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電気自動車「後発組」のスズキが日本に新型車「eビターラ」を投入する理由

JUL. 10, 2025 11:00
Text : 室井大和
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電気自動車(EV)の分野では「(最)後発組」と言わざるを得ないスズキが、日本に新型EVの「eビターラ」(e VITARA)を投入する。EVには今、世界的に逆風が吹いていて、日本でも普及の兆しは見えないが、なぜ今、スズキは日本にEVを持ち込むのか。実車に乗って話を聞いてきた。

  • スズキ「eビターラ」

    スズキは同社初となるEV「eビターラ」を2025年夏ごろから世界各国で順次発売する予定。今回はプロトタイプに試乗した

一充電で400km以上を走行可能

クルマに興味がある人でも、「eビターラ」という車名には馴染みが薄いかもしれない。「ビターラ」はスズキが日本で販売していたコンパクトSUV「エスクード」が海外で名乗っている名前だ。エスクードは日本で販番終了となっているが、海外ではビターラの名で今でも販売している。ビターラのEV版がeビターラだ。ちなみに、ビターラは「バイタリティ」(活力)に由来する名前なのだという。

eビターラの特徴は大きく分けると4つある。「EVの先進感とSUVの力強さを併せ持つデザイン」「EVらしいキビキビとした走り」「悪路走破性とパワフルさ」「新開発プラットフォーム」だ。

デザインについては、直線と曲線が高い次元で融合した近未来的なデザインという印象だ。床下にバッテリーを搭載するため長めにとられたロングホイールベース、力強いフェンダー、大径タイヤなどが特徴といえる。インテリアはブラウンを基調としていて、リビングのような雰囲気で高級感がある。

  • スズキ「eビターラ」
  • スズキ「eビターラ」
  • スズキ「eビターラ」
  • インテリアは上質に仕立てられている印象。ただ、シートの座り心地は少し硬いと感じた。後席は広いが、全くリクライニングできないのは残念だ

  • スズキ「eビターラ」
  • スズキ「eビターラ」
  • 特徴的なデザインのヘッドライト&テールライトは「3ポイントマトリックス」を採用し、個性を演出している

公道は走行できないプロトタイプだったため、サーキットを走ってきた。エンジン(というかモーター)を始動してアクセルを踏み込むと、EVらしい駆動音を響かせながら一気に加速。身体がシートにグッと押し付けられた。この感覚はガソリンエンジン搭載車では得られない。動きは機敏だ。

プラットフォームは軽量構造と高電圧保護、広い室内スペースを実現した「HEARTECT-e」を採用。特にフロア下メンバー(フロアパネルの強度部材)を廃止することで、電池容量を最大化することに成功し、走行距離を延ばせたという。

  • スズキ「eビターラ」

    プロトタイプのため公道ではなく、1周5分程度のサーキットを何回も周って走りを試した

今回は2WDと4WDを乗り比べたが、4WDはハンドリングが重めで安定感があるように感じた。一方の2WDはハンドリングが軽く、加速力も高いように感じた。限られた時間での試乗ではあったが、都市部などで街乗りが多ければ2WDを、長距離移動が多ければ4WDを選ぶといいのかもしれない。

最高出力については、4WDでは135kWの1種類だけだが、2WDでは106kWか128kWのいずれかから選べる。一充電走行距離は135kWで450km以上、128kWで500km以上、106kWで400km以上とのこと。いずれも排気量2.0L程度の一般的なガソリン車と変わらないくらいか、それ以上の距離を走行できる。EVだから走行距離が短いというのは過去の話だ。ただ、現状はプロトタイプであるため、このあたりの数値は変更になるかもしれないという話だった。

  • スズキ「eビターラ」
  • スズキ「eビターラ」
  • インフォテインメントシステムは非常に操作性がいい。タッチパネルの感度もよく、スマホのような操作感でストレスフリーだ。電池残量も常時確認が可能で安心できる

