富士通は8月4日、ライフサイエンス分野(医薬品業界)への取り組みに関する記者説明会を開催。医薬品業界に対する同社の強みを説明するとともに、クラウドサービスを中心に今後積極的にこの分野に向けてソリューションを展開していく考えを示した。

富士通 産業ビジネス本部 ライフサイエンス統括営業部 統括部長 大羽武利氏

今回の説明会は、同社が8月9日に開催する予定となっているセミナー(「富士通ライフサイエンスフォーラム 2010」)のプレビュー的なものとして位置付けられており、経営方針の重要な柱となっている「クラウドビジネス」について、医薬品業界向けの具体的施策が示された。

冒頭で同社 産業ビジネス本部の大竹氏は、医薬品業界を取り巻く環境として、「各社とも研究開発力や営業力を強化している」といった実情を説明した。その背景には、国内市場の縮小や中国、インドなどの新興国市場の拡大、新薬開発費用の高騰などがあるという。

大羽氏は、とりわけ「研究開発力の強化は業界全体で最も大きな問題としてとらえられている」とし、同社としてはクラウド、SaaSによるソリューションの提供といったITの側面から業界を支援する考えを示した。

「では、富士通はこの分野に対してどんな強みを持っているのか?」という問いに対する答えは、「医薬品業務の"川上"から"川下"(創薬から市販後)までの全域にわたってソリューションを提供していること」(同氏)だという。また、国内最大規模とされる「グループ全体で約300名」という医薬品業界専門SE集団を有する支援体制や、(臨床開発業務や安全性情報管理業務などにおいて)国内トップシェアとされるソリューションを持つことも強みの1つとされている。

富士通の医薬品業界向けソリューションマップ(赤枠部分が今回発表された「クラウド」の適用領域)

このような医薬品業界に対し、今後同社が提供するソリューションの核となるのが「tsPharma」(trusted service for Pharmaceutical)だ。これは、医薬品業務運用に特化したクラウドサービス全般を総称するものだが、「最も重要なポイントは価格」(大羽氏)とされる。

すでに同社は臨床開発分野に対して、「tsPharma」の構成要素の1つである「tsClinical」を1月からSaaS型で提供を開始しており、8月には同社のSFA(営業支援システム)テンプレートをSalesforce.com CRMで実現可能にする。また、9月からはドキュメント管理・共有を目的とした「tsDocument」や「tsCollaboration」などのSaaS提供を開始する。

「tsPharma」のカバー領域には、医薬品業界向けのBPO(Business Process Outsourcing)サービスも含まれており、こちらは「実消化業務BPOサービス」として7月から提供が開始されている(「実消化」とは、「販売管理」に相当する日本の医薬品業界独特の呼称)。

クラウドサービス「tsPharma」の全体イメージ

医薬品ビジネスのグローバル化のニーズに対しては、「欧州と米州、日本の"3極体制"によるソリューション提供を目標としている」とし、すでにアステラス製薬欧州子会社から受注している5年間のITアウトソーシングサービスをはじめとして、「今後はさらに実績を積み上げていく」としている。

今回発表された「クラウド」の適用範囲はまだ限られているが、同社は順次その領域を拡大し「今後は医薬品業界向けアプリケーションの全領域をクラウドで提供することになる」(大羽氏)という。

なお、同社のクラウドビジネスの核として位置付けられているデータセンターは「富士通館林システムセンター」だが、大羽氏によると「tsPharma」の提供基盤が同センターになるかどうかは未定だという。同氏は、「国内の施設が前提となるが、医薬品業界に特化したデータセンターを用意することもあり得る」という考えを示した。