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8 藤田行生の経済先読み

為替介入で円安は止められるのか──誤解されがちな「本当の役割」と限界

JAN. 19, 2026 07:00
Text : 藤田行生
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Contents

円安が進むたびに浮上する「為替介入」という言葉。しかし、介入で円安は本当に止められるのかについて、誤解も多いのが現状です。過去最大規模の介入を経た今、為替介入の“本当の役割”と限界を整理します。

為替介入とは何か──円安・円高局面で果たしてきた役割

まず、為替介入とは何かを整理しておきましょう。為替介入とは、財務省の指示のもと、日本銀行が外国為替市場で通貨の売買を行う政策手段です。介入そのものは特定の方向を持つものではなく、為替相場が急激に変動した際に、その動きを抑制することを目的としています。

歴史的に見ると、日本の為替介入は、円高局面で行われる「ドル買い・円売り」による円高是正が中心でした。急激な円高が輸出産業に悪影響を及ぼす局面で、円高の進行を食い止める役割を担ってきたのです。

一方、近年は状況が大きく変わりました。現在の日本は歴史的な円安局面にあり、為替介入は「ドル売り・円買い」による円安是正が主眼となっています。外貨準備を用いて円を買い支えることで、過度な円安進行を抑え、経済へのショックを緩和する狙いがあります。国際的には、G7は「無秩序な為替変動」に対する介入を容認しており、日本の介入もこの枠組みの中で実施されています。

介入で円安は止められるのか?──歴史的円安局面での限界

現在、日本は歴史的な円安局面にあります。2026年1月中旬時点でも、円相場は1ドル=158~159円台で推移しており、輸入物価の上昇や家計の負担増が大きな問題となっています。こうした状況のなかで、財務省が数兆円規模の資金を投じて円を買い支える姿は、市場との正面からの対峙に映ります。しかし一方で、「介入で本当に流れを変えられるのか」という疑問も根強く存在しています。

結論から言えば、為替介入だけで長期的な為替トレンドを転換することは極めて難しいと言わざるを得ません。もっとも、だからといって介入が無意味というわけではありません。為替介入の本質的な役割は、相場の方向を変えることではなく、「時間を買い、変動のスピードを抑えること」にあります。

過去最大15兆円でも流れは変わらない理由

実際の規模を見てみましょう。2024年4月末から5月にかけて、日本は約9.8兆円という過去最大級の円買い介入を実施しました。さらに7月にも約5.5兆円規模の介入が行われ、年間合計では約15兆円超に達しています。

しかし、世界の外国為替市場の1日の取引高は約9.6兆ドル、日本円にして約1,500兆円にも上ります。この巨大な市場と比べれば、日本がいくら巨額の資金を投じても、相場の大きな流れそのものを押しとどめるのは容易ではありません。

なぜなら、為替相場の方向を決めているのは、介入という「戦術」ではなく、金利差やインフレ率、経常収支といったファンダメンタルズだからです。現在の円安の最大の要因は、日米の金利差にあります。米国の高金利が続く限り、円を売ってドルを買う動きが止まることはなく、日本が円を買い支えても、根本的な力関係は簡単には変わりません。

それでも介入を行う理由──「時間稼ぎ」と心理的効果

それでも政府が為替介入を行うのは、介入が「時間稼ぎ」と「ショックの緩和」という重要な役割を果たすからです。急激な円安は、輸入物価の上昇を通じて企業収益や家計に深刻な打撃を与えます。為替の変動スピードを抑えることで、企業や消費者が新しい価格環境に適応するための猶予を確保できます。

また、介入には強い心理的効果、いわゆるアナウンスメント効果があります。「政府が本気で円安を止めに来ている」というシグナルを市場に送ることで、投機筋による「過度で無秩序」な円売りを牽制できます。2022年の約9兆円規模の介入でも、円安トレンドそのものは止まらなかったものの、投機的ポジションは縮小し、円安の進行ペースは明らかに鈍化しました。

為替介入の本当の価値──ファンダメンタルズを待つ戦略

さらに重要なのは、介入が「ファンダメンタルズの変化を待つための橋渡し」になる点です。米国の景気減速やインフレ沈静化、あるいは日銀の金融正常化の加速など、円高につながる要因が現れるまでの間、市場が過度に荒れるのを防ぐ役割を果たします。これこそが、為替介入の最大の戦略的価値と言えるでしょう。

歴史を振り返っても、この構図は一貫しています。1985年のプラザ合意では、協調介入と金融政策の転換が同時に行われたことで、ドル高・円安の流れが大きく転換しました。近年の日本の単独介入でも、介入そのものより、米国の金利低下や景気減速といった外部環境の変化が重なったときに初めて、円高方向への動きが生じています。

為替介入は万能ではない──円の行方を決めるのは日本経済の力

為替介入は、病気を根本から治す「手術」ではなく、痛みを和らげる「対症療法」に近いものです。介入で時間を稼ぎながら、日本経済の賃金上昇や生産性向上といった「稼ぐ力」を高めていくことが不可欠です。

為替相場は、日本経済の現在地を映す鏡です。介入という盾で市場の荒波をしのいでいる間に、日本がどれだけ次の成長の土台を築けるか。その成否こそが、円の真の行方を決めることになるでしょう。


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※ 本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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