スマートフォンなどによるオンラインでの動画学習が浸透してきている。さまざまなプラットフォームが存在するが、やはり大きな存在感を発揮しているのがYouTubeだ。日本でも多数の教育系YouTubeクリエイターが授業動画を公開しており、EdTech発展の鍵を握るとして注目されている。

もっとも、動画授業というスタイルが学校や塾など既存の教育の現場に波紋を広げていることも事実だ。教育系YouTubeクリエイターは教育についてどんな思いを持ち、動画を制作しているのか。

11月4日に開催された「Edvation x Summit 2019」では、著名な教育系YouTubeクリエイターである葉一氏とヨビノリたくみ氏が登壇し、自らの考えを語った。

(写真左から)葉一氏、ヨビノリたくみ氏。アプリクリエイターで海城中学高等学校 情報科 非常勤講師の増原大輔氏(写真右)がモデレーターを務めた

動画制作にかける「思い」と「こだわり」

葉一氏は「とある男が授業をしてみた」という動画チャンネルを立ち上げ、活動しているYouTubeクリエイター。動画の内容は小中高校の算数/数学に関する授業が中心で、チャンネル登録者は70万人を超える。

一方のヨビノリたくみ氏は、大学生向けの数学/物理の授業をYouTubeで発信する。チャンネル名は「予備校のノリで学ぶ『大学の数学・物理』」。チャンネル登録者は22万人を超えており、黒板を使った本格的かつわかりやすい授業に定評がある。

そんな2人のYouTubeクリエイターが、動画配信を始めたのは何がきっかけだったのか。

YouTubeクリエイターとしても古株となる葉一氏が配信を始めたのは2012年。それまで塾講師だった葉一氏は塾の月謝の高さに驚き、「親の収入で教育格差が生まれてしまう」ことに危機感を覚えたという。

ちょうどその頃、著名なYouTubeクリエイターであるHIKAKIN氏がヒューマンビートボックスの動画で大ブレイクを果たしたこともあり、葉一氏は動画というプラットフォームに注目。「YouTubeで授業の動画を投稿すれば誰でも勉強ができるのでは」と考え、投稿をスタートした。

元講師という経歴はヨビノリたくみ氏も共通している。6年間の講師経験から、ヨビノリたくみ氏は「大学の先生は研究のプロであって授業のプロではない。教養や基礎的な分野は授業のプロに任せて、その先生にしかできない専門的な授業に集中してほしい」と考えるようになり、そのサポートとして大学生向けの数学や物理の授業を予備校クオリティで発信することを思いついたのだという。

2人の授業スタイルは対照的だ。

例えば、葉一氏は基本的に編集を行わず、途中でミスをすれば最初から撮り直すスタイルだという。その理由は動画を「血の通ったものにしたい」から。ミスといっても、内容の間違い以外はカットしない。説明を噛んだりホワイトボードに足をぶつけたりすることもあるというが、それもまた授業のリアルな姿としてそのまま投稿している。

ミスをすれば全てやり直すスタイルなので、動画の制作にはかなり時間がかかる。動画のボリュームは平均10分程度だが、撮影から投稿までは短くても3時間、長いときは3日費やすこともあるという。

対照的にヨビノリたくみ氏の動画は作り込まれている。カット編集もするし、テロップも入れる。また、板書するシーンは早送りするが、カットはしないのがこだわりだという。その理由は「自身が予備校講師だったので、板書する姿も趣だと思う」から。もっとも、動画の場合は手軽に見られることも重要なので、結果として「カットはしないが早送りはする」というスタイルにたどり着いたという。

なお、あらかじめスライド資料などを作成しないのは、スライドよりも板書のほうが理解しやすいからだとか。この点については「理屈ではない」とのことで、予備校講師としての経験が生きている部分のようだ。

また、動画のなかに必ず「ボケ」を入れるのもヨビノリたくみ流。大学の授業は内容的にハードルが高いため、飽きずに見てもらえるように面白みを入れるべきなのだという。

こうした作り込むスタイルゆえに、同氏も動画制作にはかなりの時間がかかる。準備に3~4時間、動画撮影は15分の内容なら2時間ほど。編集にも3~4時間はかかる。あまりにも大変なため、運営は2人でチームを組み、編集はもう1人が担当しているという。