トランプ政権が打ち出した関税政策への対応で米国市場を得意とする日本の自動車メーカーは大わらわだが、スズキはどうなのだろうか。同社は米国市場から撤退済みなので、トランプ関税の影響はほとんどないのでは?
2024年度は売上も利益も過去最高
スズキは5月12日に2025年3月期(2024年度)の決算発表会見を開催。前期業績は売上高5兆8,251億円(前期比8.7%増)、営業利益6,428億円(同30.2%増)、当期純利益4,160億円(同31.2%増)の増収増益で、いずれも過去最高を更新した。四輪車世界販売は324万台で2.3%増、二輪車世界販売も206万4,000台で7.9%増と順調。営業利益率は11%、ROE14.6%と収益性は改善した。ちなみに営業利益率は、トヨタ自動車の10%を上回る高水準だ。数字的には絶好調に見える。
会見に臨んだ鈴木俊宏社長は「稼ぐ力がついてきた。引き続き、スズキ全体の稼ぐ力の向上を図っていく」と前期業績を評価しながらも、今期の見通しについては「世界的な景気後退に円高の影響など、逆風の中で不透明な状況となる」とし、今期は営業利益が前期比22%減の5,000億円、当期純利益は同23%減の3,200億円になる見通しだと発表した。
トランプ関税が減益要因に?
スズキは2012年に米国での四輪車事業(現地生産・販売)から撤退しており、さらに2018年には中国からも撤退していることから、トヨタ以下、日本車各社が懸念するトランプ関税の影響を受けない、あるいは軽く済むのではないかと見られていたが、「米国事業は二輪車と船外機のマリン部門で影響がある。これに加えて、世界の景気減速リスクにつながる」(鈴木社長)として、同社も無関係ではいられないとの見方を示した。トランプ関税が今期の営業利益に与える影響としては400億円の減益を見込む。二輪車と船外機で200億円、残りの200億円は世界の景気減速リスクという内訳だ。
米国と中国という自動車の二大市場から手を引いたスズキは、インドでの生産基地拡大を中心とする独自の世界戦略を推進している。
今期(2025年度)の四輪車世界販売は前期比3%増の332万台を見込む。インドは市場全体の需要としては微増となるとしながらも、スズキ車は全需を上回る販売を目指し、シェア50%に向かって販売拡大を着実に進めていく。インドからの輸出ではアフリカや中東のさらなる開拓に取り組む方針。日本市場もインド製BEVの投入を含めて活発化していくことになりそうだ。
日本市場では軽自動車販売が58万5,000台で2年連続の首位を獲得。小型車(登録車)も13万3,000台と過去最高を更新した。国内販売の総数は71万8,000台(前期比6.4%増)で、トヨタに次ぐシェア2位を確保している。
今期業績の減益予想についても、円高(対ドル想定レート140円)での為替差損や固定費増加、将来に向けた研究開発費、設備投資を織り込んでおり、かなり保守的なものとなっている。トランプ関税が四輪事業の直接の減益要因になることはないスズキだが、2025年2月に策定した新中期経営計画(~2030年度)を進めるため、気を緩めずに競争力を高めていく構えだ。