発明家としてOCR、文書読み上げ、音声認識、シンセサイザーなどの発展に貢献し、「トーマス・エジソンの正当な後継者」と呼ばれる"フューチャリスト" Ray Kurzweil氏。JavaOne 2010の最終日キーノートに登場し、「21世紀の進歩は、今日の2万年分に相当する」「コンピューティング能力を持ったナノデバイスが人体を流れ、今日の医学問題を解決する」というような驚きの未来を予測した。
Kurzweil氏は、まず指数的に加速する進化/成長の本質を説いた。指数関数的な成長というと、コンピュータ産業には「18-24カ月ごとに半導体の集積密度が倍増する」という「ムーアの法則」が存在する。最初は2年後に"2"、4年後に"4"というようにスローペースであるものの、14年後に"128"、20年後には"1024"と時間を経るにつれて爆発的な伸びになる。こうした半導体の集積密度の指数関数的な進展が今日のCPUのマルチコア化やメニーコア化、メモリーの大容量化などをけん引している。だが、物理的に半導体はどこまでも微細化できるものではない。いつかは壁にぶつかる。その時が訪れたら、半導体とともに向上し続けてきたコンピュータの成長は止まってしまうのだろうか?
Kurzweil氏はイノベーションは止まらないと主張する。過去に真空管が半導体に置きかわり、そして集積回路が現れたように、常に技術のパラダイムシフトが起こり、順調な成長が維持される。ムーアの法則を指標とする半導体の微細化が限界に近づいたとしても、その役割 (成長)を引き継ぐイノベーションが必ず現れるという。
1965年にKurzweil氏が初めてマサチューセッツ工科大を訪れたときに、キャンパス内のコンピュータは32kのメモリを備えたマシン1台だった。それに比べると、今日多くの人が持ち歩いているスマートフォンは「数千倍もパワフルで、しかも劇的に安い」と同氏。ヒューマンゲノム・プロジェクトは最初の15年間でスケジュール半ばの1%にしか達せなかったが、遺伝子シークエンシング技術の継続的な進化で、結果的に当初のスケジュール通りに完了した。
大きな困難に直面したとき、短期的にはほとんど呼べるぐらい数多くの取り組みが失敗する。だからといって悲観的になる必要はないという。それらもイノベーションの片鱗なのだ。1つのイノベーションは他の発明に結びつき、いつかは必ず成功例が現れる。加えてイノベーションの積み重ねによって、重要な発明が現れるまでのサイクルがどんどん短くなり、大局的に成長は止まることなく加速し続ける。これを同氏は「収穫加速の法則 (The Law of Accelerating Returns)」としている。21世紀にわれわれが体験する成長は、今日の感覚における100年分ではない。今日を基準すると、指数関数的な成長は約20,000年分に相当するという。
同氏の見通しでは、それほど遠くない将来、20年後までには人間の脳の解析が完了し、脳のリバースエンジニアリングが実現する。人間の脳に人工知能が追いつく変わり目が訪れれば、人工知能がさらに賢い人口頭脳をつくり出し、人間に代わって人口頭脳がイノベーションを加速させる。頭脳だけではない。ゲノム解析のようにバイオロジーにも収穫加速の法則が適用されている。それは医療の世界に及び、ナノデバイスがわれわれの体内を行き交い、体の状態が精密に管理されるような未来を実現するという。荒唐無稽にも聞こえる展望だが、Kurzweil氏はまだ一般的なパソコン時代の幕が開けていなかった1980年代に、今日に見られる小型デバイスのネットワークによる大規模な分散型のコンピューティングシステムの時代を予見していた。「80年代の予測と同じように、これらもクレイジーなことではない」と語った。
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かつてKurzweil氏は「網膜へ映像を直接投影」「ユビキタス環境」「バーチャルリアリティ」「拡張現実」「仮想パーソナリティを用いたインタフェース」などが2010年には実現するとし、コンピュータは消えると予測した |
組み込みコンピューティングの拡大を支えるJava
Kurzweil氏の講演のタイトルは「The Age of Embedded Computing Everywhere」だった。あらゆる場所に組み込みコンピューティングを浸透させるイノベータの1つがJavaである……とアピールするのが、Kurzweil氏に講演を依頼したOracleの狙いだろう。同氏の講演後に、さまざまな場所で採用されているJavaテクノロジのデモセッションが行われた。そのうちの3つを紹介しよう。
「Gephi」はNetBeamsをベースにJava SE 6で構築された大規模データを可視化するソフトウェアパッケージだ。3DレンダリングエンジンのJOGLなど幅広いJavaライブラリを活用しており、データの見え方を思いのままに変化させられることから「グラフのためのPhotoshop」と表現していた。
2008年にJavaOne Show Deviceに選ばれたスマートペンの「Livescribe」は、ノートに鍵盤やギターを描いてペンで演奏したり、ノートに手書きした文章を、そのままペンを通じて電子メール送信するなどのデモを披露した。現在、約1万人の開発者がLivescribe向けのJavaアプリを手がけているという。
Perrone Roboticsは、ペンシルバニア州の高速道路システムで採用されているレーザーベースの車体測定システムを紹介した。Java RTXベースのソリューションで、料金所で180ptのレーザーを13ms間隔で車体に当て、自動車の種類、サイズ、動きなどの情報を収集する。100mphまでのスピードに対応するそうだ。