NEC 矢野薫社長 |
NECが、ITと通信ネットワーク関連の技術を広く紹介する「C&Cユーザーフォーラム&iEXPO2007」が東京・江東区の東京ビッグサイトで開幕した。初日の「NEC講演」には矢野薫社長が登壇。「次世代ネットワーク(NGN)により本格化するユビキタス社会~NECのビジョンと取組み~NEC」と題す講演を行った。同氏は、「NGNは通信の歴史的な変革であり、IT、ネットワークがあらゆる場に溶け込んでいくユビキタス社会の進展を加速させるものである」と指摘。NECはC&C(Computer & Communication: コンピュータと通信)の技術により、その実現のため、積極的に貢献していくとの姿勢を強調した。
ネットワークインフラは、電話からインターネットへと中核技術が変わってきているが、それをさらに発展させるものがNGNである。矢野社長は「108年にわたる日本の通信の歴史で、NGNは一つの大きなエポックだ」と話す。NGNはネットワークインフラの上に、サービスプラットフォームが載った構造であり、従来のインターネットの課題であった、セキュリティ面の懸念など、一定の制約を排除した「インテリジェントなネットワーク」(矢野社長)を実現する。
サービスプラットフォームは、NGNでもたらされる多様なサービスの基盤を提供するもので、課金、認証、位置情報などを担い、「アプリケーションを作る上での基礎となり、企業は低いコストで、アプリケーションを容易/迅速に製作できる。その結果、個人の生活にIT、ネットワークが浸透し、いつでも、どこでも、何でも、シームレスにつながるユビキタス社会が実現する」(矢野社長)。
ユビキタス社会は「ITとネットワークの融合で、安心、安全なものとなる」(同)という。たとえば「セキュリティを確保しながら、健康のための情報をデータベースに蓄積し、いつでも使える」(同)ことから、さまざまな情報の活用などにより、疾病を未然に防ぐ、予防医療サービスがその成果の一つとなるという。
コンピュータは、大型汎用機全盛の時代からパソコンが中心の座を占めるように変化、さらには、通信の進化とともに、Web2.0、SaaSなど、新たなネットワークの潮流が形成されてきたが「ITは企業の効率化、コスト削減など、いわば『守り』のために活用されてきた面があった。しかし、いまや先進的な企業では、ITは業績向上のための情報システム、すなわち『攻め』のITとして位置づけられている」(同)ことから、「ユビキタス時代の経営に必要なのは、いかにIT、ネットワークを変革するかということ」と、矢野社長は語る。
新たなビジネスモデル改革で重要になるのは「消費者との接点が拡大すること」(同)だ。矢野社長は「これまでは、捕らえどころのなかった一般の消費者の性格が、一人一人の客としてはっきり見えてくる。これを基盤に、企業間の連携や、顧客とのコラボレーションにより、新しいビジネスを作ることができる」としたうえで、消費者を起点とするサービス創造の例として「おサイフケータイ」を挙げる。携帯電話を媒介とした電子貨幣により、小額決済、鉄道の乗車券、定期券、クレジットカードなどの金融までを扱えるこのサービスでは、さまざまな分野の事業者の参加が欠かせないわけだが、NECは「パートナーと協力して、多くの業種で実績をあげている」(同)
NECの事業の方向性については、矢野社長は「現場力」という発想を重視する。国内の製造業が、生産拠点を中国に移す動きが強まるなか、NECでは、地域の工場の現場で、改善の機運が勢いを大きくしたという。現場の改善への努力の結実の例として、福島県にあるNECワイヤレスネットワークスの取り組みが挙げられた。
NECグループで、通信機器の製造を担当する同社は「この5年間で生産性を7倍に向上させた。人員は増やしていない」(同)。同社は、中小容量デジタルマイクロ波通信装置の「PASOLINKシリーズ」を手がけており、全世界150カ国に向け輸出している。特に「インドが最大の市場」(同)だ。「コストをぐんぐん下げ、コスト競争の点で非常に厳しいインドでも、利益を上げられるようになった。電子機器の組み立ては、知恵の積み重ねだ。現場力が業績の下支えになっている」(同)。矢野社長は「現場が工場を改善しないと工場そのものがつぶされるのではないかとの危機感が、一人一人に何ができるのかとの思いにつながり、日々改善の努力が実った」としている。
今年は、1977年に小林宏治会長(当時)がC&Cを提唱し「コンピュータと通信の融合」を主題として打ち出してから、ちょうど30年の節目の年となる。矢野社長は「トップダウン、ボトムアップの組み合わせが強い企業をつくる。人と人をつなぐことが重要になる。ユーザー/パートナーと手をつなぐことにより、イノベーションを実現できる。次の30年をさらに豊かな社会にするために手をつなごう」と結んだ。