上級グレードで700万円を超える大型SUV「CX-80」を発売したマツダ。高級路線にジワリと舵を切ったような感じだが、実はマツダには高級車を作ってきた歴史がある。今回は「ルーチェ」というマツダ車を振り返ってみたい。
マツダが東洋工業だったころのフラッグシップ
「ルーチェ」と聞いてピンとくる人は少ないだろう。かつてマツダが生産していた高級車だ。
自動車メーカー「マツダ」がまだ「東洋工業」を名乗っていた時代に、軽自動車でも貨物自動車でもなく、乗用車への参入を目指して開発したのがフラッグシップモデルの「ルーチェ」だ。発売は1966年だった。1,500ccのエンジンを搭載した乗用車としては非常に珍しい6人乗りセダンで、直線的で伸びやかなスタイリングが特徴的だ。
「ルーチェ」には「光」や「輝き」といった意味があるそうだが、その名に恥じないデザインでヒットしたルーチェはその後、29年にわたって生産され続けることになる。1969年にはロータリーエンジンを搭載したクーペタイプ「ルーチェ ロータリークーペ」も登場し、こちらもヒットした。
1972年にルーチェは2代目へと進化するが、エクステリアに初代の面影はなく、大胆なフロントフェイスが与えられた。いわゆる「アメ車風」になったことで、好みは分かれた。ただ、当時、ほかの多くのメーカーが達成できずにいた自動車排出ガス規制に適合したことで、クリーンなイメージを獲得することに成功。低公害車として税制優遇を受けられる最初のモデルとして人気を不動のものにした。
とはいえ、第1次オイルショックなどでロータリーエンジンの燃費の悪さが際立ってしまい、それまで好調だった販売に急ブレーキがかかってしまった。
ルーチェが教習車に?
さらに上級感を高めて高級車としての巻き返しを図るべく、1977年に登場したのが3代目「ルーチェ」の「ルーチェレガート」だ。縦型配置のヘッドライトが特徴で、重厚な雰囲気が漂う高級車らしいデザインとなっている。筆者がかつて勤務していた教習所では、このルーチェレガートが教習車として使われていたこともあり、なんとなく思い入れがある。
1981年にはマツダが生産していた乗用車「コスモ」の兄弟車として4代目「ルーチェ」が登場。内装の大幅なアップグレードを遂げていたものの、縦配置のヘッドライトは廃止となった。よりシンプルで大衆受けを狙った、比較的おとなしい印象のモデルとなったわけである。
4代目の販売が比較的好調だったことから、1986年には5代目へのフルモデルチェンジを実施。さらなる高級路線を追求した。例えば、減衰力を自動で調整する「オートアジャスティングサスペンション」や前後席のパワーシート、後席専用のクーラーが標準装備となるなど、快適性を重視したモデルとなった。
この5代目ルーチェは今でも街で時々見かける。筆者も昨年、地方都市で1台だけ走っている姿を見かけた。また、タクシーや営業車などでも多く使われていたため、このデザインを覚えている人は多いだろう。
代を重ねて進化してきたルーチェだが、1995年には5代目の生産が終了。通算29年の歴史に幕を閉じた。
学生が蘇らせた「ルーチェ」とは
「ノスタルジック2デイズ2025」のNATS 日本自動車大学校ブースに展示されていたのは、鈑金や塗装などを専門に学ぶ学生が手掛けた1968年式のルーチェだ。製造から57年が経過したとは思えないほど、きれいに蘇っていた。まるで新車のような輝きだ。
フロントにはJAFの会員であることを示すエンブレムなどが当時のまま残されていた。さらに注目すべきはナンバープレート。都道府県を表す漢字が1文字で表記されていて、時代を感じさせる。
学生らは損傷してしまった車両を預かり、修復を続けていくという。学生は技術を磨くことができるし、オーナーは新車の輝きを取り戻せる。まさに一石二鳥だ。今後も、まだ眠っているたくさんの旧車を蘇らせてほしいものだ。