長引くコロナ禍は世界に大きな影響を与え、人々は急激な変化を強いられた。それはビジネスの世界においても例外ではない。

書籍

例えば、従来の営業活動では相手先を訪問するのが当たり前だったが、現在はまずオンライン商談で信頼を得ないと訪問まで至らないケースも多い。また、人々の価値観も大きく変わったことから、どうすればビジネスで成功を収められるのかという”正解”も見えづらくなっている。

このような時代に、ビジネスパーソンはどんなスキルを身に付けるべきなのだろうか。その1つの解として「コンプレックスを武器にせよ」と主張するのが、元お笑い芸人で、現在は転職支援や組織改革コンサルティングなどを行う株式会社俺にて代表取締役社長を務める中北朋宏氏だ。

中北氏は2021年2月に2冊目の著書となる『コンプレックスは営業の最高の武器である。』(発行:日本経済新聞出版社)を上梓。同書は、コロナ禍で激変するビジネス社会を乗り切っていく上で有効なテクニックが詰め込まれた一冊となっている。

今回、中北氏に本書を執筆するに至った経緯や、本書で伝えたかったことなどを聞いた。

重要なのは「共感」を得ること

――本書は中北さんにとって2冊目の著書となります。本書から初めて中北さんのことを知った読者のために、まずは自己紹介をお願いします。

中北氏:もともと浅井企画に所属するお笑い芸人として6年間活動していました。その後、お笑い芸人の道は挫折し、人事系コンサルティング会社に入社して、幅広く人材育成に携わりました。2018年に株式会社俺を創業し、”夢諦めたけど人生諦めていない人のために”をコンセプトに、お笑い芸人から転職支援や笑いの力で組織を変える「コメディケーション」を展開しています。

――前著『「ウケる」は最強のビジネススキルである。』は、お笑いのスキルを生かした営業テクニックを指南する一冊として注目を集めました。今作のコンセプトは「コンプレックス」ですが、こうしたテーマで執筆することになったきっかけを教えてください。

中北氏:大きなきっかけは、コロナ禍で営業スタイルががらりと変わったことです。ご存じの通り、”密”をなるべく避ける目的からオンライン営業が広まり、今ではオンラインとオフラインの2つを織り交ぜた営業スタイルが常態化しつつあります。

ただ、オンライン営業はまだ歴史も浅く、皆さんどうしたらいいのか手探りなところもあります。特にオンラインでは信頼関係を築くのが難しく、なかなか訪問できるところまでたどり着かないというケースも多いのではないでしょうか。

――確かにオンラインでの対話はオフラインとはまったく違う感覚があります。オンライン取材も増えましたが、やはり対面とは感覚が違って戸惑うことも多いです。

中北氏:オンラインとオフラインでは目的も必要なスキルも違う点が1つの理由でしょうね。営業の場合、これまでは何度も訪問し、徐々に仲を深めていけば良かったのですが、今はオンラインで情報を引き出した上で信頼も得て、オフラインで”決める”営業スキルが必要です。

中北朋宏氏

株式会社俺 代表取締役社長 中北朋宏氏

――営業スタイル以外にも変化を感じることはありますか。

中北氏:リーダー像も大きく変わりました。今までは旗を立てて周りを巻き込んでいく「カリスマ型リーダー」が良いリーダーでした。しかし、変化の激しい現在のビジネスシーンで生き残るためには、1人のカリスマの力では限界があります。今後、求められるリーダーは、旗を立てて助けてもらう、いわば「共感型のリーダー」でしょう。

――旗を立てる、つまり「ビジョンを示す」ところは変わらずリーダーの仕事ですが、その先が違うのですね。

中北氏:はい。この「共感」こそがコロナ禍で激変したこれからの時代を生き抜くための重要な要素なんです。オンライン営業で信頼を得るためにも共感は必要ですし、周りに助けてもらうリーダーも共感を得られなければ助けてもらえません。

――どうやって共感を得る力を高めればいいのでしょうか。

中北氏:私は、共感を得るための最強の”武器”こそが「コンプレックス」だと考えています。これが、コンプレックスを本書のコンセプトにした理由です。

“武器になるコンプレックス”とは?

本書では前著に引き続き、物語形式が採用されている。何をやってもダメな会社員、中本陽太の元に、未来の中本陽太がボロボロの姿で現れ「このままではお前は失敗を繰り返し、将来は地獄になる」と告げる。これを回避すべく、未来の陽太の指導の下、現在の陽太が「売れる営業」を目指す――というストーリーだ。

――未来の陽太と現在の陽太、2人の掛け合いがユーモラスで楽しく、ビジネス書とは思えないほど読みやすく仕上がっています。

中北氏:ありがとうございます。自分自身、ストーリー仕立てのほうが書くのが楽ということもあります。お笑い芸人時代、ずっとコントの台本を書いていたので、掛け合いを作るのは得意なんです。とはいえ、執筆中に子どもが生まれたことなどもあって、多忙な中で書いていくのは前著以上に苦労しました。書き上がった日は思わず泥酔してしまいました(笑)。

中北朋宏氏

――本書のテーマであるコンプレックスについて、もう少し中北さんの考えを聞かせてください。コンプレックスは通常、自分自身でもあまり触れたくないし、それが営業スキルになると言われてもピンとこない人も多いと思います。

中北氏:その気持ちはわかります。僕自身もコンプレックスを抱えて生きてきた人間なんです。お笑い芸人を辞めたときも苦しみました。本当になりたいものになれなかった自分にコンプレックスを抱えてしまったんです。でも、その後改めて違う夢ができたときに、むしろコンプレックスを武器に変えることができました。

本書で言っている「コンプレックス」とは、「辛かったけれど乗り越えられた経験」のことです。乗り越えた――つまり”昇華できている”コンプレックスを人に開示していくことで、強い「共感」を得られるのです。

ちなみに、ちゃんと乗り越えられていないコンプレックスを開示しても、相手もリアクションしにくいし、気まずい空気が流れます。

――本の中でも、毎回自虐ネタですべっているキャラクターがいましたね。開示することで共感を得て、相手との関係性を深められるようなコンプレックスは、どうしたら見つけられるのでしょうか。

中北氏:まずは、自分の辛かった経験を洗い出すことが必要です。そして、その経験が自分に与えたプラス/マイナス効果を徹底的に探ってください。その上で、改めて整理していくんです。本書では、開示方法まで具体例を交えながら一連のプロセスをたっぷり説明しているので、ぜひ実践していただきたいと思います。