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高級車オークションにボロボロのアメ車? 1962年型フォード「ギャラクシー」の来歴とは

JUL. 08, 2025 08:00
Text : 伊達軍曹
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日本で開催された高級車オークションの会場で、ボロボロのアメリカ車に出会った。フォードの「ギャラクシー500XLコンバーチブル」というクルマだ。会場の雰囲気にはそぐわないものの、何かいわくありげな佇まいに興味をひかれたので、来歴を探ってみることにした。

  • 1962年型フォード ギャラクシー500XLコンバーチブル

    高級車オークションの会場にボロボロのアメ車?

高級車の中で存在感が際立つ「普通のクルマ」

美術品や骨董品、あるいは貴重なクラシックカーなどを競りの形式で売買する「オークションハウス」。世界的には「サザビーズ」などが代表格だが、その日本版というか、日本発信型の本格派オークションハウスとして2017年に活動を始めたのが、東京都千代田区永田町の株式会社BINGOだ。

BINGOが2025年5月9日から10日にかけてオートバックスの旗艦店「A PIT AUTOBACS SHINONOME」で開催した「COLLECTIBLE AUCTION」の模様に関しては、「推定価格1億円超のスカイラインGT-Rトミーカイラ」および「2,000万円のダイハツ シャレード」という旨の2本の記事にて、当欄にてご紹介した。

そして筆者は、そういったプレミアムなオークションに出品されるクラシックカーというのは、希少かつ高額なものばかりであろうと思っていたのだが、実際はそうではなかった。特に高額ではない、言ってみれば普通のクルマではあるのだが、しかしきわめて芳醇な“物語”を含有しているクルマも、希少な超高額車たちに混じって出品され、そして見事に落札されたのだ。

芳醇な物語を含有する「普通のクルマ」とは1962年に製造されたアメリカ車、フォード 「ギャラクシー500XLコンバーチブル」のことだ。

  • 1962年型フォード ギャラクシー500XLコンバーチブル

    フォード 「ギャラクシー500XLコンバーチブル」

フォード「ギャラクシー」は、フォード社のトップレンジを1959年から担ったFRのフルサイズモデル。1960年には早くもフルモデルチェンジを行い、2ドアおよび4ドアのセダンとハードトップ、そして2ドアコンバーチブルの5バリエーションが用意された。今回のオークションに出品されたのは、そんな2代目フォード ギャラクシーの後期型最上位モデル、電動ソフトトップを備えた「500XL コンバーチブル」だ。

1960年代初頭のアメリカン製フルサイズコンバーチブルを「普通のクルマ」と呼ぶことに、違和感を覚える人もいるかもしれない。だが、周囲に居並ぶ1億円級のスカイラインGT-Rトミーカイラや、5,550万円で落札された日産「フェアレディZ432R」などのきわめて特殊な車両と比べた場合のギャラクシーは、やはり「普通の量産車」でしかなく、しかも外板の塗装はかなり傷んでいた。

そう、出品された1962年型フォード ギャラクシー500XLコンバーチブルはかなりボロボロだったのだ。

  • 1962年型フォード ギャラクシー500XLコンバーチブル
  • 1962年型フォード ギャラクシー500XLコンバーチブル
  • 1962年型フォード ギャラクシー500XLコンバーチブル

    外板はヒビが入っていたりしてボロボロだ

いや、「かなりボロボロだった」と書くと事実に反するだろう。同車は、それこそ高級車が買えるほどのコストをかけて、長年にわたってレストアと整備が行われてきた個体だ。しかしボロボロの外板塗装は「あえて直さなかった」のだ。このクルマ、この個体が持っている“物語”を大切にするために、わざと手をつけなかったのである。

あえて修理せずに残したリアルな姿

この1962年型フォード ギャラクシー500XLコンバーチブルは、とある日本人男性がアメリカで銀行マンとして働いていた1991年、同僚から「1万ドルで買ってほしい」と言われて購入したものだ。

同車は、新たにオーナーとなった日本人金融マン氏によってエンジンオーバーホールが行われ、1993年には、日本へ帰国する同氏に連れ立って“来日”した。それ以降、金融マン氏は日本とアメリカを12年間行き来したが、ギャラクシー500XLコンバーチブルは日本国内で保管され、定期的にメンテナンスが行われていた。

そして2005年からオーナー氏は日本で過ごすことになり、その後も車両のメンテナンスは行われ続けた。内容はエンジンのリフレッシュに始まり、幌の張り替えや内装の仕立て直し、そして日本での四季を乗り切るためのエアコン装着も行われた。さらには「純正オーディオの外観はそのままに、Bluetooth接続ができるようにする」という粋なモディファイも行われている。

  • 1962年型フォード ギャラクシー500XLコンバーチブル
  • 1962年型フォード ギャラクシー500XLコンバーチブル

    日本の気候に合わせてエアコンを装着。Bluetoothでスマホがつなげる現代的なモディファイもなされている

そしてオーナー氏は当然、経年劣化に伴うひび割れやサビなどが発生している外板もパリッと仕立て直すつもりでいた。また走行距離自体はさほど延びていないものの、フォードの工場から出荷されて以来数十年が経過したV8エンジンも、載せ替えるつもりでいたそうだ。

だが主治医(整備士)からストップがかかった。

「◯◯さん。このクルマのボディのヒビ割れも古くなったエンジンも、僕は“このまま”のほうが絶対にいいと思うのですが?」

そしてオーナー氏も「確かに……」と思い直した。

お金と時間さえかければ、ヒビが入った外板はいくらでも修復できる。だが1991年から自分とこのクルマが過ごしてきた時間の痕跡は、いやもっと言ってしまえば「1962年のアメリカ」から続いてきたこのクルマのリアルな姿は、一度修復してしまえば、二度と手に入れることができない。

その結果、1962年型フォード ギャラクシー500XLコンバーチブルは素晴らしき「タイムマシン」となり、そんなタイムマシンをついに手放すことになったオーナー氏により、このたびのオークションに出品されたのだ。

  • 1962年型フォード ギャラクシー500XLコンバーチブル

    1962年のアメリカの空気を今に伝える「タイムマシン」として、お金には換算できない価値を持つ1台だ

とはいえ、オークション会場で現車を確認した筆者は、「話として美しいのはわかるし、このヒビ割れもサビも逆に素敵だ。だがこの“素敵さ”は伝わるのだろうか? つまり、ちゃんと落札されるのだろうか?」と不安視していた。

しかし結果は――予想落札価格230万~330万円のほぼド真ん中といえる277万5,000円にて、ギャラクシーは見事落札された。

もちろん筆者はこのクルマの売り手でも買い手でもないため、本件に関しては完全に他人事でしかない。しかしそれでも、落札結果を聞いたときは本当に嬉しかった。正義が勝った――と言うと大げさだが、「本当の美しさ」が勝利した瞬間を、見ることができたような気がしたからだ。


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※ 本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合があります。予めご了承ください。

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