12月21日、富士通はクラウドサービスに対する同社の今後の展開を説明した。
富士通は、今年の4月、クラウドサービスの提供開始を発表したが、サービスビジネス本部 本部長 常務理事 阿部孝明氏によれば、これまで延べ800件の案件があったという。
クラウドの利用目的としては、64%のコスト削減や運用のスリム化が最も多いが、阿部氏によれば、最近は基盤標準化や共通化のニーズが増えているという。
一方、ユーザーはクラウドのセキュリティやサービス品質・性能に懸念をいだいており、阿部氏は「サービスの基本はトラステッドだ」と述べた。また、富士通 システム生産技術本部 本部長 柴田徹氏も「クラウドでは高信頼・高品質とコストダウンを融合させていく必要がある」と語った。
そして両氏は、クラウドサービスでは、ネットワークや仮想クラウド基盤からアプリケーションまで一気通貫で提供できる総合力が重要で、すべてを持っている富士通に優位性があると述べた。
阿部氏は、今後、すぐに企業システムがクラウドに置き換わることなく、オンプレミスとクラウドのハイブリッド環境がしばらく続くとの見通しを語り、既存システムとクラウドのデータ連携の部分が市場拡大のポイントになるとの見解を示した。
また、新たな市場として農業SaaS、交通情報センシング、CAD・映像配信など、37のプロジェクトで検証・新ビジネスモデルを現在実証中で、阿部氏は、来年からサービスを開始したいと述べた。
そのほか、エンドユーザーに仮想デスクトップ環境を提供するDaaS(desktop as a service)サービスも、群馬県館林に新たに開設したデータセンターで準備中だという。
柴田氏は今後SI事業として注力していく市場として、同社が従来からコアビジネスとしている基幹システムやプライベートクラウド構築の「バック」、最近伸びているSaaSや高生産性開発ツールなどの「フロント」、37のプロジェクトで検証・新ビジネスモデル実証中の「広域」を挙げ、「クラウド時代にはこれらがすべてつながることが絶対条件になる。『バック』の市場は一時的に縮小するだろうが、フロントや広域と接続することにより、再び拡大する」と述べ、阿部氏と同様、クラウド時代にはデータ連携が重要で、これによりIT市場が拡大していくとの見通し示した。
柴田氏はこれらクラウドシステムに対応するため富士通では、要件定義やフレームワークを統合する「設計・生産・保守の統合」、統一されていないミドルウェア環境を段階的に統合する「IT共通基盤」、個々のナレッジを集中させ、全体値を発揮させるための「ワークスタイルの革新」、「クラウドシステム専門組織化」という4つの施策を実施するという。
「クラウドシステム専門組織化」では、12月21日付けで、「クラウドアーキテクト室」と「クラウド実装・検証センター」を設置。「クラウドアーキテクト室」は、50名ほどのフィールドSEの精鋭部隊で、これまで実装してきたユーザーシステムをベースに、ノウハウを標準化していくとが主な業務内容で、「クラウド実装・検証センター」では、それをベースに実装するツールや部品を作成・検証していく部署だという。
また柴田氏は、今後クラウドの浸透により、ハードウェア市場が縮小し、SEの仕事もなくなっていくのではないかという記者の質問に対し、これまでITが利用されてこなかった市場がクラウドによってシステム化されるので、新たなデバイスのニーズが生まれるほか、SEに関しては、プログラム製造という面では減るかもしれないが、運用管理面では新たな需要が生まれ、トータルでは要員は増えると語り、クラウドによるIT市場の縮小を否定した。