ユーザーインタフェースの『デザイン』はとにかく奥が深くて面白い。その奥深さを私に知らしめてくれた名著3冊を紹介します。
どれも新しい本ではなく、また明日からすぐに使えるような技を紹介するレシピ本でもありません。時に、著者のひとりよがりな議論も見受けられます。しかしながら、それらを差し引いても、十分に読む価値があると思いますし、いずれの本も私の心に強く残っています。
著者達のデザインに対する深い洞察と熱い思いが、読者をデザインの本質に力強く導いてくれる、質の高い読み物です。ユーザーインタフェースのデザインに、腰をすえて向き合いたい人に、特におすすめします。
川原英哉
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Sun Microsystems所属時に、次世代3次元デスクトップ環境である『Project Looking Glass』を発案して以来、新しいユーザーインタフェースの可能性の追求に没頭する。その後、米Googleを経て、現在はデザイン・コンサルテーション専門会社『Takram』に所属。ユーザーインタフェースのデザインに従事している。
『The Design of Everyday Things』
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『The Design of Everyday Things』(著者: Donald A. Norman、発行: Basic Books、邦訳: 『誰のためのデザイン? - 認知科学者のデザイン原論』) |
本書は、一見コンピュータ・ユーザインタフェース(UI)の本ではないのですが、筆者が居住するシリコンバレーのUIデザイナー・コミュニティでは、『必読の書』といわれています。著名な認知科学者である著者のノーマン氏が、多くの実例と人間の認知活動における基本原理の説明を通して、ユーザを中心に据えた、使い勝手の良いデザインのための指針を語ります。
人間は、あらゆる現象に対して理由付けをするのが得意な生物であると著者は言います。だから、インタフェースをデザインする際には、その特性を理解・利用して、挙動の理由付けをユーザがしやすくなるような仕掛けを入れ込むことが肝要となります。たとえば、見た目と挙動の対応に無理がなく、操作の効果がすぐに認知できると良い。また、正しくない操作は、デザインによって、その操作を不可能にすべきだ。本書では、こういった指針を、良い例、悪い例を効果的に使って明快に論じていきます。
本書は1988年に初版が発行された古い本ですが、その含蓄は今日でも極めて有用です。後年、ノーマン氏は、本書での議論の中心であった、機能面に注目した『カタイ』デザイン論から軸足をずらし、人間の情動に働きかけるデザインの重要性について説く著作をだしましたが、それでも、本書は輝き失っていません。身の回りのモノの見方を変えてしまうほど、力強い一冊です。
『The Humane Interface』
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『The Humane Interface: New Directions for Designing Interactive Systems』(著者: Jef Raskin、発行: Addison-Wesley Professional、邦訳: 『ヒューメイン・インタフェース - 人に優しいシステムへの新たな指針』) |
Appleのマッキントッシュのクリエータであるラスキン氏による著作です。癖の強い本ですが、得るモノは多いです。
たとえば、ドアにノブを取り付ける場合、通常はドアの上端に付けたりはしませんが、殊ユーザインタフェースに関しては、同等のことをして失敗してしまいます。それを避けるためには、身体的な制約(ドアの上端にノブがあると操作しずらい)と同様に、脳の情報処理上の制約を理解しなければならない、と著者は説きます。そこで本書では、まず人間の認知や情報処理における特徴や制約を掘り下げます。その上で、ユーザインタフェースのデザインの指針やノウハウを展開していきます。
インタフェースをデザインする際に鍵となる人間の情報処理の特徴として、人は同時に一つのことにしか意識を集中できない点を、本書はまず指摘します。したがって、インタフェースの挙動を設計する際には、人の一時記憶の容量といった制約条件に配慮しつつ、ユーザが意識を集中している一連の作業の流れを崩さないようにデザインしなければなりません。また人間は、あるまとまった作業を繰り返していると、その一連の動作を無意識で行うように習慣化できます。この習慣化という特徴を活用し、それを助長するデザインとすることが、使いやすく効率の良いインタフェース開発の要であると、ラスキン氏は強調します。本書には、これらの他にも、より良いデザインのための考察が、具体例と共に数多くちりばめられています。
本書は数々の有用な情報を提供してくれるのですが、賛成できない記述も少なからず見つかるかもしれません。本書後半では、将来のユーザインタフェースの方向性に関していくつかの提案がなされているのですが、その思考プロセスには学ぶことが多いものの、いくつかの結論に関しては、私は同意しかねました。記述を鵜呑みにせず、UIに関する考察を深めるための書として読み進むと良いと思います。
『デザインのデザイン』
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『デザインのデザイン』(著者: 原研哉、発行: 岩波書店) |
日ごろ見慣れたあのトイレット・ペーパーのデザインをやり直すことは可能でしょうか? そんな魅力的な話題を通して、『デザイン』という行為に対する私の認識の浅さを強烈に知らしめた一冊です。コンピュータ・ユーザインタフェース(UI)とは直接関係の無い内容なのですが、グラフィックデザイナーの第一人者である著者の原研哉氏の、デザインに対する深い洞察と並々ならぬ思いに、UIのデザインに携わる者として、多くのことを学び、また考えさせられました。
『耳を澄まして目を凝らして、生活の中から新しい問いを発見していく営みがデザインである』と著者は言います。また『デザイナーは受け手の脳の中に情報の構築を行っている』とも。つまり派手さや奇抜さといった側面は表層であって、デザインの本質は、豊かな感受性で対象の本質を把握し、それを受け手の五感や過去の記憶にじんわりとしみ込むように伝えることにあると、著者は語ります。こういった議論は、ともすると抽象的になってしまうのですが、本書では、先述のトイレット・ペーパーの『リ・デザイン(デザインのやり直し)』や、著者が手がけた長野オリンピック開会式プログラムのデザインといった興味深い例を通して、具体的に論じられています。
本書後半では、今後、(特に日本の)デザインやデザイナーはどうあるべきか、という問いに対する著者の思いが述べられています。デザインを向上するためには、デザインを消費する市場の質をあげるエデュケーションが必要である、とか、今日の情報技術の急速な発展が生んでいる歪みを解消するために、デザイナーは『情報の質』を向上することに寄与すべきだ、といった提言がなされています。UIデザイナーの私にいったい何ができるのか、そんなことを考えさせられました。