「未来を掴め! この手で創り出そう! 創るのは私たち自身!」――10月25日に開催された東洋ビジネスエンジニアリングの年次カンファレンス「BE:YOND by b-en-g 2018」は、東洋ビジネスエンジニアリング 代表取締役/取締役社長 大澤正典氏の力強い呼びかけから基調講演が始まった。本稿では、同社常務取締役 CMO/CTO 新商品開発本部長 羽田雅一氏、およびローランド・ベルガー 代表取締役社長 長島聡氏の2人がメインスピーカーとして登壇した基調講演「ものづくりデジタライゼーション ~これからのデジタル時代に製造業はどう向き合うべきか~」の内容をお届けする。
デジタル化を優先すべきは業務領域よりも競争領域
日本の製造業を取り巻く環境は厳しい。これまではボトムアップの現場力で競争力を維持できていたが、海外企業と戦うにはデジタル化の遅れが足かせとなる。総務省の調べによれば、2025年の日本企業のIoT導入率予測は諸外国と比べても低い水準にあるという。
羽田氏はデジタル化が進んでいない理由は2つあると説明する。1つは「人の壁」だ。デジタル人材の必要性は認識しているが、質量共に不足しているのだ。もう1つが「デジタル化の壁(ERPの壁)」だ。約30年前、日本市場にERPが入ってきたが、”強み”を組み込む仕組みがないことなどを理由に、パッケージに合わせて使うことをしてこなかった。
クラウド化の浸透で2つ目の壁は以前よりも低くなったものの、会計や人事のような業務領域ではない生産技術やSCMのような競争領域へのIT導入は、これからの課題である。羽田氏は、「難しくてもサプライチェーンのIT化に取り組まなければならない。その上でサプライチェーンとエンジニアリングチェーンの連携も必要になってくる」と訴える。
では、それは具体的にどのようなものなのか。羽田氏は、東洋ビジネスエンジニアリングが提供するソリューション例を複数紹介した。
まず「設計と生産の連携」のためのソリューションがある。日本の製造業にとって、製品設計(E-BOM)と工程設計(M-BOM)の連携は、個別の要求に応える「マスカスタマイゼーション」や製品設計における「フロントローディング」を実現する上で必須のテーマだ。その実現のため、東洋ビジネスエンジニアリングは設計系に強い図研プリサイトとの合弁会社ダイバーシンクを設立し、設計と製造を双方向につなぐものづくりコミュニケーション基盤「EM-Bridge」を開発し、提供しているという。
また、同社は生産技術の分野でも新しい試みを続けている。例えば、製造設備の信号灯(パトライト)に送信機を取り付けて稼働情報を自動的に収集し、モニタリングと評価を行う仕組みが代表的なものだ。これは大掛かりな工事が不要で、簡単な設定作業を行うだけですぐに利用を開始できる。ほかにも作業員の動きをデジタル化して作業指導に役立てる仕組みや、サイクルタイムを自動で計測して作業手順の異常を知らせる仕組みを提供している。
日本企業のIoTプロジェクトでありがちなのは、PoC(Proof of Concept)から先に進めないことだ。羽田氏は”PoC疲れ”の理由を「目的が曖昧なまま始めるから」だと指摘する。PoCをやる前に目的を明確にし、効果を測定して、うまくいかなかった場合は理由の分析までを徹底して行わなければ、スケールさせることができず部門最適に終わってしまう。それでは、グローバル競争で勝ち残ることは困難であろう。
競争領域のデジタル化をうまく実現できれば、日本企業はもう1つその先に進むことができるはずだ。どうすれば日本の製造業は自分たちの強みを汎用化して拡大し、製品/サービスの価値を高めていくことができるのか。その解となる提言を行ったのが長島氏だ。