日立製作所は8月26日、企業のプライベートクラウドに加え、日立が運用管理するマネージドクラウドやAWSやMicrosoft Azureなどのパートナークラウドの複数クラウドを組み合わせて利用可能なフェデレーテッドクラウド(Federated Cloud)環境を実現するクラウド基盤を開発し、2014年10月から順次提供を開始すると発表した。
日立では、この機能を提供するため、2013年12月からグループ会社を含めた事業部門・研究開発部門にまたがる約300名体制のクラウド戦略プロジェクトを立ち上げて開発を行っており、今回の発表は第一弾になる。
プロジェクトの推進にあたって、AWS、シトリックス・システムズ・ジャパン、エクイニクス、マイクロソフト、レッドハット、セールスフォース・ドットコム、ベライゾン、ヴイエムウェアといったパートナーとのアライアンスを強化。2014年3月には、先端クラウドラボを発足し、AWS、アセンテック、シトリックス・システムズ・ジャパン、サイボウズ、マイクロソフト、NTTデータ イントラマート、セールスフォース・ドットコム、Sansan、ヴイエムウェア、ウイングアークなど各社の複数サービスを効果的に連携させた新サービスを開発している。
新たに提供するクラウド基盤は、「フェデレーテッドクラウド」を中心に、「クラウドセキュリティ」、「SaaSビジネス基盤」、「サービスインテグレーション」等で構成された製品・サービス群で、今回、第一弾として、ソリューションの中核である「フェデレーテッドクラウド」を実現する関連サービスの提供を開始する。
フェデレーテッドクラウドでは、「フェデレーテッドポータル」を提供。フェデレーテッドポータルは、パートナークラウドを含めた一元的な監視・運用や、クラウド間マイグレーション(移行)自動化のためのツール(2015年4月から利用開始)。フェデレーテッドポータルは日立が運用管理するマネージドクラウド上に構築されるが、プライベートクラウド上で管理したいユーザー向けには、プライベートクラウドを簡単に構築できる「出前クラウド」を2014年12月から提供する。出前クラウドでは、クラウド基盤を構築するために必要なブレードサーバ、ストレージ、ネットワーク機器、および管理コンソールをすべてラックに収容して、すぐに利用できるプライベートクラウド環境として顧客に提供し、フェデレーテッドポータル機能も搭載される。
クラウド統合ネットワークでは、複数のクラウドを連携させるために、日立の国内データセンター間をつなぐネットワークを再編し、クラウド統合ネットワークとして順次、提供する。まず、首都圏にある3箇所のデータセンター間を数ms(ミリ秒)レベルのレイテンシで最大320Gbpsまで拡張可能な広帯域ネットワークで密結合したネットワーク「首都圏トライアングル(仮称)」を構築し、高速バックアップ用ネットワークサービスを2014年10月に提供開始する。
さらに、2014年12月には、AWSと「首都圏トライアングル」を広帯域ネットワークで密結合。今後、Azureについても「首都圏トライアングル」への接続を行う予定だ。
クラウドセキュリティでは、顧客環境から外部のパートナークラウドを安全かつ容易に利用するための各種セキュリティサービスを開発・提供する。これには、Security Operation Center(SOC)のスタッフによる24時間365日、外部からの不正アタック監視のほか、必要に応じてセキュリティ対策を実施するサービスなどが含まれる。今後、セキュリティゲートウェイサービスでは、データの暗号化や、アクセスコントロール機能など、順次、機能強化を図っていく。
SaaSビジネス基盤では、SaaSに必要となるシステム基盤から、ヘルプデスクや運用代行などBPOサービスまで提供。具体的には、ユーザー情報管理(利用申請・変更・承認)、ログ解析、課金管理といったSaaSに必要な共通機能を提供する。
そして、サービスインテグレーションでは、サーバ統合やディザスタリカバリなど利用頻度の高いクラウドシステムの共通的な課題や設計上のポイントなど、構築ノウハウと利用技術を予めまとめ、「日立クラウドデザインパターン」として提供する。
日立製作所 執行役常務 情報・通信システム社 システム&サービス部門CEO 塩塚啓一氏は、提供サービス拡充などにより、パブリッククラウドの需要が急速に拡大し、2017年には市場規模でプライベートクラウドと同等の見込みになるとの外部調査レポートを示し、「クラウドへのニーズは今後も大きい。そのため、新しいビジネスに対応できるスピード感やコストメリットがグローバルで必要でなる。そこで、今後は日立の社内システムの運用ノウハウをサービスとして商品化とパートナーとの共創強化の2つを軸に、ビジネスニーズに対応していきたい」と述べた。
日立製作所 情報・通信システム社 クラウドサービス事業部 事業主管 中村輝雄氏は、パートナーのクラウドを活用するメリットを「プライベートクラウドや日立のマネージドクラウドを利用するには、多少の時間と投資が必要になる。パートナーであれば、お試しのような使い方もでき、お客様の望むスピード感を提供できる」と説明した。
パートナークラウドは、現在、国内のデータセンターを想定しており、海外については今後検討するという。また、SLAについては、現状のパートナーが適用しているSLAを踏襲。より高いSLAを求めるユーザーには、日立が運用するマネージドクラウドを推奨していくという。