英国のスポーツカーブランド「ロータス」は目下、電気自動車(BEV)メーカーへの華麗なる転身を図っています。ロータス「エリーゼ」のマニュアル(MT)車で「運転する楽しみ」をたっぷり味わってきたクルママニアの安東弘樹さんはロータスのBEVをどう評価する? 「エレトレR」の試乗に同行しました。
「エレトレ」はロータスが初めて世に問うたSUV型のBEVです。小さくて軽いスポーツカーを作り続けてきたロータスのクルマとしては、かなり大胆なBEVデビュー作と言えます。エレトレには「エレトレ」(1,578.5万円)、「エレトレS」(1,905.2万円)、「エレトレR」(2,324.3万円)の3タイプがあり、Rは最も高価で最も高いパフォーマンスを誇るモデルです。
918PSの加速はどう?
――すごいクルマだなー……。うわ、シートベルトが赤だ。かっちょいい!
安東さん:(ロータス担当者に説明を受ける安東さん)はい…はい…、では、オプションを付けても2,500万円くらいで乗れるんですね。自動運転はレベル4まで対応しているけど、日本ではレベル3の機能までしか使えないということですか。なるほど……。
ロータス担当者:エレトレRは15個のスピーカーを搭載していて、立体的なサウンドが楽しめます。デモを始めますね。
――すごいサウンドだなー!
安東さん:こういう輸入車に乗ると、日本車とは全く別な乗り物という感じがします。いいか悪いかの話ではないんですけど、あまりにも違うと言いますか、ちょっと危機感すら感じます。自動運転を含め、日本はどうなっていくんでしょうか……。では、出発しましょう!
――しかし、2,500万円ですか……。
安東さん:もはや「家」ですね。
安東さん:キーを持って乗り込むと、すぐに発進できる状態になるようですね。起動する必要がなく、乗れば発進できてしまうようです。
――テスラも確かそんな感じでしたね。スゴいクルマだ。
安東さん:ドライブモードはオフロードも選べるんですね。
――このクルマで? とんでもない世界ですね!
安東さん:ちょっと踏んでみますね。
――うわー! スゴい加速ですね。最高出力が918PS、最大トルクが975Nm、ゼロヒャク加速が2.95秒……。
安東さん:ははは、900馬力ですか! ぶっ飛んでますね。
安東さん:回生ブレーキの強さをパドルで調節できるのは嬉しいですね。左右のパドルで調節するのではなく、左側のパドルの上下で調節するロジックになっていますが、これも嫌いじゃないです。
エレトレR:ウィーン!
――え、今の何の音でしょう? なんだかロボット的なギミック感あふれる音でしたが。
安東さん:わからないです。ACCを起動したんですけど。
――ACCを入れたから、クルマの外側にセンサー類が飛び出てきたんですかね。
安東さん:たぶん、その音ですね。
日本では作れないクルマ?
――なぜエレトレRに乗ってみようと思ったんですか?
安東さん:ロータスのBEVには乗ったことがなかったので、これには必ず乗っておいた方がいいなと思っていました。もともとエリーゼに乗っていたので、ロータスのBEVがどんなクルマなのかは、やっぱり知りたいですから。
メーターを見ると、現在のバッテリー残量は85%で航続距離が352kmの表示ですね。ということは、フル充電で400kmくらいは走るんですかね。
――カタログ上は410-450km(WLTPモード)となっていますね。
安東さん:バッテリーの総電力量が112kWhであることを考えると、航続距離が短いですね。距離ではなくてパワーに寄せている感じなんでしょうか。エレトレSの方が、もっと長く走れるでしょうね。
しかし、加速はスゴいです。車重は2.5トンを超えていると思うんですが、これはスゴい!
安東さん:本当に、その、いいとか悪いとかいう話ではないんですけど、こういうクルマって、日本にはありませんよね。必要ない、と言われればそれまでですし、3,000万円近くのお金を払って買う人がどれだけいるかはわからないんですけど、ロータスはこのクルマで利益が出ると思って作っているわけですもんね。日本メーカーは、こういうクルマを出しても売れないという考えなんでしょうか。
――BEVに限らず、日本メーカーの超高級車って少ないですね。
安東さん:そうですね。それにしても、なんでこんなに日本のメーカーはBEVに消極的なんでしょうか。トヨタ自動車は実質的に1車種、日産自動車でも3車種、ホンダは「ホンダe」が終わってしまいましたし……。
――今のところ、商売にならないということなんですかね。あまり積極的に売る気がなさそうにも見えます。
安東さん:でも、日本の自動車メーカーはグローバルにビジネスを展開していて、日本市場は必ずしもメインの市場ではないわけじゃないですか。日本でBEVが売れなくても、そこまで関係ないような気がするんですが……。とはいえ、欧州のメーカーもBEVに一挙に振りすぎでしたね。その流れが減速するのもわかります。
エレトレRは誰向けのクルマ?
