国産絶版スポーツカーの人気は今や世界レベル。とある超高級車オークションをのぞいてみると、「トミーカイラ」が日産自動車「GT-R」をベースに作ったコンプリートカーの推定落札額が1億円を超えていた。どんなクルマなのか、じっくり見てきた。
「Tommykaira R-z」とは?
日本発信型の本格派オークションハウスとして活動するBINGOは先ごろ、オートバックスセブンのコンセプトストア「A PIT AUTOBACS SHINONOME」にて、希少車やオーナーのヒストリックな逸話の残る車両をそろえたオークション「COLLECTIBLE AUCTION」を開催した。
同オークションには、競技用ベース車両としてごく少数が作られた日産「フェアレディZ432R」などの希少車が多数出品されたわけだが、なかでもとりわけ目を引いたのが「予想落札額1億2,500万~1億7,500万円」との発表があった「Tommykaira R-z」だ。日産「スカイラインGT-R」のトミーカイラ版である。
「トミーカイラ」とはご存じのとおり、かつて京都市にあった自動車メーカー「トミタ夢工場」が製造・販売していたコンプリートカーのブランド名。ちなみにそのブランド名は、創業者である富田義一社長と解良喜久雄副社長の名字を組み合わせたものだ。1987年以降はR31型日産スカイラインをベースとする日本初の公認コンプリートカー「Tommykaira M30」を皮切りに、数多くのコンプリートカーを世に送り出している。
今回のオークションで1億円以上の落札予想額となった「Tommykaira R-z」とは、そんなトミーカイラが製造したBNR34型スカイラインGT-Rベースのコンプリートカー「Rシリーズ」の最強バージョンだ。
走行距離はたったの2万km
Rシリーズには最高出力365hpを発生する「R」、同420hpの「R-s」、同530hpの「R-z」の3モデルがあるが、今回の出品車両は最上位グレードにあたる「R-z」。ベース車両はBNR34型日産スカイラインGT-Rの最上位グレード「V-Spec」だ。
「Tommykaira R-z」の特徴をまずエクステリアから見ていくと、フロントマスクの開口部は通常のBNR34型GT-Rよりもかなり大きい。必要な冷却やダウンフォースを効率的に得るため、開口部を極限まで広くしたわけだ。そしてフロントのブリスターフェンダーも、よく見ると日産製の純正フェンダーではなく、もともと筋肉質なそれをさらに拡幅した専用ブリスターフェンダーである。さらにボディ後方のウイングは、アルミステーに装着された大きな2段式ウイングに角度調整機能付きのフラップを追加した「トリプルウィングスポイラー」であることがわかる。
インテリアに目を移すと、トミーカイラのエンブレムが刺繍された専用シートやアルミ削り出しのメーターパネル、トミーカイラオリジナルのデジタルスピードメーターが目を引く。なお、メーター内にはシフトアップタイミングを表示する独自のランプも付いているようだ。
ボンネットの下に鎮座するRB26DETT型直列6気筒DOHCターボエンジンは、純正の2,568ccから100ccボアアップされるとともに、専用クランクシャフトと専用タービンを採用することで、前述のとおり最高出力530hpをマーク。そんな高出力を受け止める足回りは、ショックアブソーバーがビルシュタイン製。ホイールにはF1でも採用される鍛造マグネシウム製削り出しの19インチホイール「PRO R」を用いることで、バネ下重量を徹底的に軽減している。ブレーキキャリパーはAP Racing製6ポットで、ローターも同じくAP Racing製だ。
こちらの車両のオーナー氏は「15年前にひとめぼれして購入して以来、車検や整備に出す以外ではほとんど乗っていない」とのこと。そのためオドメーターの数字は、26年前の車であるにもかかわらず20,910kmにとどまっている。
なお、「Tommykaira R-z」は街のショップが作った改造車ではなく、「トミーカイラという自動車メーカーが作った日産車ベースの完成車」であるため、整備や車検は近隣の日産正規ディーラーに普通に依頼できるというのもひとつの特徴だ。
入札の結果は!
そんな「Tommykaira R-z」は、今回のオークションでは1億2,500万~1億7,500万円との落札予想額が発表され、オークション当日も1億1,250万円までの入札があった模様。残念ながら(?)最低落札額には届かなかったため流札となったわけだが、それでも新車価格1,050万円だった車に1億円以上の、つまり元値の10倍近い金額での入札があったのは事実である。
いやはや、国産絶版スポーツカーの人気っぷりには驚くほかないわけだが、日産が製造した普通のBNR34型スカイラインGT-R V-SpecII Nurでも6,000万円以上、あるいは7,000万円以上の売価となっている今、わずか数十台しか作られていない「超特別なBNR34」の価格が1億円以上となるのは、むしろ普通のことなのかもしれない。
海外には車そのものに、あるいは希少絶版車の投資価値に目がないスーパーリッチがいくらでもいて(実際、オークション当日も海外バイヤー勢の姿が目立っていた)、日本にも少数ながら、車に目がないスーパーリッチはいる。彼ら・彼女らが何らかの事情により全世界的に没落でもしない限り、Tommykaira R-zやランチア「デルタ インテグラーレ」のファイナルモデル、あるいは空冷エンジンを搭載していたポルシェ「911」などの絶版名車の相場は、これからも上昇し続けるのだろう。