株式、債券、コモディティなど、資産の守りを固めるために分散投資をされている方も増えましたが、その中で今注目されているのが不動産投資です。
不動産投資は、安定した収益を見込める魅力的な投資手段ですが、利益に対して課せられる税金が一つの大きな壁となることもあります。
特に、税負担が大きくなると、せっかくの投資効果が薄れてしまうことにもなりかねません。
そこで、本連載では全5回にわたり、不動産投資における節税術をテーマに、税金を最適化し、より効率的に資産を増やしていくための方法を解説します。
税金の仕組みを理解し、実践的な節税策を取り入れることで、投資の収益性を最大限に引き出すことが可能です。
このコラムを通じて、税負担を減らしながら不動産投資の魅力をさらに深めていきましょう。
中古一棟アパートを購入した場合、どの程度節税が実現する?
本連載の第1回から第3回までは、どういった不動産投資のスタイルが最も節税効果が高いのかをテーマに、一棟投資と区分投資、さらに新築物件と中古物件どちらが節税に適しているのかご説明しました。
第4回の連載となる今回は、中古一棟アパートを購入した場合、どの程度節税が実現するのか解説していきます。
不動産投資は大きく分けて「個人」で保有する場合、「法人」で保有する場合の2パターンがあります。所得税・住民税の圧縮を目的とする不動産投資は、「個人」名義で行います。これは不動産を用いた節税が、物件保有時と売却時に掛かる税金・税率が異なることを利用して、節税効果を生み出すためです。
不動産投資において、減価償却を大きく取ると、売却時の帳簿上の簿価が下がるため、売却益(譲渡所得)が大きくなります。譲渡所得税は、不動産の保有期間によって以下のように税率が異なります。
・5年未満保有:短期譲渡所得(税率39%)
・5年以上保有:長期譲渡所得(税率20%)
短期譲渡所得と長期譲渡所得では税率が2倍近く異なるのです。
そのため、物件保有中に節税できたとしても、5年未満で物件を売却して、譲渡税が多く課税されると、保有期間で積み上げたキャッシュや節税効果が無駄になってしまい、結果的に「税の繰り延べ」に過ぎなくなってしまいます。
そうならないように「税制の歪み」を利用した出口戦略が重要になります。
では本題の、中古一棟物件における節税スキームについて、以下の物件を保有していると想定して、「税制の歪み」と併せてご説明します。
物件価格:1億円(土地:5,000万円、建物:5,000万円)
木造・築23年(償却期間4年)
個人名義での購入(所得税・住民税50%)
また、モデルケースとして分かりやすくするために、購入金額と売却金額が同じと仮定します。
上記の図を元に詳しくご説明します。まず建物金額が減価償却の対象となるので、保有中は建物金額5,000万円分の減価償却費に所得税・住民税の50%が適用され、2,500万円が節税できる計算になります。
この物件の償却期間は4年なので、5年目以降に売却する際には、減価償却によって建物の価値が0円(厳密には1円)になり、売却所得は5,000万円となります。
もし、この売却益に保有中と同じ個人の適用税率である50%が課税されると、2,500万円を納税する義務が生じ、保有中の節税は無意味になります。
ただ、前回もお伝えしたように、個人が保有する不動産において、保有中は総合課税ですが、売却時は分離課税となり、譲渡税率が適用されます。
5年以上保有して売却することで、売却時の税率として長期譲渡税率の20%が適用され、売却益の5,000万円に対する課税は1,000万円で済みます。
保有中に節税できた2,500万円から、売却時に納税する1,000万円を差し引いても、1,500万円が節税できたことになります。
これは節税金額だけの話ですが、実際は家賃から物件の運営費用や金融機関への返済をした後に残るキャッシュフローも別途ありますので、資産運用しながら節税ができている状態となります。
以上が保有中と売却時の税率の違いを利用した「税制の歪み」です。購入時と売却時の価格が同じだと一見利益はゼロに見えますが、この「税制の歪み」を利用することで、賢く節税することができます。
減価償却や「税制の歪み」の仕組みを理解し、理想的な出口戦略までをしっかり計画した上で不動産投資に臨むことで、不動産投資の「成功」に向けた第一歩を踏み出せたと言えるでしょう。
次回の連載はいよいよ最終回。次回は、実際に当社で不動産投資を行った場合の投資事例をシミュレーション結果と共にご紹介します。お楽しみに。