皆さんは、2013年の「Free iPhopne App of the Year」を受賞した「Duolingo」というアプリをご存知だろうか。

サービス開始からまだ2年の"若い"サービスだが、すでに世界で3000万人以上のユーザーを獲得。iPhoneアプリはリリースから1年で100万ダウンロードを記録し、Google Playにおいても昨年の「Best of the Best」に選出されるなど、多くの賞に輝いている。

Duolingoの開発者 ルイス・フォン・アン(Luis von Ahn)氏。クラウドソーシングの第一人者として知られる。Discover Magazine,の「the 50 Best Brains in Science」、Popular Science Magazineの「Brilliant 10」、Silicon.comの「50 Most Influential People in Technology」など、数々の受賞暦を誇る天才エンジニア

実はこのアプリ、「CAPTCHA」の開発者として知られるルイス・フォン・アン(Luis von Ahn)氏が手がけたものである。CAPTHCAとは、インターネットで会員登録を行う際などに、人間であること(ボットではないこと)を確認するために利用される技術。画像に記された文字を読み取って入力させる、"あの仕組み"である。

アン氏はその後、CAPTCHAで表示する文字画像に、OCRで読み取れなかった紙文書のものを使用する「reCAPTCHA」を開発。ニューヨーク・タイムズやGoogle ブックスにおいて紙面を電子化する際に自動判別できなかった文字画像をCAPTCHAのユーザー認証にまわし、人間であることを確認しつつ、文字の判別もさせるという"一石二鳥"のシステムを確立して電子化作業を劇的に効率化させた。

さらにアン氏は、無作為に選んだ2ユーザーに同じ画像を表示し、それから連想する言葉が一致するかどうかを競うゲーム「ESP Game」の開発者としても知られている。ゲームの裏では、ユーザーの回答として蓄積されたキーワードを当該画像にタグ付けして、画像検索の精度を向上させる仕組みを構築しており、これが「クラウドソーシング」という概念を確立するきっかけとなった。

そんなアン氏が開発したDuolingoとはどういったアプリ/サービスなのか。本誌は、アン氏に直接話を聞く機会を得たので、これまでの功績とともにご紹介していこう。

クラウドソーシングという概念を生み出したエンジニア


――Duolingoの話に入る前に、まずはアンさんの実績について教えてください。アンさんの名を有名にしたのが「ESP Game」だと思います。どういった経緯で開発することになったのでしょうか?

アン氏 : ESP Gameを作ったのは2001年から2002年だったと思います。当時はWebが一般ユーザーに使われはじめて間もないころです。今のように画像検索は発達していませんでした。

例えば、犬(dog)の画像がほしくて「dog」と入力して検索しますよね。検索結果として表示されるのは、ファイル名に「dog」が入っている画像で、実際に犬が写っているかどうかは関係ありませんでした。

コンピュータの能力で画像の内容を識別できないのなら、人間の力を借りて解決できないか。ゲーム形式で回答させれば、楽しんでもらいながら情報を整備できるのではないか。そう考えて開発したのがESP Gameでした。

このゲームでは、100万人単位でユーザーを集めるとどういう力が生まれるのかが学べ、私にとって貴重な経験となりました。

――ゲームはその後Googleに買収されたんですよね。

アン氏 : そうですね。Googleに買収された後は、Google Image Labelerとして運営されていましたね。

――同じくGoogleに買収された技術としてreCAPTCHAもありますね。こちらはどういう考えで開発されたのですか?

アン氏 : CAPTCHAは2000年に共同で開発した技術なのですが、2005年ごろには非常に多くのWebサイトで使われる状況になっていました。調べたら、認証しているユーザーは1日に2億人。非常に誇りに思いましたが、同時にそのリソースを無駄にしていることにも気付きました。

一方で、紙文書をOCRで読み取って電子化する作業があることも知っていましたので、ニューヨーク・タイムズと相談し、読み取りに失敗した画像をCAPTCHAに流して、ユーザーに解析してもらってはどうかと提案しました。この技術がreCAPTHCAです。

以前は、担当者が1つあたり10秒程度をかけて解析していましたが、reCAPTHCAでは、無数のユーザーの力を借りて自動的にかつ劇的なスピードで解析を進められるようになりました。Web上の膨大なリソースをうまく活用できた良い例ではないかと思っています。

こちらもその後Googleに買収されたので、現在はGoogle Booksで活用されています。

――そうしたサービスを企画/開発するうえで、何か心がけていることはありますか?

アン氏 : とにかくシンプルにするということを心がけています。何事も、最初のアイデアの段階では複雑なものになりがちです。それをシンプルにするとどうなるのか。そう考えて突き詰めていくと、「なぜ今このサービスがないのか」と思える案に変わっていきます。そこで初めて開発に着手するというプロセスを踏んでいます。