旭酒造 代表取締役社長 桜井博志氏(左)と富士通 執行役員 廣野充俊氏(右)

富士通と旭酒造は8月4日、報道陣向けの会見を開催し、4月より旭酒造が製造・販売する日本酒「獺祭」の原料となる酒造好適米「山田錦」を生産する農家に、富士通の提供する食・農クラウド「Alisai(アキサイ:秋彩)」を導入したことを発表した。

Alisaiとは、経営や生産、販売といった農業経営を支援するSaaS型サービス。経営分野では、会計や給与、税務申請など、生産分野では、作業や収穫、出荷等の計画と実績の集計・分析、販売分野では、農作物の仕入から原料や加工品の在庫管理、受注、出荷、売上管理などをサポートする。

Alisaiサービス体系

Akisai 生産分野の導入イメージ

富士通の農業分野における取り組み

旭酒造は、山田錦の栽培における作業実績と生産コストの見える化を目的とし、4月から山口県内の2生産者に「農業生産管理SaaS」と「マルチセンシングネットワーク」を導入したという。現在は、「栽培実績情報の収集・蓄積」と「環境情報の収集」を行っている段階で、今後は収集したデータを活用・共有し、「生産量増加と新規生産者でも安定した栽培・収穫の実現」を目指す。

旭酒造と富士通の連携による取り組みの概要

農業生産管理SaaSでは、「いつ、どの圃場で、どのような作業を行ったか」という日々の作業実績や、使用した農薬・肥料・資材、草丈・茎数など稲の生育状況、収穫時の収穫量・品質等を、パソコンやスマートフォン、タブレットといったデバイス上で記録することで、「農業の経営・生産・品質の見える化」を支援する。一方、マルチセンシングネットワークでは、圃場に設置したセンサーを使用し、気温・湿度・土壌温度・土壌水分・電気伝導度(EC)を、1時間ごとに自動で収集し記録するほか、定点カメラにより毎日正午に生育の様子を撮影することで、環境情報の収集を実現する。

記録されたデータは、富士通の管理するサーバー上で保管され、同社による収集や分析が行われた後、生産上のノウハウや知見(栽培暦)として農家に還元される。なお、所有権は記録を行った農家側にあり、同者の了承の上、生産者や旭酒造、富士通、その他山田錦の生産を行う参画者での共有・閲覧が可能となるという。

農業生産管理SaaSによる作業実績情報の収集

マルチセンシングネットワークによる環境情報の収集

データ活用イメージ

旭酒造 代表取締役社長 桜井博志氏は、Akisaiの導入について、「山田錦の生産量や農家が少ない現状を打破し、長期的に安定した調達を実現したい」とした。山田錦は、その収穫量の約半数を兵庫県の農家が担っており、草丈が高く倒れやすいほか、生産時期や環境管理が難しい作物だという。近年、生産地が北上しており、同氏は、「今後は、新潟などが産地として期待が高まっている」としている。

一方で、農家側には、「農業技術の将来への不安や酒蔵による購入への不安により、生産の存続や新規参入に踏み込めないでいる」現状があるという(桜井氏)。同社は、この状況を改善するべく、Akisaiの導入に手を挙げた。これにより、「栽培ノウハウの共有」と「契約生産者の経営安定化」「新規農家の増加」「地域特化型の山田錦栽培暦の質向上」を支援し、「将来は、日本全体で60万俵の山田錦の生産を実現したい」という。

富士通と旭酒造の連携経緯

連携の狙い

なお、富士通は今後、Akisaiの機能強化を図り、同サービスの導入先を拡張する考えで、3Qを目処に「栽培暦」や「育成調査」「生育予測」などの機能を増強する。同社 執行役員の廣野充俊氏は、「農家や生産者の支援などにより、安倍政権の掲げる『農業の6次化』に向けたトレーサビリティの実現に貢献したい」と今後の取り組みへの意欲を語った。

栽培暦機能の強化イメージ

生育調査機能の強化イメージ

生育予測機能の強化イメージ