私たちの生活と深く結び付いた「食」の世界をテーマに、月間利用者数1,500万人、レシピ数120万を超える日本有数のレシピサイトとして、現在も成長を続けているクックパッド。近年では、iPhoneやAndroidスマートフォンへの最適化も積極的に行い、「レシピの集合サイト」から「食のプラットフォーム」への拡張も急ピッチで進めている。

激しく変化する市場の状況や消費者の動向にこたえるべく、サービスを拡大していくにあたって、インフラからフロントエンドまでを支えるエンジニアたちが果たす役割は大きい。クックパッドには、どのようなエンジニアが集い、また現在どんなスキルを持ったエンジニアが求められているのだろうか。

マイナビが9月22日に開催する「ITエンジニア転職セミナー」で講演を行うクックパッド人事部副部長 エンジニア統括マネージャーの井原正博氏に、同社におけるエンジニアの役割、そしてクックパッドが求めるエンジニア像について話を聞いた。

クックパッド人事部副部長 エンジニア統括マネージャー 井原正博氏。9月22日に開催する「ITエンジニア転職セミナー」で講演を行う

個人でプロダクトに関わる人の強みは「視野の広さ」

クックパッドでは現在、約100人の社員が働いているが、そのうちの約4割強が「エンジニア」である。彼らは、クックパッドのさまざまな機能、サービスの開発や新規事業におけるサービス開発、インフラ運営などに携わっている。

全社員に占めるエンジニアの比率について、井原氏は「明言はできないが、今後も増えていくと思っている」と話す。自らもエンジニアである井原氏の考えは「エンジニアリングの素地は、企業内のどの機能に携わるにしろ、できれば全員が持っていたほうがいい。エンジニアリングを基本に機能ごとのスペシャリティを発揮している環境が理想」というものだ。

同社で現在働いているエンジニアには、以前にヤフー、楽天、グリー、ドワンゴといった、いわゆる「Web系」企業で働いていた人が多い。その中でも、「企業に属しつつ、個人でもWebサービスやオープンソースソフトでプロダクトを作るような活動をしている」人が集いつつあるという。これには人事を担当する井原氏の意向も反映されている。

「個人でプロダクトに関わっている人の傾向として、情報を収集するための間口や視野の広さといった強みがあるように感じます。また、役立つ情報を見つけて利用させてもらったら、何らかのフィードバックを返すといった形でコミュニティに貢献することが自然にできる。クックパッドには、そういう空気を肌でわかっているエンジニアが集ってくれることが、理想だと思っています」

クックパッドでは、エンジニアによるブログでの情報発信や、勉強会、開発コンテストの実施なども積極的に行われている。こうした活動も、会社や個人によるコミュニティへの貢献をより進めていきたいという方向性の表れだ。井原氏は「こうした取り組みは、長期的に見て会社にとっても価値のあるものになっていくと考えて続けていきたい」と話す。

自分の技術で周囲のレベルを上げていく

今後、クックパッドに参加するエンジニアに対し求めたい要件を尋ねたところ、井原氏は「自分の持っている技術的なスキルで、周りのエンジニアのレベルを上げていこうという感覚」と答えた。

同社は、エンジニアリングの基本スキルをベースに、多くの技術者がサービスの開発や運営に取り組んでいる。こうしたエンジニアの中には「サービス開発をしたい」「エンジニアとして自分たちが持っているスキルを世の中のために使いたい」という強い思いがある。これは、非常に大切なモチベーションだ。

井原氏はこうした思いの大切さを理解したうえで、あえて「今は、さらに技術寄りの視点を持った人が増えてもいいのではないかと考えている」と言う。

「私としては、クックパッドの会社としての純粋な技術力は十分ではないと思っています。それを高めていくには、技術が本当に好きで、自分の技術力で周囲のレベルを上げていき、自分のいる場所を世界で一番の環境にしてやろうといった感覚を持ったエンジニアを増やすことが必要だと感じています」

エンジニアの仕事の本質は「自分一人の力でできることを『仕組み化』し、それを大規模に展開して影響を周囲に広げていくこと」だと井原氏は言う。

同じ会社の中であれば、同僚や後輩に直接指導を行うことにも価値はある。しかし、さらにマクロな視点を持つことで、そのエンジニアが生みだす価値は最大化できる。例えば、自分のノウハウとスキルを生かして、社内で利用するフレームワークやライブラリを整備するといった取り組みも含まれるという。

実際にクックパッドでは、新たに入社したJavaScriptのエキスパートが、それまで同社で開発に利用していたprotype.jsを2週間ですべてjQueryへと書き換え、他のエンジニアを驚かせたことがあった。

「彼がこの作業を行ってくれたおかげで、社内の生産性は大きく高まりました。2週間という短い時間でそれができたのは、彼の特別なスキルがあったからこそ。『プロの仕事』だと感じました」(井原氏)という。こうした「全体を見渡してこうすればより良くなる」という視点を持ち、自分の技術をもとに実行できる力が、今のクックパッドにとって「魅力的」だと感じたそうだ。

もちろん、すべてのエンジニアがそうした卓越したスキルを最初から持てるわけではない。「最初から全部揃っていれば言うことはないのですが、人は成長するものです。『そうなりたい』という意思があるか、そういう仕事を『好きだ』と思えるかどうかが、実は一番大切かもしれません」

眠っている才能が生かされる世の中に

そんな井原氏が同社でエンジニアを統括する立場で、現在最も関心を持っているのは「周りの人々に、いかに成果を上げてもらうか」「関わっているエンジニアを、エンジニアとしていかにハッピーにするか」だという。

「エンジニアの生産性」という言葉が使われる時、いまだに多くの現場では「人月計算」という方法でエンジニアの個性を消し、コーディングのためのリソースとして換算する。それによって「生産性が可視化できる」と信じられている。

「実際にやってみるとわかるのですが、単純に人月の計算だけでエンジニアの生産性を計ることは難しいと思います。だから、私はその方法を使うのはやめました」と井原氏は笑う。井原氏が実現を目指しているのは、エンジニア個人がそれぞれに持っている技術力、想像力を十分に発揮することで、生産性の高い仕事ができる環境だ。その方法を考え、実現していくことに、今は最も情熱を注いでいるという。

「僕は、世の中に眠っている才能が生かされる社会になってほしいと思っています。例えば、クックパッドでは、インターネットを介して美味しい料理を考えられる人とそれを楽しみたい人をマッチングすることで、本来であれば家庭の中にとどまっていたスキルを幅広い人に使ってもらうサービスを提供しています。技術についても同様で、あるエンジニアが『いいところ』を持っているのなら、それを多くの人に使ってもらえるような形で提供することで、社会に還元できるのではないでしょうか。クックパッドとしては、エンジニアとともに社会に貢献していきたいと思っています」