Webサイト構築システム「Movable Type」を提供するシックス・アパートは、最もテレワークを成功させている企業の1つだ。

元は米国企業だった同社は日本企業に買収された後、2016年にEBO(Employee Buy-Out:従業員による企業買収)で独立を果たし、30人規模の小さな企業として再出発。このとき「SAWS(Six Apart Working Style)」と名付けた新しいワークスタイルを策定し、テレワーク導入を進めていった。その結果、厚生労働省による「輝くテレワーク賞」や総務省主催の「テレワーク先駆者百選」、東京都主催の「スムーズビズ推進大賞」など多くの賞を獲得。テレワークの成功事例として語られている。

同社の従業員は30名だが、「人数が少ないから成功できたのではない。大企業でもテレワークはできる」と代表取締役 古賀早氏は断言する。では、成功のポイントはどこにあるのか。

2月25日に開催されたマイナビニュースフォーラム「働き方改革 Day 2021 Feb.」には、この古賀氏が登壇。テレワークを成功に導く考え方や制度構築の勘所について語った。

「働く場所や時間は自由」にしたメリット

シックス・アパートのテレワークの根幹を成すのが、「SAWS(Six Apart Working Style)」だ。SAWSは”同社らしい働き方”について定めた考え方であり、「出社する必要が無い会社」が基本方針となっている。

「出社する必要がない」とは、つまり「働く場所や時間は自由」ということだ。コワーキングスペースやカフェ、図書館など従業員が働きやすい場所で自由に働き、必要なときだけオフィスに出社する。仕事を中断し、子どもの授業参観に出席してから再び仕事に戻ってもいいし、帰省期間を延長して実家で仕事をしても構わない。自分の働き方を自分で決められることで生活の質が向上し、結果として従業員のモチベーションアップや成果向上につながっているという。

SAWSのメリットはそれだけではない。通勤がなくなったことで、人によってはかなりの節約になる。古賀氏自身、「往復3時間の通勤時間がゼロになった」と語る。さらに50席あったデスクは10席まで減らし、オフィスを引っ越し。その結果、移転後の下半期は、上半期と比べて4000万円のコスト削減を実現できたという。同社ではSAWS手当として月に1.5万円を全社員に支給しているが、諸々のリターンを考えればコストとしては高くはない。

コスト削減に成功

「SAWSによる変化として、仕事の開始時間と終了時間が早くなったこともあります。朝8時台にはオンラインに誰かがいて、夕方5時台には終わるようになりました。これは意図して早くしようとしたわけではなく、通勤がなくなったことで自然とそうなったのです。また、突発的な午前半休が減り、午後半休が増えました。月曜の朝などに『雪が降っていて通勤したくないから午前半休にしよう』というケースが減り、『やりたいことがあるから午後休む』が増えたのです。その結果、社員全員が健康的になりました」(古賀氏)

大切なのは「業務の可視化」

さまざまなメリットのあるテレワークだが、全ての会社がシックス・アパートのようにうまく運用できているわけではない。例えば、会社に出社しなければできない業務があるため結局通勤せざるを得ないというのはよく耳にする課題だ。

シックス・アパートでは、そうした業務についてはクラウドサービスを導入することで対応した。テレワークでのセキュアな通信にはVPNを、業務の可視化にはGitHubやRedmine、人事総務はSmartHRやMF経費、KING OF TIME、コミュニケーションにはSlackやZoomを用いている。現在、シックス・アパートは業務も給与明細も完全ペーパーレス化しており、紙を扱うために出社する必要はないという。

テレワーク化で活用したツール

「中小企業からすると、こんなにたくさんクラウドサービスを導入しないといけないのかと思われるかもしれませんが、一度に導入する必要はないし、私たちも徐々に整備していきました」(古賀氏)

特に重要なのは「業務の可視化」だという。多くの会社がテレワークの課題として挙げるのが、「社員が目の前にいないのに、どう評価すればいいのか」という悩みだ。しかし、そう感じてしまうのは、「業務が可視化されていないから」(古賀氏)なのだ。

テレワークに限ったことではないが、業務の評価とは「遅くまで会社に残っている」といったことではなく、「目標が達成できているか」で判断すべきである。前述の業務可視化ツールなどを活用して進捗状況を管理すれば、テレワークでも適切に評価は可能だ。また、成果で判断するからこそ「働く場所や時間が自由」でいられるとも言える。