討から購入、使用(消費)に至る一連のプロセスであり、同社はこれを可視化して、各種ツールや施策を通じ、この中に入り込むことに注力してきた。それは「MUJI to Sleep」よりも1年以上前にリリースされたスマートフォン向けのアプリ、「MUJI passport」である。

「MUJI passport」の大きな目的は、「オフライン(店舗)での情報をオンライン経由で可視化し、お客様との絆作りに努める!」というもの。同アプリは、同社のポイント還元サービスである「MUJIマイルサービス」と連動しており、来店や製品購入、ECサイトへの投稿といったアクションに対してユーザーにインセンティブを付与する仕組みが提供されている。

リリースから1年が経過し、「顧客時間」の把握を可能にした同社の「MUJI passport」施策によるデータの蓄積は膨大なものとなってきた。これにより、冒頭で触れた「マーケティングの "オートメーション化"」によるレコメンデーションは精度が向上し、同社の戦略に不可欠な要素となっている。奥谷氏は、「特にメーカーの "中の人" は、ビッグデータによる自社の可能性にもっと気づいてほしい」と語り、日本の製造業にもっと頑張ってほしいとエールを送っている。

本稿の詳細については、奥谷氏が登壇するイベント「マイナビニュース フォーラム 2014 Winter for データ活用」(開催日: 2014年12月9日(火) / 会場: UDXギャラリーネクスト(秋葉原) / 開場: 9:30)にて語られる予定だ。データ活用に課題を抱える企業の担当者は、ぜひ会場に足をお運びいただきたい。