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49 中小企業デットファイナンスの新潮流

政策金利上昇に伴う融資金利の反応

NOV. 28, 2025 17:00
Text : 千保理
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前回はデットに関するガイドラインを紹介いたしました。今回は、金利の上昇が企業の融資にどのような影響を及ぼすのかについて考えていきます。「金利がある時代」というキーワードが散見されるようになってから数年経ちます。日本ではゼロ金利政策が長く続いたため、融資の貸し手も借り手も金利上昇局面でのビジネスについて知っている生き字引のような存在が社内からいなくなり、手探りの状態に陥っているとイメージしています。過去の文献にヒントが隠されているので紐解いていきます。

筆者が参考になると考えている時期は、第二次オイルショックを契機とした金利上昇とその後の下降局面です。当時の政策金利は公定歩合でした。

1979年4月から1980年3月までの期間に計5回の公定歩合の引上げが行われ、初回の1979年4月に3.5%から4.25%へと上昇したことを皮切りに次々と利率が更新されて、1980年3月のピーク時には9.0%に到達しました。

1980年中に下落局面へ入って年末には7.25%、1981年には5.5%まで戻ります。

3.5%に復帰したのは1986年でした。激しく政策金利が動いた時代の融資の実務について、『取引仕振り改善と融資条件の決め方』という書籍に詳しく紹介されているので要旨をまとめます。

政策金利上昇は優良企業の銀行離れを招きました。支払利息が1年間で倍増しかねない状況下で、金融費用の削減が銀行借入を圧縮するかたちで進められます。

銀行側は収入を確保するために新しい貸出先の開拓を余儀なくされ、大手都銀は相互銀行(現在の第二地方銀行にあたる)や信用金庫の市場であった中小企業向け融資の分野に進出し、銀行の貸出金利引下げ競争が起きました。

貸出先との金利改訂交渉(原文ママ)が難航し、金利の上げ足が極めて鈍かったとされています。中小企業に対するプライムレートの適用が一般化された時期でもありました。政策金利の上昇が貸出金利引下げ競争を呼び起こす、逆説的な行動が観察されたのです。

『取引仕振り改善と融資条件の決め方』に書かれている内容から得られる示唆は、企業の財務担当者の行動として、金融機関側からの政策金利上昇を理由とした貸出金利引上げ要請に対して満額回答すると、損を被る可能性があるということです。

業績が悪化していないときに、政策金利の上昇幅を超える貸出金利の上昇を容認しないというだけでは足りません。政策金利のピークがいつ訪れるのかを予想し、場合によっては貸出金利の上昇を鈍化させる交渉が必要となるでしょう。

短期プライムレートやTIBORを基準とした場合の金利交渉も考え方は同じです。基準金利の変化に敏感になる習慣を身に着けることが肝要です。

政策金利の予想は難しいですが、過去の傾向について調べることは可能です。1975年以降50年間に渡って、政策金利の上昇局面は毎回2年以内に終息しています。

現在進行している政策金利の引上げは2024年3月から始まったので、過去のトレンドに倣うなら2026年前半には政策金利が下がるかもしれませんが、確実に下がるとは言えません。特に第二次オイルショックのケースと比較したとき、現在の政策金利の引上げは変化幅が小さいので上昇局面が2年を超える可能性も充分に残っています。

また、政策金利以外にも新発10年物国債の利回りといった金利の指標が存在するため、政策金利だけに着目することも危ういです。複数の指標を観察して資金調達の意思決定に活用することがポイントになります。

第二次オイルショック期に貸出金利の引上げ交渉が成功しなかったことに対する反省として、金融機関は固定金利の融資契約を減らし、変動金利の融資契約を増やしました。金利の動きが鈍かった時代は変動金利の融資も固定金利のように感じられ、変動金利で契約した認識が薄い企業も一定数存在します。既往債務の契約内容が固定金利なのか変動金利なのか、今一度棚卸しを実施することをお薦めします。

変動金利の融資契約は、金利の下降局面においては基準金利に追従して貸出金利が下がるメリットもありますが、池井戸潤氏の著作『お金を借りる会社の心得  銀行取扱説明書』ではバブル崩壊後に起きたこととして「短期プライムレートなどのベースレートの変動につれて自動的に適用金利を変動させることを約した契約書(金利変動追約書)が無視されている例が多い」「銀行の一方的な事情で金利引き下げが遅れたり、据え置かれたりという事例が見受けられる」というエピソードが紹介されていています。

コンプライアンス重視の時代ではありますが、念には念を入れて契約が履行されていることを常にチェックするようにしましょう。

金利上昇局面の融資では、金融機関側は変動金利にして利息の取りこぼしを避けたい、企業側は固定金利にして費用増加を抑制したいというインセンティブが働きます。金利下降局面の融資では、金融機関側は固定金利にして収入の減少を回避したい、企業側は変動金利にしてコスト削減効果を最大化したいとイメージするでしょう。

前回のゼロ金利時代は特殊で、金融機関側は利息収入の獲得を半ば諦め、企業側は超低金利のメリットを最大限享受できるという、資金の供給側と需要側の利害が何故かバッティングしない稀有な状況でした。

仮にマイナス金利の融資契約が市場に出現するとしたら、また異なる姿の取引構造が生まれると想像します。市場のプレイヤーがどのような動きをするのか、シミュレーションすることが重要です。

政策金利上昇に伴う融資金利の反応に関する考察は以上です。次回はコマーシャルペーパー(CP)について説明します。


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※ 本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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