電池の設計を担当したエンジニアによれば、バッテリーにリン酸鉄を用いたことで安全性が高められ、寿命を伸ばすことにも成功したという。また、バッテリーは温度の影響を受けやすいため、熱マネジメントにも尽力。寒冷地では急速充電時間を短くするため、充電中(または走行中)に電池を温める「寒冷時バッテリー昇温機能」を搭載。暖地ではバッテリーを冷やす冷却機能も備わっている。電池の出力を確保するため、走行前に電池を温める「バッテリーウォーマー機能」も採用し、バッテリーの充電、出力の両方で最適化が図られている。

EVはまだ売れる可能性がある

eビターラの発表で気になったのは、なぜ日本国内で、しかもこのタイミングでEVを発売するのかという点だ。この点について、開発担当者は次のように説明する。

「EVとしてみれば最後発かもしれませんが、悪路走破性に特化した本格SUVとしてのEVは日本車では初めてだと思います。『SUV×EV』というカテゴリーでは初の新モデルであり、競合はあまりいないと考えています」

  • スズキ「eビターラ」
  • スズキ「eビターラ」
  • ラゲッジスペースは広く、後席を倒せば長尺の荷物も余裕だ。ただ、床下にバッテリーがあるため床面が高くなっているので、重い荷物は積み込みにくいか?

本格SUVの特徴を備えたEVには可能性があるというのがスズキの見立てだ。

「eビターラはインドのグジャラート工場で生産しますが、欧州、インドなど、世界中で販売を予定しています。カーボンニュートラルの推進やインド市場の特殊性を見ると、まだまだEVが売れる可能性は残されています。日本のように道路の整備が行き届いていない地域もあるため、そういった地域には、悪路走破性に特化した『SUV×EV』が必要になるのです」

  • スズキ「eビターラ」
  • スズキ「eビターラ」
  • スマホのワイヤレス充電機能はありがたい。シフトチェンジは円形の部分を押しながら右に回すと「D」(ドライブ)、左に回すと「R」(バック)になるが、感覚的に円形の部分を引いてしまうことが多く、少し操作に戸惑った

ではなぜ、もっと早い時期にEVを発表できなかったのか。

「一般的なクルマの開発に2年はかけすぎという認識でいますが、eビターラは今回の発表までに4年かかっています。結果として最後発とはなりましたが、市場動向を探りながら、『SUV×EV』という新しいカテゴリーのモデルを投入する時間として考えれば、4年は妥当だと思っています」

スズキは今後6車種のEVを投入予定

試乗した時点で価格は非公表。この車格、性能、見た目で、もし500万円以上になるなら高いと感じる。個人的には、購入するなら300万円前後が理想だ。それを担当者に話してみたところ、笑みを浮かべながら大きくうなずいていた。いずれ明らかになる価格の発表を楽しみにしたい。

  • スズキ「eビターラ」

    ボディカラーは「eビターラ」のメインカラーにもなっている「ランド ブリーズ グリーン パール メタリック」。光の当たり具合によってはグレーっぽくも見える絶妙な色合いが好印象だ

ここ数年、EVは売れないといわれてきたが、それでもスズキは市場の動向を探りながら、EVの可能性を模索してきた。その結果、スズキが出した答えは、得意とするコンパクトSUVとEVをかけ合わせた「SUV×EV」という新しいカテゴリーでの勝負だった。

航続距離も長く、悪路にも強い。それでいて加速力もあって走りもいい。そうなると、価格次第ではあるものの、eビターラは世界中で売れる可能性がある。

スズキは今後、2030年までに合計6車種のEVを投入するとしていて、その計画は現在もブレることなく進行中とのこと。これからのスズキのEVから、ますます目が離せなくなった。

  • スズキ「eビターラ」
  • スズキ「eビターラ」
  • スズキ「eビターラ」
  • グリーンのほかにホワイト、レッド、ブラックなどをラインアップするが、いずれのカラーも落ち着きがあってチョイスしやすい


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※ 本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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