米IBMグローバル 公共セクター ゼネラル・マネジャー アン・アルトマン氏

IBMは2008年11月に、「Smarter Planet(地球をより賢く、よりスマートに)」という新たなビジョンを発表した。その後、日本でもテレビや電車のデジタルサイネージなどのメディアを用いてプロモーションが行われていたので、Smarter Planetの存在を知っている人も多いだろう。

ただし、「より賢い地球」というだけでは、いま一つその実態がわかりにくい。そうしたこともあってか、同社はSmarterが頭に付くビジョンをいくつか発表している。その1つが「Smarter Cities」だ。名称から、「より賢い都市」ということが察せられる。

そこで同社は、Smarter Citiesというビジョンの下、どのようなことを行っているのか? また、それはどのようなメリットをもたらすのか? 今回、2月17日に東京都内で開催された「IBMガバメント・フォーラム2010」で講演を行うために来日した、米IBMグローバル 公共セクター ゼネラル・マネジャーを務めるアン・アルトマン氏に伺った話から明らかにしてみたい。

Smarter CitiesはSmarter Planetの機能であり、ソリューション

同氏に「Smarter PlanetとSmarter Citiesの関係は何か?」と聞いたところ、「Smarter CitiesはSmarter Planetの一部。もっと具体的に言うと、機能であり、ソリューションでもある」という答えが返ってきた。

「Smarter Citiesは、PlanetSmarter Planetを都市という観点でとらえて持続可能な都市や地域の実現を目指すものであり、理解しやすいように具現化したもの」

しかし、地球上にさまざまなものがあるなか、同社はどうして「都市」にフォーカスしたのだろうか?

同氏は、「現在、世界の人口の半分が都市に集まっている。さらに、1週間に100万人の人が都市に移動している。こうしたことから、2050年には地球上の総人口の70%に当たる64億人が都市部に居住することになると見られている。そうすると、都市はどうなるだろうか?」

水道や交通網といった都市のインフラは昔に作られたものであり、上記のような人口増での利用は想定されていない。したがって、人が移動して都市に人口が集中すると、経済社会に変化が起こり、ひずみが生じることになるという。

このひずみをどう解決するかで、「"勝ち組"の都市と"負け組"の都市の分かれ道となる」と同氏。勝ち組の都市とは、「市民のニーズを予測できて、市民によい生活をもたらすことができる」都市である。

「交通渋滞を考えてみてほしい。渋滞がひどい都市で通勤に往復2時間かかる場合、そこで生活する価値はあるだろうか? その都市に価値がないと判断した市民は別な都市に移動してしまう」

同氏によると、ロンドン・ブリズベン・サンフランシスコでは交通網のスマート化が行われており、その結果、交通渋滞が解消するとともに、CO2の削減も実現されているそうだ。

電気自動車に市民サービス、さまざまな分野でプロジェクトが進行中

Smarter Citiesでは、都市を「複数のシステムから構成される集合体」としてとらえており、具体的に「交通」、「エネルギーとユーティリティー」、「医療」、「公共安全」、「教育」、「行政サービス」の6つのテーマに基づいてプロジェクトが進められている。

「6つのテーマの中で、特に注力しているものはあるか」と聞いたところ、「そういうことはない。なぜなら、都市によって課題が異なるからだ。市民サービスを改善したい都市もあれば、交通網を改善したい都市もある」というのが、同氏の答えだった。

そして、同氏はSmarter Citiesのさまざまなプロジェクトを紹介してくれた。

デンマークではSmart Gridsによる電気自動車を風力発電によって充電するための大規模システムを開発するプロジェクトが進められているという。そこでは、同社を中心としたグローバルな民間企業、デンマークの民間企業、大学などによってコンソーシアムが構成されている。

また、アメリカではSmarter Citiesとして市民サービスの改善が行われているという。「ニューメキシコ州のアルバカーキーという都市では、市民サービスのシェアドサービスのためにダッシュボードが導入された。ダッシュボードではすべてのサービスにアクセスすることができる。それまで、市民は市民サービスを頼みたくても、どこに頼めばよいかわからず、フラストレーションを感じていた。依頼すべき正確なところを見つけるのに平均して3日かかっていたところ、ダッシュボードを導入したことで人口の95%が30秒でそれを行えるようになった」

成功の秘訣は「官民のコラボレーション」と「行動力」

前述したように、Smarter Citiesは公共事業の色が濃いため、官民の連携が不可欠である。

「都市と市民はすでに"何かを変えない"とダメだとわかっている。つまり、いつも通りのことをしていてはいつも通りのことしか得られないというわけだ。だからこそ官民が協力して、解決策を見出す必要があるのだ」

官民がパートナーシップを組みSmarter Citiesに取り組むことで、「雇用の創出にもつながる」と同氏。

官民のコラボレーションを成功させるには、何が大切なのだろうか?

同氏は、「その都市の課題を見極めて挑戦することが大事。これは言い換えれば、スタートするポイントをいち早く見つけ、行動に移すということ。例えば、北九州市は都市計画として、グリーンスペースを造ったり、新たな産業を創出したりと、いろいろなことを試している」と話す。

Smarter Citiesの今後のロードマップについて聞いたところ、「ロードマップは各都市で定義するものだが、当社としては、それぞれのSmarter Cities実現のために世界中で培った経験をもって支援していきたい」という答えが返ってきた。

そして、「IBM創立以来、約100年間にわたり、公共事業に取り組んできた同社は、技術・プロダクト・サービスの3つの側面で経験を十分に積んでおり、都市改革を実行するにあたり、ユニークな存在となりえる」と同氏は主張する。

「Smarter Planet」、「Smarter Cities」と聞くと、どのようなことが行われるのかイメージが湧きにくいが、具体的なプロジェクトの内容を聞くと、われわれ市民の生活に密着した話であることがわかる。

生活が便利になり、それがCO2削減など、環境に役立つのなら、言うことはない。今回は紹介しきれなかったが、ニューヨーク市警の犯罪捜査にもSmarter Citiesは貢献している。

ただ1つ惜しむらくは、日本の事例がまだ広く紹介されてないことだ。日本アイ・ビー・エムによると、日本の顧客は自らの取り組みを紹介することにあまり積極的ではないケースもあるが、できるかぎり公開していきたいという。日本ではどのようなSmarter Citiesが実現されているのか期待したい。