WordPress の父と呼ばれるマット・マレンウェッグ氏(以下、マット氏)が6月に来日した。マット氏は韓国、インドネシア、シンガポール、東京、大阪、フィリピン、ニュージーランド、オーストラリアと回る、アジア太平洋地域の WordPress コミュニティを巡るツアーを展開しており、東京/大阪でのミーティングのために日本にも立ち寄ったかたちだ。
私は、マット氏、Automatticの高野 直子氏、プライム・ストラテジー 中村けん 牛氏、オライリー・ジャパン 編集長の伊藤 篤氏、日本マイクロソフトのエバンジェリスト 武田 正樹氏とテーブルを同じくし、WordPressやPHPの日本市場での動向やエンジニア教育に関して意見交換をする会議に参加した。また、東京と大阪のWordPressのイベントに参加し、マット氏の基調講演を拝聴するとともにWordPressのコミュニティ活動にも触れることができた。
本稿では、マット氏の発言、講演内容、東京、大阪、インドネシアのイベントの模様から、アジアを中心とする非英語圏のソフトウェア産業の構造改革について見えてきたことをまとめる。今後のシステムインテグレーターの在り方や、Web開発会社の在り方を考えるうえで、何らかの参考にしていただける方がいれば幸いである。
WordPressとは
まずはWordPressについて改めて説明しておこう。WordPressとは、マット氏が開発したオープンソースのWebソリューション実行環境である。
WordPressについては、ブログシステムやCMS(Contents Management System)と考えている方が多いようだ。これは、WordPressが有名になった当時にブログシステムやCMSにフォーカスしていたためだろう。
今もそう思っている方は是非WordPressの最新情報に目を通してほしい。WordPressはすでにCMSから進化しており、総合的なWebアプリケーション実行環境になっているのである。
現在は、ブログ、コーポレートサイト、ECサイトなどWebサーバー上で実行される全てのシステムをWordPressで開発・運営できるようになってきている。そのシェアは、CMSにおいて60%、Webシステムにおいて22.4%(出典:W3C TECHS2014年6月)を獲得しており、引き続き拡大を続けている。私はWordPressで基幹システムを作る時代もそう遠くはないとさえ感じている。
WordPressのミッションはパブリッシングの民主化である
会議でもセミナーの講演でもマット氏が強調していたことの1つが「WordPressが"パブリッシングの民主化"というミッションを掲げていること」である。
これは、「老いも若きも、金持ちも貧困に苦しむものも、いつでもどこでも気軽に情報を発信(パブリッシング)できる環境を作る」ということである。PCやスマートフォン、タブレットなどのデバイスを選ばず、そして言語も選ばず、世界中のだれもが情報を発信できることを目指している。
マット氏はこのミッションを、自身がCEOを務めるAutomatticだけで成し遂げようとは考えていない。世界各国に存在しているWordPressコミュニティを通じて実現しようとしているのだ。
通常のソフトウェアメーカーは、自社のミッションを実現するために、自社でソフトウェアを開発し、自社で多言語化し、自社で技術者を教育し、自社で販売店を支援している。これらは全てビジネスによって成立しており、多額の金額が必要である。見方を変えれば、資金が必要であるがゆえに、利益がでる法人しか参加しないビジネスモデルということが言える。
対して、コミュニティで運営されたソリューションは、利益を予想できる法人に加え、個人や単純なファンも含めて参加できるため、参加規模が圧倒的に大きくなるのである。この規模感をビジネスに結び付けられれば大きな影響力を持つことになるのは簡単に想像できることである。