「親が亡くなったので、実家を兄弟3人で相続することになりました。公平にするため、持ち分は3分の1ずつにしたんです。」

こうしたケースは、相続の現場では非常に多く見受けられます。法定相続分に従って均等に不動産を共有する、一見すると“平等”で“揉めにくい”ように見えますが、実際はあとあと厄介な問題を抱える火種となることがあります。

  • 「親が亡くなったので、実家を兄弟3人で相続することになりました。公平にするため、持ち分は3分の1ずつにしたんです。」

たとえばこんな場面を想像してみてください。

3人兄弟で共有名義となった実家について、長男は「将来売却して現金化したい」と考えている一方で、次男は「想い出の詰まった家だから残したい」と主張し、三男は「管理は任せるが、収益は分けてほしい」と主張します。話し合いは平行線をたどり、売却も賃貸も進まず、結果として実家は空き家となり、草木が生い茂り、近隣からは苦情が出る事態に。

これは決して特殊な事例ではなく、相続実務では日常的に起きています。背景にあるのは、民法上の「共有」に関するルールへの理解不足です。共有名義には、使用・管理・処分のいずれの場面でも明確な法律的な意思決定要件があり、これを無視したまま「とりあえず共有で」とした結果、数年後に取り返しのつかないトラブルになることがあるのです。

民法における「共有」の基本ルール

民法では、共有不動産に関する行為を以下のように分類し、それぞれに異なる同意要件を設けています(民法第251条~第269条)。

1.保存行為

共有物の原状を維持する行為。単独で可能。
例:草刈り、軽微な修繕、不法占拠者の排除など。

2.管理行為

通常の利用・維持・運用に関する行為。持分の過半数の同意が必要。
例:賃貸借契約の締結、修繕工事、管理会社との契約など。

3.変更行為

性質や用途を変更する行為。全員の同意が必要。
例:建て替え、解体、更地化、建物の用途変更など。

4.処分行為

不動産の売却・譲渡など所有権に関わる行為。原則全員の同意が必要。
例:共有物全体の売却や抵当権の設定。

  • 想定されるトラブル事例

専門家が勧める「共有回避」の3つの選択肢

1.代償分割

不動産を1人が相続し、他の相続人に現金等を支払う方法。所有権が一本化され、将来の活用や売却がしやすくなります。
課題:代償金の原資確保(預金、保険、不動産担保ローン等)。

2.換価分割

実家を売却し、売却代金を分け合う方法。兄弟間の利害調整が難しい場合に有効。
課題:市況によってはすぐに買い手が見つからないことも。

3.遺言・家族信託の活用

親の意思を事前に明確化することで、相続発生時の混乱を避ける方法。家族信託を用いれば、認知症などで意思能力を失っても柔軟な対応が可能。
課題:生前からの準備が必要。専門家(司法書士・弁護士・FP等)との設計が不可欠

相続は「感情」と「法務」の交差点

相続は単なる財産分けではなく、家族の関係性と法的権利が交錯する極めてデリケートなテーマです。「とりあえず均等に」と安易に共有名義にした結果、数年後に家族関係が悪化し、共有不動産を活用処分できずに、資産が負債化する例は後を絶ちません。

不動産は“動かせる資産”ではなく、“動かすには合意と準備が必要な資産”です。相続を「争族」にしないためには、民法の基本的なルールを理解したうえで、実務的・感情的側面も含めた整理と準備が不可欠です。

実家をどう扱うか、その判断は「資産の分け方」だけでなく、「家族の未来の形」を左右する重要な分岐点なのです。