働き方改革が推進される中で、特に大きな注目を集めている「長時間労働の是正」。しかし、計画なしにルールを定めたりツールやシステムを導入したりしたとしても、それを社内の文化として定着させなければ絵に描いた餅にすぎず、働き方改革の実現に失敗するというケースも少なくない。
「企業にとって、そして社員にとって本当にのぞましい働き方を提供するための改革とは何か?」
本記事では、2019年2月26日に東京・新宿で開催されたセミナー「〜社内のカルチャー(文化)を変えるには〜ツール導入だけでは推進できない"働き方改革"」を参考に、働き方改革を成功に導くために重要な、「カルチャー(文化)」の変革について解説する。
コラボレーションの本質は、社内外で「共創」を推進すること
基調講演に登壇したのは、Slack Japan 溝口 宗太郎 氏。講演冒頭で溝口氏は、昨今の日本企業を取り巻く、やや憂慮すべき実態を紹介した。
2018年12月に公益財団法人・日本生産性本部が公表した「労働生産性の国際比較」(*1)によると、2017年における日本の労働生産性は主要先進7カ国(G7)で47年連続で最下位となっている。労働生産性を上げるためにはICT投資が必要だが、主要国と比較すると日本の投資額はあまり増えておらず、しかもその対象の多くが保守・メンテナンスなどといった“守りの投資”となっている。
溝口氏はなぜ冒頭にこの事実を紹介したのか。その理由について、同氏は将来の日本における生産年齢人口減少の問題を挙げた。少子高齢化が進み、2050年には日本の総人口は1億人を切ると推察されている。また、それに伴い2060年には、日本のGDPは現在と比較して4分の3程度に縮小するともいわれている。生産年齢人口減少によって起こる労働力不足が、これから先の日本企業を苦しめることは明らかである。
(*1)
公益財団法人 日本生産性本部
日本の時間当たり労働生産性は 47.5 ドル(4,733 円)、OECD 加盟 36 カ国中 20 位
https://www.jpc-net.jp/intl_comparison/intl_comparison_2018_press.pdf
「業務効率や生産性の向上は決して簡単なことではありません。しかし人口を増やすよりは、たやすいはずです」(溝口氏)
では、具体的のどのようにして「業務効率」や「生産性」の向上を実行するのか。その手法として同氏は「共創」というキーワードを挙げた。
業務効率や生産性を劇的に向上させるためには、なにかしらのイノベーションが必要となる。そのために、社内のみならず社外からも知識や技術を集めていく。そのようなケースが増えているとのことだ。
「海外では新しい知識や技術を得るために、大企業とスタートアップ企業が連携することもよくあります。一方で、社内にも画期的なアイデアを持つ人がいるかもしれません。社内の知識や技術を共有させ、そして流通させていく。そうすれば化学反応が起きてイノベーションが発生します」
大切なのは、今まで交わっていない人同士が社内でも社外でもつながり、様々な人が持つ知識や技術を共有してコラボレーションすること。それが共創という考え方であり、それを実現する役割を担うものこそがSlackである、と溝口氏は語る。一般的にSlackはビジネスチャットツールという表現が使われている。だが、Slackの機能はチャットだけではなく、ビジネスコラボレーションハブとしてビジネスを推進することを目指している。「Slackの本質は、ある目的を持ったグループの中でのコミュケーションと、データ・アプリケーションをひとまとめにしてコラボレーションを加速すること」だ。
Slackは1,500以上のサービスと連携している。これにより、例えばGoogleドライブのデータを共有してメンバーから意見を募ったり、グループのメンバーとビデオチャットで会話したりすることもできる。なお、セミナーではSlackのチャンネルからビデオチャットツールであるZoomを立ち上げ外部と会話をするデモが紹介された。
また、Slack上でのコミュニケーションは、履歴が保存されており、いつでも見ることができる。例えば、業務の引き継ぎが発生した場合でも、後任者はSlackでのやり取りを確認すれば、細かい経緯も含めて理解することができるだろう。
ただし、どれほど優秀なツールであっても、導入しただけでは効果が生まれない。コラボレーションを加速させ、イノベーションを起こすためには、会社のカルチャーを見つめなおすことも必要となる。そのためのポイントとして、溝口氏は以下の3つを挙げた。
1.全員が納得して参加する
「上から言われたから使う」のではなく「使うことで何がよくなるのか」、その理想像を経営陣も含めて共有することが大切。
2.時代にあわないルールの撤廃
いまだに多くの企業では「大切な会話は直接会って」という意識が根強い。だが、本当に大切な会話であるのなら、履歴が残るツールを使った方が便利ではないだろうか。書類の確認も、紙で行うよりツール上で行う方が圧倒的に早く効率的だ。業務効率化や生産性の向上を本気で目指すのなら、社内のルールも時代にあったものに更新すべきである。
3.自発的に共有する文化の醸造
コミュニティに参加している人たちが積極的に情報を発信していかなければ、コラボレーションは活性化しない。だからこそ、まずは自由に発言できる文化を醸造することが大切になる。
例えば、Slack社内には、全社員に公開された状態で、経営陣が社員からの質問に答えるというチャンネルがある。このように、役職や社歴にかかわらず自由に意見交換ができる空気を演出するのも有効な手段の1つだろう。
「日本企業の生産性は低いとされていますが、一方で日本の会社員は優秀な人が多いのも事実です。その知識を社内だけでなく社外からも集めることができれば、共創によって新しいイノベーションが起きる可能性が高まります。そして、それを実現するための道具がSlackなのです」(溝口氏)
なお、Slackには多くの機能が無料で利用できる「フリープラン」がある。まずはこちらを利用してみて、共創を体験してみるのもよいだろう。