――このエレトレというクルマって、どういう人にアピールしたいんでしょう? コアなロータスファンでしょうか。
安東さん:エリーゼやエクシージに乗っている人が、もう1台ということで買うんですかね。ただ、ロータスのお客さんがどういう人かって、もうひとつわからない部分があるんですよね。私は運転マニアだからエリーゼに乗っていたんですけど、いわゆる富裕層の方がロータスを買っているのかどうかはわかりません。ただ、エレトレは富裕層向けのクルマに見えます。なので、誰向けの商品なのかという点には私も興味があります。
――例えば、メルセデス・ベンツの「EQS SUV」が欲しいと思っているような人が、エレトレと比べて悩んだりするんですかね。
安東さん:ただ、それはあまりにも方向性が違いますよね。
安東さん:乗り心地は硬くないですね。しなやかです。「エースマン」(ミニ)の次に乗ったので、余計にそう感じるのかもしれませんが。
――大きなSUVですけど、ちっともゆさゆさしていないですね。
安東さん:しゃっきりした乗り味ですね。ステアリングの感じもいいです。
――ロータスを名乗るにふさわしい……。
安東さん:……かどうかは、今のところ、ちょっとわかんないですね(笑)。これまでロータスは「ドライビングマシン」というイメージだったので、違うタイプの乗り物ですよね。
――大きくて重いSUVタイプのBEVにはたくさん乗られてきたかと思いますが、その中でエレトレはどうですか?
安東さん:しゃっきりした乗り味が印象的です。腰高感が希薄ですね。
安東さん:そろそろ戻りますね。このあたりでUターンしようかな……え、うそ! このクルマ、ものすごく小回りが利きますね。なんであんなに利いたんだろう。ビックリしました。絶対に切り返しが必要だと思っていたんですが。
――ここから箱根の下り坂ですけど、重いクルマだとちょっと怖いですよね。
安東さん:ただ、回生ブレーキが細かく調節できるので、うまく減速しながら、ブレーキを踏まずに進んでいけます。強いモードにすると、回生がかなり効きますね。さっきから、ブレーキを1回も踏んでいません。パドルだけです。これ、楽しいなー!
――かなりのカーブでも、ブレーキペダルを踏まずに曲がり切れてしまうんですね。それはスゴい。
エレトレRはロータスらしいクルマなのか
安東さん:Hi, Lotus.(おもむろにエレトレRの音声アシスタントに英語で話しかける安東さん)
エレトレRの音声アシスタント:What would you like to do next?(お望みは? とエレトレR。音声は男性で英国っぽい発音。執事みたいなイメージ?)
安東さん:Seat heater off.(シートヒーターを切って、と安東さん)
エレトレRの音声アシスタント:I want to respond to that. Sorry, I could not find any result. What else can I do for you?(対応できません。ほかに御用は? とエレトレR)
安東さん:Nothing.
エレトレRの音声アシスタント:Where do you want to navigate to?(どこまでナビしてほしいですか? とエレトレR。特に指示していないのにナビの提案をしてくるところがスゴい)
安東さん:Oiso prince hotel.(試乗の発着場所となっている大磯ロングビーチ駐車場にほど近い大磯プリンスホテルを指定する安東さん)
エレトレRの音声アシスタント:This is what I found.(目的地のリストを示すエレトレR。ただ、日本にはいくつかのプリンスホテルがあるからか、目的とする大磯のホテルは表示されなかった)
安東さん:うーん、違いますね。178km先の目的地が出ました。まだ日本語に対応していないんですね。
――このクルマと話しながら運転すれば英語の練習になりそうです。
――エレトレR、乗ってみてどんな印象でしたか?
安東さん:クルマとして、コントロールしにくくはありませんでした。ロータスの担当者からは「乗ればロータスだと感じてもらえるはずです!」との言葉をいただいていたんですけど、その意味がわからなくはない、といった感じですね。もちろんエリーゼとは違う走りなんですけど、共通点もあると思いました。
あと、思ったんですが、乗っているとクルマのサイズが小さく感じました。たぶん、走りが軽快でハンドリングがよくて、操作系が素直なので、車両感覚がつかみやすいのでしょう。そういう意味でも、「乗ればロータス」という言葉がわからなくもない、という感じです。
――長年のロータスファンで、「BEVなんてロータスじゃない!」と言っているような人にもオススメできますか?
安東さん:1回、運転してみてもいいんじゃないですか? という感じですかね。