この記事では、マネジメント、コミュニケーション研修講師として、階層別教育、プレゼンテーション、話し方などの分野で年間120回以上の講演を行っている濱田秀彦氏の新著『仕事で伝えることになったら読む本』(アルク刊)より、一部を抜粋して紹介します。今回のテーマは「動かすカギは肯定表現」。
動かすカギは肯定表現
例えばマニュアル作成をお願いするときに、肯定表現として「チャート、帳票の図、スクリーンショットなどビジュアルを多用して」という表現があります。
一方で、これを否定的な表現にすると、「文字ばかりにならないように」という言い方になります。
否定的な表現では、人は動けません。それに、否定的な表現が多い指示は、相手に息苦しさを感じさせます。否定的な表現はデメリットだらけなのです。しかし、人間は否定的な表現をしてしまうものです。それはなぜか。「見たくない景色を見た」という経験しているからです。
自分はパッと見て感覚的にわかるマニュアルを希望していた。しかし、見たのは文字だらけで、わかりにくいマニュアルだった。そういう経験をしていると、つい「文字ばっかりのものはやめてくれ」と言いたくもなります。
だから、意識的に肯定表現を使う必要があるのです。
ここで、試しに肯定表現の練習をしてみましょう。次の表現を肯定表現に改めてみてください。
(1)ミスするな→[ ]
(2)見落とすな→[ ]
(3)諦めるな→[ ]
(4)忘れるな→[ ]
(5)勝手に判断するな→[ ]
いかがでしょう。瞬時に答えが出せなければ実務では使えません。でも、慣れていないと直感的に答えを出すのは難しいでしょうから、慣れていきましょう。
解答例は、(1)ミスするな→完璧にやろう、(2)見落とすな→きちんとチェックしよう、(3)諦めるな→粘り強くやろう、(4)忘れるな→きちんと覚えよう、(5)勝手に判断するな→事前に相談してなどです。
もちろん別解答もありますので、これ以外は間違いというわけではありません。例えば「(4)忘れるな」に対しては、忘れる前提で「メモしよう」もOKです。
では、少し慣れたと思いますので、もう一度、言い換え問題を解いてみましょう。
気を抜くな→[ ]
パッと答えが出せましたか。出せたら肯定表現に慣れたということです。解答例は「集中してやろう」といったものです。
こうして肯定表現に慣れても、反射的に否定的な表現は出てしまうもの。それは、人間ですからやむを得ません。だから、否定的な表現を言った後で、肯定表現を足せばよいのです。そして、足すならば「集中してやれ」よりも、「集中してやろう」という「レッツ!」な表現が明るく感じられよいでしょう。
読者のみなさんは、この段階で自分が否定的な表現を使えば、気づくようになっているはずです。例えば「気を抜かずに」と言った時、(否定表現だ!)と気づきますので、「集中してやろう」を足せばよいのです。
これは文章でも同様です。業務通達を作る、メールやビジネスチャットで指示を出す、ポスターや張り紙など掲示物を作るときも同じように、肯定表現を使います。
以前にこんなことがありました。私の行ったセミナー会場に、飲み物の自動販売機が設置されていました。その横に「カンはここに捨てないでください」と書かれた張り紙があったのですが、それを見たセミナー受講者は「で、どこに捨てればいいの?」とつぶやきました。実際には、カンを捨てる場所は少し離れたところにあって、気づきにくい場所でした。
おそらく、自動販売機の管理者は、ペットボトル専用の捨て場にカンを捨てられて困った経験があるので、「カンは捨てないで」と書いたのでしょう。同情しますが、否定表現で終わらず、「カンはあちらに」と矢印で書き足せばよかったのです。
このように、肯定表現を足せるチャンスは身近に多くあります。今日から「レッツ肯定表現!」でいきましょう。
『仕事で伝えることになったら読む本』(濱田 秀彦/アルク)
「伝わらない…」には、誰もがハマる原因(ワケ)がある! 5万人を教えた人気研修講師が、「仕事で伝える」ときのコミュニケーション方法を、6大シーン別に解説。一方通行から卒業する「伝え方」の必読書が登場です!