ソニーは19日、クラウド上で個人情報に配慮したデータの蓄積を可能とする、非接触ICカード技術FeliCaのカードを利用した電子お薬手帳の試験サービスを2013年秋より神奈川県川崎市にて開始すると発表した。

ソニー 執行役 EVP 鈴木智行氏

ソニー ビジネスデザイン&イノベーションラボラトリ 福士岳歩氏

従来のクラウドを利用した一般的なサービスでは、利用者の個人情報とデータの両方がペアで同じクラウド上のサーバに保存されるため、万一外部または内部からシステムへの侵入があった場合、これらの情報が同時に漏えいするリスクがあった。これに対し、今回ソニーが新たに開発したシステムは、個人情報とデータを分離し、データのみをクラウドに保存するため、仮にクラウド上のデータへの不正アクセスがあったとしても、個人情報が守られる構造を実現している。今回発表になった電子お薬手帳サービスは、この仕組みを利用した最初のアプリケーションとなっている。

電子お薬手帳システム

お薬手帳は、医師が処方した薬の名称や量、服用回数、飲み方などの調剤情報を記録するもの。2012年4月より、すべての患者に配布されるようになった。複数の医療機関で薬が処方された場合でも、医師や薬剤師が薬の重複や不適切な飲み合わせがないか等の確認を行うのに役立つもので、主に紙の手帳が利用されている。紙の手帳は、薬局から受け取る調剤情報シールを貼り付けたり、自分でメモを書き込めたりする手軽さがある一方で、薬局への携行を忘れてしまった場合や、手帳自体を紛失した場合等、調剤履歴を継続的に蓄積、管理するのが難しいという一面がある。

同社は、個人の調剤履歴の記録や管理向けに、FeliCaカードを利用した電子お薬手帳と、スマートフォン用アプリケーションを開発。利用者は、FeliCaチップが埋め込まれたカードを薬局の端末にかざすだけの簡単な操作で、調剤履歴の閲覧と調剤情報の記録を行うことができる。さらにスマートフォン用アプリをインストールすれば、モバイル端末からも情報閲覧できるほか、診察を受けた際の症状や、服薬後の副作用、アレルギーなどの記録も可能となる。アプリはiOS,Androidともに提供される。また、薬局は専用のソフトウェアをインストールしたパソコンやタブレット、カードリーダー等を用意することで、システムを構築できる。

このサービスでは、調剤履歴に加えて、利用者がスマートフォンで入力した症状、副作用、アレルギーなどに関する各種情報も薬局側で一元的に把握することができ、薬剤師は利用者の状況を効率よく把握でき、「リスクコミュニケーション」の促進にもつながる。

個人情報とデータを分離することで個人情報流出への不安を払拭できる

同サービスの実証実験として、神奈川県川崎市宮前区医師会および同市薬剤師会と協力して、東京大学大学院薬学系研究科の五十嵐中特任助教監修の下、2011年11月より川崎市宮前区にある約20の薬局にシステムを提供してきた。各薬局がこのシステムを用いたサービスを提供し、現在までに約1,000名の利用者に実際に利用しているという。

ソニーは利用者や薬局からの要望を検討し、2013年秋からは対象エリアを川崎市全域に拡大して、さらなる試験サービスを展開していくとしている。