「フィロソフィ」と呼ぶ独自の経営哲学をベースに、小集団で部門別採算管理を徹底する「アメーバ経営」の実践で成長してきた京セラ。同社は今、2017年4月に代表取締役社長に就任した谷本秀夫氏の指揮の下、全社を挙げてデジタル化に取り組んでいる。

9月7日にオンライン開催されたTECH+フォーラム「製造業DX Day 2021 Sept. 事例で学ぶDX推進 ~課題と成功の勘所~」に登壇した京セラ 執行役員デジタルビジネス推進本部長 土器手亘氏は、「製造業における現場改革 - データ活用とデジタルトランスフォーメーション」と題し、その具体的な取り組みを語った。

組織の壁を壊す経営施策とデジタル化施策の連動

京セラは2020年4月、会社全体のデジタル化を推進するため、デジタルビジネス推進本部を新設した。土器手氏はその本部長に就任し、デジタル化に取り組んできた人物である。土器手氏が重視するのはデジタル化そのものではなく、意識改革だ。と言うのも、社員に「これまで通りではダメだ」という気付きを促すほうが、多方面への自発的な変化につながるためだ。

京セラとして重視しているのが、経営施策とデジタル化施策の連携である。同社は、経営課題として大きく2つのことを認識していた。

1つは「経営基盤の強化」だ。個別最適から全体最適の視点を持つ組織に変えるため、経営施策としては「セグメント制への移行」、デジタル化施策としては「情報共有基盤の構築」に取り組んだ。また、以前の京セラは事業本部制を採用していたが、外部環境の変化に適合しやすい体制にするため、「コアコンポーネント」「電子部品」「ソリューション」「コーポレート」の4つのセグメントに再編した。この組織改革には、各セグメントの担当役員にトップの権限を移譲することで、意思決定の迅速化を促す狙いがある。部門間の人材流動性を活発にするには、情報の流動性向上も必要になるため、情報共有基盤の整備も進めた。

もう一つの経営課題が「組織風土の改革」である。自由闊達で若手が活躍できる風土に変えるため、経営施策として「人事制度や就労環境の変更」を実施した。将来のキャリアとしてマネジャーかエキスパートかの選択肢を用意するなど、キャリアの複線化を制度に織り込むことや、360度評価制度の導入、リモートワークを前提とするフリーアドレス化などを進めている。デジタル施策としては「IT・データの活用」を実施。若手が年輩の上司のデータ活用の”先生”にあたる「リバースメンター」になることで、上下関係の壁が徐々になくなり始めているという。このほか、経験のあるベテラン社員にしかできなかったことをデータ化する暗黙知の形式知化も進める。

「組織の壁」が問題視されるが、京セラの場合は「本部間の壁」「製造と販売の間の壁」「職制及び世代の間の壁」に悩まされていたという。以下の図は、3つの壁を取り払うために実施した経営施策(青)とデジタル化施策(緑)を示したものだ。

イメージ図

京セラが一枚岩の組織に変わるための経営施策とデジタル化施策

「両方を連動させて、最終的には一枚岩の組織にしたい」と土器手氏は意気込みを見せる。